第28話「暴かれた世界」
歌ウ蟲ケラのメジャーデビューアルバム「殺しのメロディーたち」はオリコン初登場16位で数万枚の売り上げを記録した。
「まぁ及第点はあげてええとちがうか?」
「もっと売れていたよ。当初の予定なら」
「メテオシャワーフェスの直後なら世間も私たちをもっと認識してくれたと思う。ユイマールの言うとおりだよ」
ラジオ局のロビーで梓は音楽雑誌を広げ、唯と律はスマホで色々みながら話す。そこに諸伏が入ってきた。
「明日! 音楽番組の出演が決まりましたよ!」
「おう、ここから本番やな」
「なんか一発芸を考えなきゃいけないかな?」
「リッチャン、私ら芸人じゃないからそこは何も考えなくていいよ」
アルバムをリリースから1週間経ち、世間で認知されている音楽番組へ次々と出演していく。元々動画配信のほうで活動を展開していた美桜は饒舌にメンバーらの面白い裏話を披露し、それが結果を結んでなのか「歌ウ蟲ケラ」がSNSでトレンドにあがることもみられた。
そしてテレビ出演や人気ユーチューブチャンネルでの出演も増えてゆく。
ただ一部のメンバーは勿論、マネージャーの諸伏も含めて気がかりな事がその渦中にあった。諸伏は思い立ったまま山里の部屋を訪ねた。
「何? 『ガキどものお仕え』に出演したくない?」
「はい。彼女達はそもそもミュージシャンです。音楽番組にはひととおり出演ができたのだから、次のツアーや次のアルバムに向けて彼女達は動きたいと思っているようです」
「そう? それで? それでお前はどう思っているの?」
「私ですか?」
「そうだよ。それがあるからわざわざ此処に来ているのだろう?」
「私も彼女たちと同じ気持ちはあります。彼女たちは思ってもみないチャンスを手にしたことで色んなことをやりたいと目を輝かせております」
「だから? お前はそんなガキどものお仕えを願ってしたいと」
「御言葉ですが山里さん、それじゃあまた同じ事を繰り返しますよ?」
「あ? 何だ? お前はヤクチュウだろうが? 誰がお前を雇って仕事させていると思っているの? 今すぐ奴らのところにいって出演するように説得しろ。できないようなら、ここに呼べ。僕が説得してやるからよ?」
「私はヤクチュウじゃない」
「あ? 何だと?」
「ヤクチュウじゃないよ! 売る事を手伝っただけで!」
「同じことだろうが!! 社会のゴミが!! とっとと仕事をしろ!!!」
山里の罵声に何も返さず、諸伏は静かに礼をして去った。
そのままメンバーに伝える。
「わかった。山里さんがどうしてもって言うなら私はでるよ」
「普段俺らの歌を聴かない層への宣伝にも結構なるからなぁ」
「でもあの『ガキどものお仕え』ですよ? 何をされるかわかったものじゃ……」
「いいよ。ムギちゃん、何かあったら何かあったでその時に考えよう」
テレビ番組「ガキのお仕え」は出演者を必要以上にいたぶる事で知られている悪名高き番組であった。歌ウ蟲ケラが初めて出演した時はちょっとしたドッキリをしかけられただけで特に深刻な問題があったワケでなかった。
しかし次第に彼女たちはこの番組へ頻繁に呼ばれるようになる。
諸伏の杞憂はやがて現実味を帯びてゆく――
∀・)読了ありがとうございます。雲ゆきが怪しくなってきましたね。また次号。
∀・)えっと、ミッシェルガンエレファントの「暴かれた世界」を聴いたない人はぜひ聴きましょう。




