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第15話「Reverb」

 山田美桜は進刻高校を卒業して東京の軽音楽の専門学校に進学した。もともと中学時代に辛いトラウマを抱えて暗くなった彼女は唯の存在があってこそ少しは元気な女子でいれた。普段は人見知りが激しい性分な女子なのだ。



 しかし東京の空気は広島のそれよりもっと冷たい。



 色んな地方から個性豊かな生徒たちが集う。生まれながらにしてキラキラした東京育ちの生徒だっている。



 自分の個性はそれこそ様々な楽器が出来るという点であると言っていい筈だが、どこか彼ら彼女らに「引け」を感じてしまっていた。



 決定的なのは演習の際に言われてしまった言葉。



「美桜ちゃんって喋ったら面白いから、お笑い芸人の道もあるかもよ!」



 同じグループの人気な女子生徒からの何気ない一言。彼女の表情には嫌味すら感じない。むしろ自然にそう言っている。その事実が彼女の心をへし折った。



 気がつけば彼女は学校に行かなくなった。



 そして呆気なく退学の申請をしてしまった。



 まだ半年も過ぎてないそのタイミングで。




 退学をした事実を親に告げるのにさらに半年かかった。だが彼女は思わぬ事でチャンスを掴むことになる――




 彼女は学校やアルバイトの合間を縫って、アイドルのライブ鑑賞をする趣味を持っていた。こうした趣味は高校の軽音部の退部から教師の沢にそうしたライブへと誘われて目覚めたという。上京してその濃さはより深まる。



 彼女はテレビにでるような人気アイドルのライブだけでなく地下アイドルにも興味を示し、それは男性グループのみならず女性グループにも及んだ。



 そして彼女は思いのままブログを始めた。アイドルヲタク、ミヲタンBlogを――



 このブログの人気は徐々に広まってゆく。アクセス数ではランキングのトップ10にしょっちゅう入るなどして話題を集めた。



 さらにこれを収益化させるサービスを展開。人気ブロガーとなった頃にはもうアルバイトの収入をゆうに超えた。ゆえにアルバイトはすぐ辞め、その方面での活動に精をだした。学校の退学から半年経ち、帰省を親から促された中での奇跡の一手であった――




 しかしそれから数年後、思わぬ悲劇が彼女を襲う事となる。




 彼女はその後、動画配信サービスにも活動の袖を広げてゆく。勿論ラジオ形式での配信であり、本人の顔は全く映らない。そんな中でこんなリクエストが届く。



『ミオタンがどんな人かキボンヌ!』



 日に日にそのリクエストは増えていった。



「アハハ~私はぽっちゃりっていうかデブだからさ、みんなの夢を潰したくないのよね。アイドルヲタクがそんなだったらみんな嫌でしょ?」



『僕はそんなのでミオタンを差別したりしないよぉ!』

『むしろ私がデブです! ミオタンも豚なら私も豚!』

『ウチのほうがブサイクだから大丈夫やで!』

『ミオタンが晒すなら私も晒す! 私なんか相当よ?』

『ここにいるみんなはミオタンの味方! ブヒブヒ!』



 そのときのコメントが温かったからなのか?



「わかったよ? ちょっとだけだよ?」



 美桜は遂にその扉を開けてしまった。



「えっ?」



『うわっ!!! 想像以上のデブじゃねぇかよ!!!』

『ごめん……私でもこんなんには勝てるわ……ごめん』

『おばはん、そんな面してドルヲタしてはったんか?』

『悲惨。ここにカキコする奴も奴だが晒す奴も愚か乙』

『いつから可憐なアイドルヲタクだと錯覚していた?』



 次々と陰湿で熾烈なコメントの弾幕が流れる。



『あの? 眼鏡をかけたハート様ですか?』

『お前はもう死んでいる』

『ひでぶ~ひでぶぅ~!』

『ね? 嘘よね? ミオタンの偽物よね?』 

『女子相撲の歴史始まる』



「え……あ……あ……え」



 顔が紅潮し震えだす。そして涙が恐ろしいぐらいに溢れて止まらない。



「ウアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」



 大声で叫んで通信を切る。そのままノートパソコンを持ち上げて何回も何回も机に叩きつけた。



「くたばれ! くたばれ!! くたばれ!!! うぅ……」



 パソコンは壊れた。美桜の心も壊れた。



 修復するまでにかなりの時間を要した。




 皮肉なことに美桜の本人映像が炎上を招いたこの一件がネットニュースを駆け巡る。美桜をこのライブでみた! あのライブでみた! などという目撃証言が巨大ネット掲示板でまことしやかに相次ぐ。




 この騒動が起きている中で美桜は自身のブログをはじめ「ミヲタン」に関する全ての配信サービスを廃止した。そして東京から逃げるようにして地元広島へと帰った。そこから数年は精神病をひきおこし、実家で引き籠り同然の生活をした。




 しかし引き籠ること3年、彼女はYouTubeである動画と出会う。



「これは」



 懐かしき青春の日々が収められた『歌ウ蟲ケラ』のPVであった――



∀・)読了ありがとうございました。作中屈指の美桜の辛い話でありました。ただこれは現実にもたまにある話で……受けとめ方は人によってそれぞれだと思います。ただ僕は何が悪いのか良いのかっていう見解も含め、特にこのはなしの感想はきいてみたいかもです。歌手になろうフェスでミヲタを採用する人達には特に読んで欲しい話でもあります。さて『歌ウ蟲ケラ』のPVをYoutubeにあげたのは一体誰なのか?次号☆☆☆彡

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々な方の活動報告から参りました。最後は桜華絢爛さまだったと……。 せっかく掴んだと思った道だったのに大変なことになってしまいましたね。 誰が悪いか、もちろん、騙した方・からかった方です。 …
[良い点] リアルさに息を呑みました。SNS、こわいです。現実にこんなことってたくさんあるんでしょうね。 [一言] 12話と14話には胸が熱くなりました。闇の部分をきちんと書けるいでっち様だからこそ、…
[良い点] 最初は順風満帆か。 と思いきや絵に変えたような掌返し。 ネット社会の怖さですね。 でもここから『歌ウ蟲ケラ』の面子とどう再会するのか!!
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