第18話「HURRY GO ROUND」
高校時代の恩師が亡くなった。連絡はその家族からだ。
軽音部の顧問であり、梓が2年生と3年生のときの担任教師であった佐久間は定年退職より長らく闘病生活をおくっていた。高校時代より本音で何度も対話をしてきた梓は高校をでても、半年に一度はお見舞いにむかっていた。
病室で会う彼はベッドから離れられない身でありながらも、快活で話しやすい雰囲気を持った男のままだった。
「いつみても仏さんのような人やなぁ」
彼の葬儀で梓は寂しそうな顔をしながらも、手を合わせてそう呟いた。
葬儀の後で梓は彼の息子からSDカードをもらった。
「父が佐藤さんにこれを渡すようにと」
「俺に?」
「はい。ずっと探していたのですが、なんせこんな小さな物で」
「何か入っているのかな?」
「さぁ……父のことですから、音楽か何かだと思います」
「おおきに。お父さんによろしゅう言うとってください」
カードに入っていたのは映像だ。旧式のどこか懐かしい色彩の。
映像に映る梓はまだ体が女性だ。だけど今より尖っている気がした。
「懐かしいなぁ」
煙草を吹かしながら感慨に耽る。
彼は「歌ウ蟲ケラ」の映像を観ながらふと思った。そういえば蟲ケラトプスの面々は元気にしているのだろうか? 高校時代に登録した唯と美桜の携帯電話に電話をしてみたが、違う電話番号になっていた。
もう会う事はできないのだろうか? どうにも止まらない思いが彼を動かした。300人程度の登録者がいるユーチューブにそのドキュメンタリー動画を投稿し、彼は広島に帰省することを決心した――
動画の再生数は思いのほか4桁近くに及んだ。自身のファンだけが観ている訳でないらしい。いくつか気になるコメントがみられた。
『伝説のミオタン発見! まさかのロックンロール(笑)(笑)(笑)』
『このボーカルさん、もしかしてアニマル平澤の娘さんじゃ?』
梓は「ゆいまんとミヲタって有名人やったんか?」と思わず呟く。そしてそのままに「歌ウ蟲ケラ」とユーチューブで検索した。すると自身の動画の他にもう1つの「歌ウ蟲ケラ」を発見した。
それが唯が投稿した「歌ウ蟲ケラ」であった――
∀・)読了ありがとうございます。先週の金曜日に更新を忘れたということがありまして、そのぶんを月曜日の本日に更新させて頂きました。彼女達がやっと4人揃って会う日が近づいてまいりました。次号。




