第22話「Voyage」
「バンで常時移動とかまるで夢がないな」
「文句を言わないでください! LAST BULLETSだってV‐Bexの所属初期はこういう移動をしていたのですよ!」
「こういうのを嫌がって退社したのとちゃう?」
「彼らは自身のレーベルを立ち上げたの! 私らに不満があった訳じゃない!」
「私は自前のウンタナーをずっと使いたいなぁ」
「ウンタナーじゃなくてドラムだぞ。いい加減その言い方なおしたら? それはそうとプロデューサーになったあの山崎って男、あの契約から何も関わってないよな?」
「あのね、私達がこうして全国ツアーできるのは山里さんが各地のライブ会場に出演を振ってくれるからなのです! あとね、そもそもこの移動で1番大変な人って誰か分かっているの!?」
「え? 車酔いしそうなゆいまん?」
「失敬な」
「メジャー所属の初ライブが茨木の500人の箱っていうのもなぁ」
「あのな! 1番しんどいのはこの車を運転し続けている私だぁ!」
歌ウ蟲ケラがメジャーデビューして取り組んだのは全国ツアーであった。彼女たちが所属しているブイベックスには1年に10組のアーティストが新人として契約する。しかし数年もしないうちに会社から見切りをつけられるか、本人らが独立するかで会社に残るアーティストは指折りの数に限られる。
そうした意味で、ある程度はそのメジャーデビューに話題性を持っていた歌ウ蟲ケラも他所属新人アーティストと篩に掛けられていた。
『こんにちわぁ~! う・る・さ・い・ぞ!』
『お前だろ(叩く)』
「おい、コレってロックバンドのライブだよな? 何でオープニングから漫才師が登場しているの?」
「ちゃんと話を聞いて下さいよ! これは茨木の町興しのイベントです!」
「『ちぇんそーまんず』か。聞いたことがないなぁ」
「アハハ! アハハハッ! でも凄く面白いよ!」
「リッチャンはお笑い好きよな?」
「ん? あそこにいるのは?」
舞台裏に楽器を運んでいた厳つい格好をした男2人が立っていた。
「与作です」
「ジョニーです」
「「宜しくお願いします」」
「あぁ~お前ら、いつかの諸伏の付き添いだった金髪とハゲか」
茨木の町おこし祭の出演から歌ウ蟲ケラの全国ツアーが始まった。
沖縄では地元で飲食店を経営する無名の青年シンガーがエルヴィスのカバーを前座で歌った。
楽屋で話してみると彼は広島出身だと言う。
「アメリカに彼女がいて。彼女が沖縄を発った際にエルヴィスを歌ってみたのがキッカケです」
「へぇ~でもすごく上手かったよ! ただちょっと気になったことがあってさ、ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい?」
「あの、ちょくちょく『ゆいまーる』って言葉をこの沖縄でみかけるのだけど、これってどういう意味なの?」
「ああ~簡単に言えば“助け合う”って意味です。僕たち沖縄はそれがあるから、いつでも団結していられるのですよ」
「ふうん。そっかぁ。君の名前は?」
「ヤマトです。沖縄っぽくないけど」
唯は沖縄の酒を一口呑んで決めた。その日から歌ウ蟲ケラのボーカルは「ゆいまーる」とした。
九州でもくまなく各地でライブを決行。福岡のライブでは律と縁が深い「ダンダン!」の面子がライブを観にやってきた。
「ウンタン! ウンタン! ウンタンタン!」
律がそう掛け声をだすと、会場中がその掛け声に合わした。
「すげぇドラマーになったなぁ。店を継がせなくて良かったなぁ」
ライブを観終えた段田はライブ会場から暫く離れず腕を組み、涙を流し感慨に耽った。
元々その活動を展開していた中四国でも各地をまわる。
続いて関西、中部、北陸、東北も周らなかった都道府県はなかった。
「ムギちゃん、顔色悪いね? 大丈夫?」
「え? ああ、大丈夫ですよ? 徐々に歌ウ蟲ケラも本当の意味で有名になってきていますし。誇り高いです」
「無理はしないで。たまには休みなよ。運転手は私達で何とかするからさ」
「いや、いいですって」
「私はムギちゃんが倒れる事があったら、このバンドを辞めるよ」
「何を言っているのですか?」
「だってムギちゃんも私たちの仲間でしょう?」
涙ながらにそう心配してくる律に諸伏はもらい泣きをした。
律の説得を受けて車の運転を暫く歌ウ蟲ケラのメンバーが担う事もした。
この時ぐらいからメンバーは諸伏のことを「ムギ」と呼ぶようになった。
全国ツアーのラストは北海道札幌市。これまで積み重ねた努力の甲斐もあってなのか、最後はこれまでで1番大きな会場でライブができた。それもワンマンで。さらにその1週間の期間で小さなライブ会場を含む6回のライブを敢行した。
「いやぁ~あの釧路のライブで一緒した『零の指弾』ってバンド凄かったなぁ」
「ボーカルの歌が上手かったよね? レイ君って言っていたっけ?」
「勿体ない感じがしたね。でも対バンしたバンドで充分力はあるのにメジャーにこられないロックバンドって本当にいっぱいあったなぁ」
「まぁ運よ。運も味方につけなきゃ成功は納められない」
ツアーの最後を終えて、楽屋で歌ウ蟲ケラの面々はラフに振り返りをしていた。
そこに諸伏が勢いよくやってきた。
「大変です! 皆さん! 来週の北海道のフェスに話しが入ってきました!」
「えっ?」
「んっ?」
「はい?」
「なんやて?」
「電話が山里さんと繋がっています!」
諸伏はそのまま彼女のスマホを机の上に置いた。
『あぁ~どうも! 全国ツアーお疲れ様! その褒美じゃないけど来週にある「メテオシャワーフェス」でウチのアーティストの1枠が空いちゃってね。その枠を君らに与えたいがどうだ?』
彼女達は疲れ切ったようでそうでなかった。
「俺らの闘いはまだまだこれからや」
「暫く北海道の人になりそうね(笑)」
断る理由などどこにもない。もはや満場一致だ。
唯が「歓んで受けます!」と答えてその決定は為された――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪いやぁ~書いていて楽しかった♪♪♪モデルとしてはレペゼン地球の下積み時代の全国ツアーがあったりします。個人的な解釈ですが歌ウ蟲ケラはおそらく信用されメジャーデビューを勝ち取ったのではなく「おもしろそうだから」でその機会を得た。そして試されたという見方でいいと思います。このあとの展開を考えるとココを抑えておいた方がいいかもです。
∀・)そして拙作の登場キャラを登場させました(笑)どの作品か分かる人には嬉しいサプライズプレゼントでございます(笑)
∀・)さぁ!いよいよ明日21時!『歌ウ蟲ケラ』でのメテオシャワーフェスを敢行します!お楽しみに☆☆☆彡




