第24話「ベイビースターダストⅡ」
MOON HALLの終盤、大トリ前はHUN:SOCKというヴィベックス所属のラッパーがそのステージを担う予定だった。しかし彼はそのタイミングで急性胃腸炎にかかってしまった為に出演を見送られた。その代役として彼女たち歌ウ蟲ケラに脚光が当ったのだ。
ただその前に登場したメタルバンドが異様な雰囲気を持っていた。リドレスというそのガールズバンドはド派手なライブパフォーマンスで会場を異常なまでに湧かせていた。しかしその熱気というのは彼女達のその雰囲気だけでそうだったワケではないのかもしれない。
メテオシャワーフェスは全会場が高温の中でやっていた。ムーンホールの屋内会場は途中から空調を切った。お客から「寒すぎる」という指摘が入った為だ。しかしそれが仇となってリドレスが登場した時には会場内の気温が外気温を遥か高く上まわっていた。リドレスのボーカル、ヨシ・イクヨもメンバーたちもまた観客の全てが汗まみれになっていた。
『おらぁ!!! どうした!! 叫べ!! 喚け!! ここは地獄だぁ!!!』
イクヨのそのシャウトがあったときに観客席からタオルやペットボトルが投げこまれた。しかしリドレスはまったく意識になかったという。客も演者も灼熱のなかでおかしくなっていたのだ。
リドレスの出演が終わった際に10名以上の体調不良を訴える観客がでてきた事から空調がついた。ちょっとずつ涼しい空気が会場を包んだが、瞬く間に寒い会場に変わっていく。
歌ウ蟲ケラは代表曲の「殺しのメロディー」から演奏を始めた。
しかしその曲が終わるその時に1個のペットボトルが唯の顔を横切った――
会場が鎮まる。
『おい? 誰だよ? 今、ペットボトル投げた奴?』
唯がマイク越しに怒りの一声をあげる。すぐさま梓が近くに寄る。
(落ち着け! このあとの大トリの人もいる! 問題は後で訴えたらええ!)
小声であったが、そこの言葉には力があった。唯は舌打ちをして『歌ウ蟲ケラです! 宜しくお願いします!』とマイクを介して改めて挨拶をしなおした。
それから物が投げ込まれる事はなかった。
しかし歌ウ蟲ケラしいては唯が直面する悩みはここから始まったとも言われる。
6曲目の最後のナンバーを歌い終えて、最後のサプライズ出演者の名を呼ぶ。
『ここからお待ちかねの大トリ! 永口ツヨシ!!! 騒げ!!!』
唯のコールを受けて着物をきた彼がステージに現れる。音楽業界から身を引き、突如怪談師として活動を始めた異色のカリスマタレント。
ただ今日は怪談師としてではない。彼は自前のギターを持って観衆の前に立つ。
『久しぶりのお歌。怖いですねぇ。怖いですねぇ』
まさかのサプライズ登場に湧かない訳がなかった。
彼はステージを去る唯たちに小さな声でこう話した。「失礼な客も中にはいる。負けるな。お疲れ様」と。
憧れのアーティストから頂いた温かいエールであった――
「クソッ! クソッ!! クソッ!!!」
唯は楽屋の机を何回も激しく叩いた。
誰も唯に言葉をかけられなかった。そのときに諸伏が急いで入ってきた。
「皆さん! 至急ですよ! SUN HALLで大トリのバックバンドに入って欲しいっておはなしが!」
「えっ!?」
彼女達にとって青天の霹靂とはまさにこの事かもしれない――
∀・)23時にも更新があります♪♪♪思い出のメテオシャワーフェス♪♪♪最後までお付き合いを☆☆☆彡




