最後の晩餐で缶コーヒーだけが無駄に品ぞろえ豊富
俺は死刑囚だ。
今朝がた死刑執行を言い渡された。
てゆーかこれから執行される。
まだ猶予があって、遺書を書いたり、好きなものを食べたりできるらしい。
テーブルに置いてあるのはミカンとバナナとスナック菓子。
そして缶コーヒーが山のように積まれている。
しかも全て種類が違うのだ。
「えっと……なにこれ?」
「缶コーヒーだ」
「いや……そりゃ、見れば分かるよ。
なんでこんなに種類がいっぱいあるの?」
「そういう決まりだからだ」
「はぁ……?」
どういう決まりなんだよ。
責任者は何を考えてんだ?
まぁ……これを自由に飲んでもいいって言うんなら、好きにさせてもらおうか。
俺は用意された缶コーヒーの中から一本を選んで、口を開ける。
地方にしかない限定品。
その名も宇治抹茶風味ミルクコーヒー。
コーヒーなのか、抹茶なのか。
一口含むと、濃厚なミルクの味わいと抹茶の風味が広がって行く。
その中でかすかに感じるコーヒーの苦み。
いい味だ。
次に選んだのはゲロゲロブラックマスター。
限界まで高められたカフェイン。
化学物質でも入っているかのような刺激的かつ衝撃的な香り。
頭が冴えるぞ。
次はウルトラグレートトレンディブレンド。
横文字を並べておけと言わんばかりのネーミング。
味はいたって普通の缶コーヒー。
特筆すべきことは特にない。
他にもまだ沢山の缶コーヒーがある。
せっかくだから遺書代わりにレビューを書き残すことにした。
残りも全て――
「時間だ、執行する」
「まっ、待ってくれ!」
俺は刑務官たちに引きずられて絞首台へ。
頭に袋をかぶせられ、首に縄をくくられる。
せっかくだから最後まで味あわせろ!
くそったれがあああああああ!
「執行!」
足元の床が抜け、俺の身体は勢いよく落下していく。
ブツリと電源を切ったかのように意識が途絶えた。
「あの、一つ聞いていいですか?
どうして缶コーヒーなんです?」
「それはな……」
刑務官は絞首台に開いた穴を見下ろしながら言う。
「こいつがよく缶コーヒーを飲みたいと言っていたからだ」
「え? いいんですか?」
「ダメに決まってる。だが……」
刑務官は缶コーヒーを手に取り、口を開ける。
「死人に口なし、っていうだろ」
コーヒーを一口含む。
外の世界ではありふれたこの飲み物。
塀の中の彼らにとって決して味わえない未知の味。
そう思うと、ただの缶コーヒーですらとても味わい深く感じる。
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