第35話「ひまわり」
一人の女性がひまわり畑をバックに色んな人たちの写真を撮っていた。
「はい! チーズ!」
写真を撮っているのはカメラマンの楽しさに目覚めた田中未来だ。
「未来、楽しそうだね」
「本当、彼女に生き甲斐を与えてくれた唯さんは神様だな」
「そうだね。私も彼女がいなければ今生きてすらなかった」
「ははは、俺もさ。俺は律さんがいなければ死んでいたよ」
「ああ、そういや今度、ユイマールさんからお兄さんに話しがあるって」
「え? まさか? 解雇されるのか?」
「ちょっとそんな変な顔をしないでよ」
「いや、不安になるよ。だって理事長からの話なのだし」
「ふふふ、そうだね。驚くのは本当かもしれないねぇ~」
律と蝶は唯の起ち上げた社会福祉法人「ユイマールの輪」の役員へ共になり、すっかり仲良くなっていた。かつて市会議員だった父と義理も母も職員でいる。田中一家では絶望的なほど嫌悪された繭ものちにこの法人の職員となるのだが、それはまだまだ先の話になる。
少し時間を遡り、ユイマールの輪の理事長となった唯はある豪邸に招かれた。理事長としての職務でここにきた訳ではなかろう。
元歌ウ蟲ケラのバンドマンとして元ヴィベックスの社員として他ならない。
「お久しぶりです。華崎社長」
「ええ。お久しぶり。唯さん」
「そのコ、私を襲ってきたりはしないですか?」
「あっはっは、大丈夫よ? 可愛いでしょう?」
華崎は大きな虎を飼っていた。メスのベンガルトラと紹介してきたが、彼女へとても懐いているようだ。
「普段は動物園にいるのだけどね。今日は貴女にも会わせたくて呼んだの」
「恐ろしい接待ですね」
唯は苦笑いしながらお茶を啜る。
「お互い忙しいでしょう? 単刀直入に用件を伺えますか?」
「うふふ、あなたって何も恐れないのね?」
「恐れない?」
「ええ、このコを間近で目にしてそんなに動じてないのは貴女ぐらいよ?」
「華崎さんが『怖がらなくていい』って話したからです。それで用件は?」
「えぇ~ゆっくり話したかったのにぃ」
「今の私には今の私の仕事があります」
「じゃあハッキリと。歌ウ蟲ケラを再結成して欲しいの」
「ふふふ、それを喜んでお受けすると思っていますか?」
「このコが今から貴女を襲うと言ったら?」
「それでもしませんよ」
「あら?」
「貴女はわかってないようだ。歌を歌っている時に物が投げられて不愉快になる気持ちを。その投げられた物が顔に当って心身ともにできる傷の痛みを」
「そうね、ペットボトルはないわ。でも酒の入ったグラスなら何回でも」
「え?」
「私もここにくるまで色んな辛酸を舐めてきたけどさ、高校を卒業して夜の街で歌を歌い続けたの。その為に色んな男を相手にしてきた。自慢話に聞こえるかもしれないけど、身体を痛めつけられる事もあれば、下手くそだと嫌な客に酒瓶を投げられる事だってあった」
「不幸自慢ですか?」
「いいえ。貴女とは何か共鳴できる気がして仕方ないのよ。貴女たちを私たちの世界へ巻きこんだのは山里君だった。まぁ、もう、その彼も今はここにいないのだけどもね。でもね、あの日、私は1つの物語に賭けた。そしてその物語はまだ終わってないと思うの」
「余計な慰めなんていらない」
「ねぇ? 貴女ってメテオシャワーフェスが何で始まったか知っているの?」
「………………知らないです」
「ええ、知らないわよね? 噂話ぐらいで。あの噂話は半分本当で半分嘘よ。まぁせっかく広島から東京までやってきたのだから、それだけ聞いて頂戴よ?」
「話を聞くぐらいなら。あの、1ついいです?」
「ん? どうぞ?」
「おかわりくれますか? このお茶が美味しい」
華崎は指を鳴らして家政婦を呼ぶ。彼女にお茶を持ってくるよう頼んだ。
「ははは、どこの映画の1シーンだよ」
唯は苦笑いしつつ、話を聞いてすぐに出ようと心に決めた。
このあと心変わりをすると知らずに――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪虎を飼っている華崎さんはネタです(笑)リアルじゃありません(笑)まぁでもぶっ飛び過ぎていると思って「普段は動物園にいるよ」っていう設定を加えました。さて何で彼女はペットのベンガルトラを唯との会談に呼んだのでしょうか?この答えは敢えて本作で明かす事はございません(笑)予想してください(笑)ちなみに次回もこの場面の続きから始まります。まりんあくあさんはすごく注目してみるかもですね。また明日☆☆☆彡




