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第26話「エレクトリック・サーカス」

 メテオシャワーフェスが終わり、各々は一旦ホテルに帰ったが、それぞれが夜の街へ出ていた。美桜と梓は元ヴィベックスのLAST BULLETS夏野から誘いを受けていた。



「あんなステージに立ってしもうたもんな。ユイマールを呼べないのがなんだか申し訳ないよなぁ」

「煙草を口にくわえながら話すのをやめなよ。何を言っているかわからないよ?」

「ええやろ? 俺のトレードマークや」



 指定の小さな居酒屋に入る。そこにいたのは夏野一人だった。



 彼はグラスを片手に店主と何かを話していたようだが、美桜と梓を見かけると「よっ」と片手をあげた。



「お一人で晩酌ですかい」



 梓は躊躇なく夏野に話しかける。



「いや、君らと話したくてね。君らと何杯か呑んだら帰るよ」

「何か御用が?」

「ああ、まぁ、座りなよ。ここの店主もバンドやっていた奴でね。今日は特別にサービスして貰えるから。好きなのを呑んでくれ」

「じゃ生で」

「カシスオレンジで」

「ギャルやな。おい」

「あいよ~」



 律はホテルのロビーで親族と会う約束をしていた。正直会いたくもない人間に他ならない男だ。



「久しぶり。大活躍だったじゃないか」

「お兄さん」



 どこかで仕入れたのだろう。メテオシャワーフェスのシャツを着た彼は微笑む。だがそれはどこか見え透いた陳腐な社交辞令にしかみえなかった。



「律も知っているだろう? 俺達家族はもう何も手に残るものはない」



 律の父は昨年起きた国会議員の選挙の買収事件で関与がある地方議員の一人とみなされた。彼は潔くその事実を認めて議員職を辞職したが、その資産の多くを手放しにしてみるも悲惨な末路を辿った。



「多くは求めない。未来のこともある。お金を貸してくれないか?」



 兄の蝶は情けなくも頭を下げた。



「必ず返すから。頼む。お前らの為に何でもする」



 律は言葉を見失う。しかし事実を告げるしかなかった。



「お兄さん、私もそんなにお金があるワケでない。今は東京近郊に住んでいても、カツカツの生活費で頑張っているの。それに……」



 やっとの思いで彼と目を合わせる。



「今の今まで何の連絡もよこさなくて突然何よ? ジストペリトと共演したから羨ましくなったの? 未来の事だってずっと心配していた。ずっと。それなのに何で今まで何も連絡してこなかった! 私を家から追い出したのは誰よ!!!」



 気がつけば「でてけ! でてけ!」と兄に怒鳴り続けていた。



 蝶は気がつけば目の前から消えていた。



 律はいつの間にか泣いていた自分を知った――


挿絵(By みてみん)


 唯は街からだいぶ離れた町の小さな飲み屋で美咲と彼女のマネージャーの康とお酒を呑んでいた。康は気を使ってか途中から席を離れた。



「ふぅ、やっと2人きりになれたね」

「気が利くマネージャーさんですね」

「私が独立してからは相棒みたいなものよ。貴女達にもいるでしょ?」

「ええ、まぁ、気が利くっていうよりはがむしゃらに一生懸命な感じかなぁ」

「ふふっ、彼かてそうよ? それはそうと今回のフェスで大きなチャンス掴んだわね?」

「アハハ……美咲さんから言われると照れちゃいますね」

「いつかのお遊戯会ライブで一緒に歌ったコがまさかこんな大物になるなんてね。人生わかったものじゃないね」



 美咲はお酒を一口飲んで続ける。



「まぁ、でも、唯ちゃん、悪い大人はこの世界にも腐るほどいっぱいいるわよ。気をつけなさい」



 そのとき店の外から罵声が聴こえた。康の声も続いた。彼はその為に外に出ていったみたいだ――




「アイツは人間じゃねぇ。人間の皮を被った悪魔か何かだ」

「山里さんが?」

「ああ、俺達はアイツがいなかったら、ヴィベックスからでていく事も考えたりしなかった。いずれわかる。俺はそういう勘が働くから最悪の事態にならなくて済んだけど、あまり我慢なんてするものじゃないぞ?」

「俺らライブスケジュールを貰うぐらいしか絡んでないからなぁ」

「ハハッ、それだけの存在ならまだいい。でもまずいって感じたら逃げろ。なぁ、ミオタニアンさん、貴女ならそれがわかるだろう?」

「………………」



 この夏野という男は美桜の今までの事を知っている訳でなさそうだ。だが彼が忠告したその内容というのは彼女達をそれから苦しめる事実に他ならなかった。



「ああ、名刺を渡しておくよ。やれなくなったらいつでも相談してくれ」

「おおきに!」



 夏野と梓は笑顔で抱擁を交わし、その席を外した。



「ほな、ミヲタ、別の店にいこうか?」

「え? 宛てがあるの?」

「ない。Benzaiさんを探しにいく」

「えぇ~それだったら私は綺羅さんか壱星君を探したい!」



 彼女たちは不安がありつつもどこか浮かれていた。



 ネオンに彩られるその街は怪しげなサーカスそのものだと美咲は彼女の歌にて歌うが、それこそが大人の現実なのかもしれない――



∀・;)勝手ながらLUST BULLETS夏野さんに登場していただきました!ただまぁLUST BULLETSといえどこの歌ウ蟲ケラのLUST BULLETSですからね。でも気になったよ!って御方は↓↓の御作品をぜひ☆☆☆彡



『夏よ季節の音を聴け -トラウマ持ちのボーカリストはもう一度立ち上がる-』

https://ncode.syosetu.com/n8380hl/

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏野を登場させて頂いてありがとうございます(´ω`*) 立派なミュージシャンに成長した夏野、なんだか親のような目線で見てしまいます笑。 夏野が美桜と梓に忠告した内容が気になりますが……このあ…
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