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第34話「しゃぼん玉」

 その男は生まれながらにして音楽の才能に秀でていた。



 両親はいずれも若い時に音楽家として活動していた経歴を持つ。



 もっとも、それを生業としていた訳ではない。しかしそんな両親の元で生まれ育ったその男はメキメキと音楽家としての頭角を現す。



 10代のときにラジオ局が開催したオーディションで彼は当選を果たし、そのラジオ番組をキッカケに歌手の道を築く事となる。



 高校卒業して間もなく前園愁然から所属アーティストとしてのオファーを受け、ヴィベックス所属アーティストとなる。その声は高校在学時にかかっていた。



 当時ヴィベックスと言えば華崎鮎美のブレイクに湧き、続々と世に人気歌手を送りだしていた。しかし専ら楽曲製作の多くを前園が担っていた。その中で唯一といっていいほど才に恵まれた男がいた。そう「桃太郎くん」こと山里桃太郎、その男だ。



 前園はある日、突如行方不明になる。妻子がいながら愛人として溺愛していた華崎とのスキャンダルもあったが、その真相は闇に葬られたままだ。



 このタイミングで華崎が社長となる。相思相愛が強かったと言われる前園の事を誰から尋ねられても彼女は無表情であっけらかんとしていた。



「知りません。どこかで元気にしていたらと思います」



 彼女のそのフレーズは世間から「裏流行語大賞に入る」と言われるほどに世をざわつかせた。ヴィベックス社長になる為に彼女が前園を暗殺したのではないかなんていう都市伝説がネットでばら撒かれるまであった。




 華崎が社長になって、ヴィベックスはありとあらゆる取り組みが変わっていく。楽曲製作を担える新人アーティストを積極的に採用しだしたのだ。これまで前園と山里が担っていたその役目を社内の多くの人間ができるようになる。



 そうなれば山里も面白くない以上に焦りが生じた。



 ヴィベックスはグループをYグループ、Mグループ、Oグループという3つの部署に分けて各々がアーティストへのオファーと契約を担う。その中でも山里のYグループはアーティストの成功の度合いが頗る高かった。



 何故ならテレビ番組のプロデューサーなどと山里は積極的にコネを結び、その特権を活かして面白いようにして所属アーティストを食いものにしていたからだ。その噂は彼がYグループ取締として飛躍する頃から広まって、歌ウ蟲ケラの件で遂に露呈する。




 彼の末路は呆気なく訪れた。




 彼はその生を授かり、その夢を叶え続けた東京の青空を仰ぎ見た。



 彼は音楽以外に特に秀でたものは何もない。人とのコミュニケーションだって自分が偉い立場で部下なら年上の人間にも酷くあたってきた。



 どう生きていったらいいのか分からないのだ。



 溜息をついて配給のパンをゆっくり味わうように噛みしめる。



 彼は東京の空の下でホームレスになっていた。



「よぉ。どうだよ? “社会のゴミ”になった気分は?」

「お前は」



 彼に話しかけてきたのは彼がかつて社会のゴミと罵った部下の女だった――



∀・)読了ありがとうございます♪♪♪本日の更新より金曜~日曜の毎週3日間の更新で連載してゆきます。久しぶりの投稿が山里の話からという意外さ。評価して貰えたら嬉しいです(笑)明日も引き続きどうぞ宜しくです☆☆☆彡

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― 新着の感想 ―
[一言]  なんというか山里は才能に恵まれていたけど、ほかのことは学べなかったのではないか。  それゆえに普通の人ならやらないことも、常識がないためにやってしまった感じがする。  逆に才能があったため…
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