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素っ頓狂な親友令嬢のせいで、せっかくの『婚約破棄イベント』が台無しです!  作者: 野菜ばたけ
とある夜会での騒動巻き起こす、国への裏切りと恋の成就
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第5話 じゃれ合って脱線



 そして。


「嫌だよ、何で僕が黙らなくちゃいけないのさ?」


 いつもほのほのとしたエレノアが彼の前でだけこんな風に強い口調で物を言うように、いつも真摯なモルドもまたエレノアの前では楽し気に毒舌だ。

 喜々としつつ、今日も相変わらず彼女の拒絶にあっさり返す。


「っていうかエレノア嬢。ちょっと君、僕に対する態度とシシリー嬢に対する態度があまりに違い過ぎない? シシリー様だってさっき君の事を笑ってたのに」

 

 不公平だ。

 モルドがそう言ったところ、エレノアは何故か勝ち誇った様な笑みを浮かべた。

 むんっと大きく胸を張り、ドレス姿で仁王立ちになり両手を腰元へと当ててこう言う。


「扱いが違うのは当たり前です! シシリー様はお優しい方。いつも私に意地悪ばかり言ってくるモルド様とは天と地ほどの差がありますもの!」

「うっわ、エレノア嬢が何か威張ってる。ちょっと意味わかんない」

「んなっ! 酷いです!!」


 機嫌良くなってたエレノアが一変、声高にキャンと吠え「ムーッ」っと膨れっ面を作った。

 しかし彼女は気付いていない。

 その様がまた、モルドを喜ばせる事に。


 怒らせておいて更に楽しそうに笑ったモルドに、おそらくエレノアは反撃のための言葉を探したのだろう。

 しかし結局思いつかず苦し紛れに「やっぱり意地悪です!」と言い放った結果、それがまんまと彼の笑いを誘ったのだから残念である。

 エレノアの頬が更に膨れる事になり、完全なる悪循環だ。


 そんな現状を前にして、私は思わずこう思う。


(まったく……本当にいつも仲が良いわね、この2人は)


 と。



 2人のこんなやり取りは、二人を知る同年代の子達なら当たり前のよう日々目撃している。


 貴族社会は縦社会で、それはそれなりの分別が付く年頃になりさえすれば自然と常識になる事だ。

 その中での『侯爵子息であるモルドに噛みつく伯爵令嬢・エレノア』という構図が、目立たない筈は無い。


 それを噛みつかれる側のモルドが公の場で度々許容する言葉を発し、その二人を公爵令嬢の私が見守っている。

 だからこそ、エレノアは誰からもこの事を非難されない。


 そういう数少ない例外だから、彼女は割と良く目立つ。



 だから二人の様子を普段から目撃している者は多くって、そんな彼らは――私も含めてこう思うのだ。

 

(((喧嘩してるように見えてこの2人のやり取りって、実はただの不器用なコミュニケーションなんだよなぁ……)))


 そうこれは、傍から見れば単なる『じゃれ合い』。

 これらのやり取りの端々に『好意』が隠れている事なんて一目瞭然なのだから、もう疑いようなんて無い。


 しかし、だ。

 

(例え周りにとっては一目瞭然な事だって、案外本人は分かってなかったりするんだよねぇー……)


 自分の中の本心に、果たして気付いているのかどうか。

 私の予想では一方は全くの無自覚、もう一方は自覚済みな上で今の関係性を楽しんでいるように見える。

 そう思えば彼の方は、意地悪な上にちょっと天の邪鬼なのかもしれない。

 まぁでも見ていて焦ったい代わりに、かなり微笑ましくもある。



 おそらくは二人を知ってる他の子達も、似たような事を思っているんじゃないだろうか。

 その証拠に、二人を見る目が柔らかい。



 しかし、残念ながら大人達はこの光景を好意的には受け取ってくれなかった様である。


 殿下の一言によってエレノアを糾弾する方向に空気が傾きかけていたのが、まず私の声で緩和されて、それがモルドの参入で更に柔らかい方向へと傾き――かけた所での、まさかのこのやり取りだ。


 おそらく彼らは、みんな総じてこう思っているに違いない。


(((私達は一体何を見せられてるのか)))


 ……うんまぁ、その気持ちは私にもよく分かる。

 わかり過ぎる程に分かる。

 たまに砂でも吐きたくなったりする。


 が。


(いけない、いけない。私の思考まで本題から脱線しちゃったら、話がもう永久に完結しなくなっちゃうわ)


 私は知っているのである。

 こうなった時の2人は、邪魔が入らない限りいつまでもじゃれ合い続ける事を。



 それもまぁ、いつもなら「まぁ良いか」と2人を放置しておく訳なのだが、流石に今はそういう訳にもいかないだろう。

 楽しそうな2人の間をぶった斬るのは忍びないが、背に腹は変えられない。


「ほらエノ、いつまでもモルド様とじゃれ合ってないで、早く続きを話してちょうだい」

「じゃれ合ってなんていませんっ!」


 呆れを隠さずそう言えば、妙な所で食い下がってきた。


 相変わらずの脳内お花畑である。

 今はそんな事を気にしてる場合じゃないので「あぁ、ハイハイ。じゃぁもうそれで良いですから、早く続きを話してください」と重ねて促してみると彼女は、仕方が無しと言った感じで頷いた。


 そして続きを話そうを口を開き――しかし何故か閉口する。


(……何?)


 不思議に思いつつも彼女を黙って見ていると、彼女はゆっくり2秒後にコテンと首を傾げてみせた。


 言葉は無い。

 が、それだけで彼女が何に疑問が抱いたのか分かってしまう。


(……あぁこの子、多分今「何の話だったっけ?」とか思ってるわ)


 思わず右手の指で私は、下がりそうになる額を抑えた。


 まったくこの子は、自分の人生の危機にまさかの話題をド忘れしちゃったとか。

 本当に世話の焼ける子だ。



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<素っ頓狂な私の親友、ホントに手が掛かるんですけど ~私は別に面倒見なんて良くないタイプの令嬢のはず~>




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