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第17話「ever free」

 そのひとときはまるで夢のなかにいるようであった――



 いや彼の場合は夢の果てに辿りついたというべきか。



 彼のキャリアにおいて東京で仕事をするのは指で数えるぐらいだ。



 まして今回のそれは憧れの存在と一緒にするものだ。



 元SuperiorityのBenzaiがライブサポート人員という名目で集めたその面々は全員がSuperiorityやBenzaiのファンを公言している者たちであった。Benzai With Spring Bravesと題されたその特別ユニットは配信シングルをだすなど画期的なアクションまでも魅せた。そのメンバーにはメジャーシーンで活躍するバンドマンも入っていた。さらにその企画はそこだけに留まらない。彼のラジオ番組にもそのSpring Bravesの面々を呼ぶこともした。音楽シーンの多様化で衰退し始めていると指摘され始めたロックシーンに落とした雷であるとも云われた。



 梓はその風貌や特殊な経歴からも注目のメンバーとされた。



 ライブパフォーマンスではその軽やかなベースの演奏も話題に。



 しかし彼が話題になってしまうのはどうしてもそこではなかったのだ――



『ベンザイロック! 今日のゲストはスプリング・ブレイブスでベース担当してくれた佐藤梓くんです! 梓くん! 宜しく!』

『はい……よろしくおねがいします……』

『ん? 緊張する?』

『はい……こんなのは慣れてなくて……』

『君、結構話題になっているけどなぁ? ラジオ呼ばれたりしてなかったの?』

『いやぁ……ベースなんで地味なポジションやし』

『いやいや話題になるでしょ? 緑の妃や性転換手術をされたって話題だとか』



 梓はこの問いかけにチクリとしたものを感じた。



 彼は『アハハ』と笑いながら何とか話を濁そうとしたが無理だった。



『数々のバンドを渡り歩いていたっていうけど? 何故なの?』 

『緑の妃の脱退と性転換手術は関係していたの?』

『緑の妃に君と逆の性転換したメンバーがいるけどどう思う?』



 どれも答えづらい質問ばかりだ。どれも濁すような返答しかできなかった。



 そしてとうとう重たい矢が彼の胸を刺す。



『俺さ、さっきから君と話していて思うけど、君さ、何がしたいの? こういうのに慣れてないのは仕方ないにしても、それが話せないとこれからしんどいぞ?』



 言葉を失った。彼が続けざまに言った『すげぇベース上手いのにねぇ』という言葉がとても嬉しかっただけに。ただ『すいません』と苦笑いをして答えるだけで精一杯だった。



 収録を終えてBenzaiと握手とハグを交わし、それを撮って貰う。



 そのときは満面の笑顔だった。



 しかし舞台裏にいくと彼は涙に濡れた。



 何も言えなかったのだ。かつては遅刻魔だった事。そんな自分を直して緑の妃メンバーとなるも、性転換手術を機に確執が生じた事。何よりBezaiの音楽こそが大好きでスプリング・ブレイブスのメンバーに選抜されて嬉しかったこと。



 何も彼は話せなかったのだ。



 ぼんやりとテレビに映るBenzaiを観る。彼はSuperiorityの在籍時よりたまに音楽と全く関係ないお笑い系のバラエティ番組に出演する事をしていた。Superiorityでクールな立ち振る舞いを絶えず魅せていた御堂寺とは対照的なキャラクターだ。元々最初からそういう存在でなかったが、その愛くるしいキャラに魅了されて彼のファンになったという人もいる。



 自分は根っからの関西人だ。だから自然としているだけで面白い。



 それは梓のおごりだ。そんな筈もなかった。



 顔がケーキにまみれるBenzai。彼の茶目っ気のある笑顔にまた癒される。



 だけど自分はそこにいくことができないのだろう。



 やはり自分は臆病で心を開くことができない人間。



 だけどそれだけで全て諦めてしまっていいものなのか?



 携帯電話に着信がある。それは高校時代の恩師の家族からのものであった――




∀・)読了ありがとうございます。如月文人さんの『再結成』に登場する弁財さんの登場でございました!かなり脚色つけちゃったけど大丈夫かなぁ(笑)ただ『再結成』も合わせて読みとすごく深みが増す話になっていると思います。弁財さんのモデルはHideの線もあるということで、じつはテレビ番組に出演すると茶目っ気があった彼を思いだしてこんな話をつくりました。さて自分にどうしようもない心の壁があると悟ったアズニャン、そんな彼の元にかかってきた電話とは。次号。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでBenzai登場。 胸熱ですね、いやこういう企画も良いですね。 尚、自分自身はBenzaiのキャラに不満ないです。 後、タイトルのever freeが胸に染みます。
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