第31話「アウト・ブルーズ」
「私はもうここで終わりにしたいと思うけど、みんなはどう思う?」
唯の提案はあまりに突飛なものだった。
「俺も。ベースの仕事自体は続けたいけど、このままあの河童の言いなりになるぐらいならお断りや」
「私も。でも私はユイマールについていこうと思うよ。ウンタナーでなくなっても」
「私も。正直、これからどうしていくべきか考えがつかないけど、誰かの玩具になるぐらいなら、自分からどういう玩具になるか考えちゃうほうがまだマシ」
「皆さん、凄いですね。私は皆さんがその気なら、皆さんについていく形で退社しようと思っていましたけど……」
「ムギは続けたらいいよ。ここからは私ら独自で行動する。ムギまで巻き込みたくはないからね。私らとアイツの戦い」
「あの、何をされるつもりなのですか?」
唯は他メンバーと顔を合わせる。諸伏以外の全員が微笑んでいた。
どうやら言わなくても本音が分かり合える仲間になった。
その連日投稿は唯のヴィベックス退社とバンド解散の発表から始まる。
その翌日にヴィベックス山里の解雇がニュースとなり、メンバーはそれに反応する。
「おい、どうやらアイツもお払い箱になったみたいで? どうする?」
「どうするって解散を撤回するかっていうこと?」
「違うよ。訴訟とか云々」
「あぁ~まぁ~これから地獄をみるような奴に追い打ちをかけたいっていうほど、私は鬼じゃないよ。でも動画投稿は計画どおりで」
「あいあいさ~」
美桜のユーチューブチャンネルはその1週間、最後の歌ウ蟲ケラというチャンネル名に改名した。唯の解散発表から毎日21時に動画が投稿されていく。
2日目は唯が父親の墓前で手を合わせる内容の動画。かつてプロレスラーの父のもとでテレビ出演していた子供時代の話を赤裸々に話す。
3日目は梓が社会人になって通っていたバーに取材しにいく動画。梢と久々に語り合ったその内容は4日目と前半・後半で分けた。
5日目は律がかつて働いていた「ダンダン!」を訪ねて取材するというもの。動画の最後の方では段田と律以外のメンバーがセッションをするというサプライズに富んだ内容になった。
6日目はジストペリドに挟まれる形で美桜が2人とトークを楽しむというもの。美桜が陽翔に抱きついたりするハプニングが入ったりしていて、この6日間では最も再生数がとれる動画になった。
しかしその注目には理由があった。
「ミオタさん、僕らにも曲を作ってくださいよ!」
如月湊のその発言に「あう?」と返事した美桜。
それは予期もしてないハプニングであり、幸運の産物であった。
7日目は歌ウ蟲ケラがスタジオに入って、収録をしている模様が映る。そこにLUST BULLETSの夏野と春原が突然入ってくる内容だ。
動画最後で6人が並んで歌ウ蟲ケラが解散するまでLUST BULLETS主催レーベルに彼女達が所属し活動をするという発表が為された。
この動画配信は生配信で行われてすぐにトップトレンドを飾る。
元ヴィベックスのロックバンドがタッグを組んで頂点を獲った瞬間となった。
「本当に解散するのですか?」
「おう、男に二言はないで?」
「男なのアズニャンだけでしょ?」
「はっはっは、面白い奴らだね!」
華崎鮎美は紅茶を啜りながら和気あいあいとしたその動画を観る。
それから彼女は静かに微笑んだ。
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