第19話「はじまりの合図」
2010年の夏だったか。
高校を卒業または退学して6年あまり、進刻高校軽音部の4名がかつてお世話になった顧問教師の墓参りに来ていた。
「佐久間先生もウィスキーが好きだったのね」
「せや、俺もそれで好物にしたわ」
「いつから飲んでいるの?」
「機密事項や」
「大人になっても隠す必要あるのかよ」
墓参りを済ませると4人は横川駅周辺にある喫茶店に入る。安価のコーヒーや紅茶を飲みながら思い出話に耽った。
「こういうのはお酒を飲みながらしたいものだけどな」
「そうだね。そっちのほうが楽しいよね」
「律は大して飲めないクセに」
「むぅ」
「お前ら、ごっつ仲良いな。ミヲタはどうした? ちょっと痩せたか?」
「………………うん」
「話したくなければええよ。しかしなかなか都合っちゅうやつはつかんものや」
「そうね、それぞれ仕事や事情もあるものね。半年もかかって」
「半年? もっとでしょ? 4人で揃うのってそれこそ10年振り?」
「縁っちゅうやつは不思議なものよ。でも、1番不思議なのは俺がホンマに男になっても自然にしているおまえらや」
「大人だしさ? 耐性がついたみたいな?」
「先輩はどうなの? プロでやっていたっていう話を少ししていたけど?」
「あ~今はもうそれが昔。しばらく弾いとらんわ。ガソスタで働いとるよ」
「広島に戻ってきたのは? 家族がいるから?」
「あ~それよ! それを話したかった!」
梓は残りわずかなコーヒーを啜り飲みきって切りだした。
「また、お前らとバンドしたいって思って」
一同が顔を見合わせる。しかし梓は止まらない。
「なんや。辛気臭いの。そりゃあ難しければ難しくてもええよ。遊びなら遊びでええ。俺は色んなバンドを経たけど、お前らといっしょに演奏していた時が1番楽しかったから。それを言いたかっただけよ。あと」
ずっと目を合わせなかった律と梓が目を合わせる。
「ずっと昔やけど。つまらん事で怒ってゴメンな。これからは貞子先輩でええ」
律は首を横に振って「私の方こそごめんなさい」とすぐに返事を返す。そして彼女も勇気をだして切りだした。
「私も実はウンタンを今も叩けるところで叩いているよ。練習みたいな感じで。でも、もしも叩けるなら、みんなのなかで叩きたいな。ぶっちゃけそれで広島に戻ってきたもん……」
唯は何かを言おうと思うが言葉がでない。ただ梓と律の会話を聞いていた。
「ほな、りっちゃん、作戦会議でもたてるか。ホワイトボードがある所で」
「ウチの職場にあるよ! ねぇ? 借りてもいい? 私と先輩だけでも?」
梓は不思議に思った。唯はインターネットを介して歌の活動をしている。何かそこに特別な理由がない限りは話にのってきて可笑しくないのだが。
特別な理由はあった。唯は今や法人の役員であり、休日に急遽仕事にでていく事も珍しくない。やはりユーチューブで歌を投稿するのは気休めでしている事に過ぎないのだ。
それなのに何故だろう。
職場の会議室を梓に貸し出して。「貸しだしたからには責任があるから」と言い、自らもその場に居合わせたのだ。
ホワイトボードにはバンド名の候補がずらっと並ぶ。
「なんや『きらきら星ウンタナー』って。ダサすぎるわ」
「先輩の『呪怨クオリティ』より断然マシだよ!」
唯は苦笑いしながらただ見守っていた。だが彼女がチョークを持ってその名称を書きだしたときに空気は一変した。
『歌ウ蟲ケラ』
梓も律も声を揃えて「おぉ~!」と歓声をあげる。
そのタイミングでその会議室に一人入ってきた。
「わ、わ、私も入部希望しまっしゅ!」
何故その言葉がでてきたのか分からない。
しかしその雰囲気はいつかの美桜そのままだ。
はじまりの合図は確かにここで鳴り響いた――
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