第14話「Best Friend」
彼女たちが面と向き合ってゆっくり話すのはいつぶりだろうか?
何年ぶり? 十年ぶりになるか?
「私は生で」
「私も生で」
髭もじゃ青年の店主が「はいよー」と元気のよい返事をする。
ビールがふたりの手元に届き、ふたりはぎごちなくも「乾杯」と乾杯をした。ここは横川の飲み屋街。唯が職場の飲みにケーションでよく来る店だ。
「仕事はみつかったの?」
「あぁ~まぁ暫定的に?」
「何それ? バイトか?」
「牛丼屋でね。週6入っているよ」
「がんばるね。体調崩さないでよ」
「ビールをがぶがぶ飲む唯には言われたくないよ~」
ふたりはそれまでのことを赤裸々に話した。律が北九州へ送られたこと、またそこで「だんだん!」の面々とともに成長をしていった事を聞いて感心を寄せた。さらに――
「地下室にドラム!?」
「うん! 段田さんはウンタナーだったの! 私もビックリしたよ!」
やがて唯も演歌歌手の美咲と一緒に歌った事や父と再会した事も話した。その父からレスリングの修行を受けていた事も。
「唯ってプロレスラーだったの!?」
「正確にはレスリング選手だけどね」
「それって何が違うの?」
「何て言うか……でも、アレだよね。高校生の時は帰り道であんなに色々話していた仲だっていうのに、今になって知る事がこんなにも多いなんて」
「そうだね。でもあのときの私はガキだった。怖かったの」
「怖かった? 何が? 何も恐れるものなんてなさそうだけど(笑)」
「グレている私を唯やミオタに知られてしまう事が」
「そう、でも私は話して欲しかったな」
「そうなの……」
「そりゃあそうよ? 友達でしょう?」
「うん、でもいつか帰り道で話した事あるでしょ?」
「ん?」
「人に知られたくない事情」
その文言を律が吐いた時に唯は何かハッとするものがあった。
律は自身が抱えるものを唯に話していなければ、唯もまた自身が抱えるものを律に話したことがないのだ。大人になって片手にビールジョッキをこうして持つまでは。
律が「店長、生一杯!」と大声で注文する。
「飲みすぎでしょ?」
「いいの。飲み放題だし。私は夜勤だし。人の心配よりも自分の事を心配したら? 顔が真っ赤だよ?」
そんなことを言っている律の顏のほうが真っ赤だ。
気がつけば店主が「ラストオーダーですよ!」と言う時間になっていた。
律は酔いつぶれて机に涎を垂らしながら寝ている。
「あぁ~そろそろ勘定しますわ」
「あいよ! お友達は起こさなくていい?」
「私が背負っていきます」
そう言いつつも、今どこに律が住んでいるのかも分からない事に気がつく。
「すいません……やっぱり起こすのを手伝ってもらえます?」
「はい! おまかせを! お客さん、起きて! ウンタン! ウンタン! ウンタンタン!」
唯は驚いた。この店主は律の事を知っているのかと。勿論そんな事はないが。
しかし効果覿面で律はボヤボヤしながらも目を覚ました。
「タクシーを拾ってあげるよ。お家がどこか教えてくれる?」
「ゆいまんさ」
「ん? 何?」
「もう一度バンドしよう」
「え?」
時が止まったような気がした。
結局、それから律がハッキリと目を覚ますことはなくて唯の住むアパートまで彼女を運ぶ事にした。未成年時代から酒飲みだと言うのに、そこまでお酒に強くない彼女になんか可愛げを感じたりもしたものだった――
「すいません。ここまで手伝って貰って」
「いやぁ~いいですよ。だいぶ酔われていますね。お大事に」
アパートの3階まで律を運ぶのをタクシーの運転手が手伝ってくれた。
ベッドで気持ちよさそうに眠る眠り姫。目の前に現れたときは彼女が鬱陶しい存在にみえて仕方なかった。探偵の富沢が運命的に関わっていなければ、きっとこうして彼女を自分の家に招く事もなかっただろう。
「初めてだね。いらっしゃい。我が家へ」
唯は座ったまま律を見守るようにして眠りについた――
「高校時代の同級生?」
「うん」
「それで採用できると思っているの?」
「パート職員でいいよ。私たちの事業所でなくてもいい」
「ヘルパー経験は? 何か資格を持っているのかしら?」
「何も? ああ、そういえばラーメン屋の副店主を数年」
「私達の仕事とそれは関係ないわよ?」
「じゃあ私からの絶対の信頼。それ以上のものはないよ」
「まったく立派になっても困ったコね。わかったわよ!」
曄子は唯からの厚い推薦を受けた律をパート職員として採用することにした。事業所は唯が働く所と違う所である。それでも律は一生懸命に働く姿勢をみせた。彼女への信頼が高まるのに何の問題もなかった。
また唯と律は意気投合してからというもの、わずか1年でルームシェアをした。2人分の給料でこれまでより明らかに快適な住居空間に住む事となった。
「わぁ~広いなぁ~大きいなぁ~」
「同じ意味でしょ。海の歌詞かよ」
「ねぇ、ゆいまん」
「ん?」
「私さ、ここでウンタンをやってもいいのかな」
「駄目! 近所迷惑でしょうが」
「ブゥ~」
律はそのキャラクターから本気で怒っているのか冗談で怒っているのかが全く分からない。それでも改めて一生を共にする親友にしていこうと唯は微笑んだ。
『もう一度バンドしよう』
その言葉が今尚も残っている事を胸に秘めながら――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪髭もじゃの店主はホルモンの亮君を想像してください(笑)
∀・)色んな展開が入ってきてますがついてきてください。彼女達は奇跡を起こします。




