第29話「デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ」
歌ウ蟲ケラはアルバム「殺しのメロディーたち」のリリースから半年経ってもなお全国ツアーを開始せず、ガキのお仕えを中心にお笑い系のとりわけ体を張るようなバラエティ番組の出演が増えていった。
ガキのお仕えの出演はほぼレギュラー化し、落とし穴に落とされる事があれば、子供や老人のエキストラに叩かれることに対して逆切れする姿もみせた。しまいには偽ファンのお願いを聞く形でゴキブリを食べてみせるというパフォーマンスまでしてみせた。
約1年の期間に渡ってそういう活動を展開したのち、やっとの思いで「殺しのメロディーたち」を引っ提げた全国ツアーを開始する。
しかしライブでは心無い野次が浴びせられる事も節々でみられた。
それはガキのお仕えの出演による影響に他ならなかったと思われる。
メテオシャワーフェス出演も熱望するファンは多くいたものの、ガキのお仕えからくるイメージにより拒絶する声も少なくはなかった。結局彼女たちがそこに登場する事はなかった。
ツアーの中盤、ペットボトルを投げ込まれる事が再び起きた。
演奏は急に止まった。しかし唯はこう言って演奏を再開する。
「私らのライブに来てハッピーな気持ちになるのはわかるけどよぉ、物を投げるのは違うだろ? 投げるならその身体ごと投げろ!!!」
唯は成長した。梓は横で演奏してそう思ったが、それにも限界があった。
ツアーの終盤が近づくにつれてペットボトルを投げられる回数も増えた。
唯は最初だけ注意喚起を促したが、それ以上は何も言わなくなった。
ツアーファイナル。縁深き北海道、札幌でのライブ。その日は唯の誕生日でもあった。だがメンバー全員が浮かない顔をしていた。ケーキの蝋燭の火をフッと消した唯ですら薄ら笑いしているぐらいだ。
その日、遂に1個のペットボトルが唯の顔面を直撃した。
唯はよろけたが、歌いきった。そして演奏が終わった時に観衆へ問う。
「なぁ? 今日ファイナルだぞ? 私の誕生日だぞ? 誰だよ?」
マイクを外す。それから自身が足元に置いていたドリンクを手に持ち、会場に向かってそれをぶん投げた。
会場からは悲鳴があがる。唯はマイクをとおして「ふざけんなよ!!! もう2度と私らのライブにくるなぁ!!!」と叫び、マイクを叩きつけて会場を去る。唖然としていたメンバーもそれに続く。ライブは結局そのまま終わってしまった。
翌日、ヴィベックス山里がお詫びの動画をあげた。
『このたびは歌ウ蟲ケラのライブに参加されたお客様に多大な迷惑を弊社所属のアーティストがかけてしまいました。本人らには真摯に反省して頂いて、更正をしてもらう為に1年の活動休止をして頂く事にします。傷つかれたファンの御方へは心から深くお詫び申し上げます……!』
「なんやコレ? そんな説明あったか?」
「聞いてない。私は変な噂を聞いたよ?」
「変な噂?」
「ペットボトルを投げていいって口コミを水面下でコイツがやっていたとかさ。ガキのお仕えの出演だってコイツがドンドン売りこんでいたとかいう」
「もうすぐムギと本人がくる。本人に聞くしかないでしょ?」
唯がそう言った数分後に山里と諸伏が入室した。
「このたびは大変に申し訳ございませんでした」
唯をはじめ、4人全員が山里に頭を揃えて下げた。
「いいよ。まぁお前らそもそも行儀のいいグループじゃないし、ネットじゃお前たちを擁護する声もあるからな。でも動画で僕が話したようにこれから1年間はヴィベックスの裏方社員として働いて貰う。今年もいくつか新人アーティストが我がレーベルからメジャーにでてきているからな。バックでバンド演奏をして、マネージャー業務もそうだなぁ、そこのオナベ君やデブ眼鏡ちゃんあたりにして貰おうか。やってしまった事は仕方ない。それでも仕事が貰える事をありがたいと思え。どうだ? いいな? 僕からは以上だ。諸伏、あとはお前が教えろ。じゃあな。がんばれよ~」
山里は一方的に話し、颯爽と部屋を出た。
「すいません。皆さんの想いも彼に伝えるには伝えました」
「一方的だね。でもムギにも彼にも私が迷惑をかけた事に他ならないか」
「すいません。私も私にできる限りのことはしてきたつもりですが、こんな事にさせてしまって本当にすいません!!!」
諸伏は涙ながらに土下座した。
「ムギが謝る事とちゃうやろ?」
「そうだよ。彼が言うようにそもそも行儀のいい歌を歌っているバンドでもない」
「でも裏方で1年間頑張るのっていうのは……」
一瞬静まったが「私に1つ提案がある」と唯が話してその空気は変わった。
∀・)読了ありがとうございます。ちょっとレペゼン地球がはいったおはなしになりましたね(笑)次回の更新は来週木曜日からまた4日連続更新になります。お楽しみに。




