表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞4

最後の晩餐で缶コーヒーだけが無駄に品ぞろえ豊富

 俺は死刑囚だ。

 今朝がた死刑執行を言い渡された。


 てゆーかこれから執行される。


 まだ猶予があって、遺書を書いたり、好きなものを食べたりできるらしい。


 テーブルに置いてあるのはミカンとバナナとスナック菓子。

 そして缶コーヒーが山のように積まれている。


 しかも全て種類が違うのだ。


「えっと……なにこれ?」

「缶コーヒーだ」

「いや……そりゃ、見れば分かるよ。

 なんでこんなに種類がいっぱいあるの?」

「そういう決まりだからだ」

「はぁ……?」


 どういう決まりなんだよ。

 責任者は何を考えてんだ?


 まぁ……これを自由に飲んでもいいって言うんなら、好きにさせてもらおうか。


 俺は用意された缶コーヒーの中から一本を選んで、口を開ける。

 地方にしかない限定品。

 その名も宇治抹茶風味ミルクコーヒー。

 コーヒーなのか、抹茶なのか。


 一口含むと、濃厚なミルクの味わいと抹茶の風味が広がって行く。

 その中でかすかに感じるコーヒーの苦み。

 いい味だ。


 次に選んだのはゲロゲロブラックマスター。

 限界まで高められたカフェイン。

 化学物質でも入っているかのような刺激的かつ衝撃的な香り。

 頭が冴えるぞ。


 次はウルトラグレートトレンディブレンド。

 横文字を並べておけと言わんばかりのネーミング。

 味はいたって普通の缶コーヒー。

 特筆すべきことは特にない。


 他にもまだ沢山の缶コーヒーがある。

 せっかくだから遺書代わりにレビューを書き残すことにした。

 残りも全て――


「時間だ、執行する」

「まっ、待ってくれ!」


 俺は刑務官たちに引きずられて絞首台へ。

 頭に袋をかぶせられ、首に縄をくくられる。


 せっかくだから最後まで味あわせろ!

 くそったれがあああああああ!


「執行!」


 足元の床が抜け、俺の身体は勢いよく落下していく。

 ブツリと電源を切ったかのように意識が途絶えた。





















「あの、一つ聞いていいですか?

 どうして缶コーヒーなんです?」

「それはな……」


 刑務官は絞首台に開いた穴を見下ろしながら言う。


「こいつがよく缶コーヒーを飲みたいと言っていたからだ」

「え? いいんですか?」

「ダメに決まってる。だが……」


 刑務官は缶コーヒーを手に取り、口を開ける。


「死人に口なし、っていうだろ」


 コーヒーを一口含む。


 外の世界ではありふれたこの飲み物。

 塀の中の彼らにとって決して味わえない未知の味。


 そう思うと、ただの缶コーヒーですらとても味わい深く感じる。

お読みいただきありがとうございました。

もしよろしければ感想をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ゲロゲロブラックマスターが飲みたいです! でも、ブラックは胃に悪そうなので、(私は胃腸が弱い)ゲロゲロブラックマスターのミルク入りが欲しいです。ブラックじゃないですね。笑 コーヒーのネーミン…
[良い点] 最期に飲めるとなると最後まで味わいたくなりますよね。 しかもレビューしようとするなんて( ;∀;) 普通に食べたり飲んだりできることの大切さを改めて感じました! 素敵なお話をありがとうござ…
2022/12/12 13:18 退会済み
管理
[良い点] これから死刑執行で二度と飲めないとなりますと、目の前でお預けという状況は悔いが残るでしょうね。 [一言] 拘置所にいる死刑囚が市販の飲食物を食べるとしたら、親族や支援者からの差し入れという…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ