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第19話 傷心って、何ですか?



 そんな彼女の質問にエレノアは、劇的に顔を赤らめた。

 そして少しモジモジしながらこんな風に口を開いた。


「実は先日、私の家にモルド様がご挨拶に……」

「あら、では正式に婚約したのね! それはとても喜ばしい事だわ!」

 

 ローラが顔の前で手を打つと、羞恥と幸福が入り混じった顔でエレノアが「はい」と一言答える。


「モルド様、どうやら以前から私に秘密で両家に打診をしていたみたいで……」


 それもあって話もトントン拍子に進んだのだ。

 そう言った彼女に私たちは、それぞれに別の反応を返す。


「そうなのですか?!」

「あら、意外とやるじゃないモルド様」


 それで2人とも、結婚適齢期なのに婚約者が居なかったのか。

 そんな風に、妙に納得してしまった。



 しかしそれにしても良い事だ。

 はにかむ彼女からは紛れもなく『幸せ』が滲み出ている。

 

(2人の仲はどうやら順調らしいわね)


 うんうん、何よりだ。

 そう思えば、私の口元も自然と綻む。

 


 しかし、突然。


「あっ! わ、私なんて事を……申し訳ありません」

「エノ?」


 エレノアが何故か突然謝罪の言葉を口にしたので、私は思わず首を傾げる。

 すると彼女はローラをチラリと見た後で、言いにくそうにしながら話す。


「だって、ローラ様はつい先日あんな事があったばかりなのに……さぞかしショックでしたでしょうに、私ったら1人ではしたなく騒いでしまって……」


 そこまで言うと、彼女は泣きそうな顔で俯いてしまった。

 

 

 なんて配慮の無い事をしてしまったのかと、多分本気で落ち込んでいるんだろう。

 対人関係を円滑にするためには、相手の気持ちを慮る事はとても大事だと思う。

 しかしどうやら今の彼女は、致命的な勘違いをしているらしい。


「えーっと……」


 思わず苦笑を浮かべながらローラを見てみると、似たような顔の彼女と目が合ってどちらともなく今度は普通に笑ってしまう。


「あの、エレノアさん。もしかして私の傷心を気にしていますか?」

「……言葉を飾らなければ、その通りです。申し訳ありません、配慮が足りなくて」


 更にズンっと落ち込む彼女に、ローラは「いえいえ違います!」と手を横に振った。

 そして少しホッとしたような声で言う。


「それなら気にしないでください。私は別に殿下との婚約破棄を気に病んだりなどしていませんから」

「……え?」


 思わぬ事を言われた。

 そんな感じで、エレノアがキョトンとしながらローラを見つめる。


 しかし私からすると、彼女がキョトンとする理由の方が分からない。




 例の一件で、確かにローラと殿下の婚約は正式に破棄された。

 しかし、それで彼女が悲しむかというとそれは無い。


「殿下との婚約が決まった時、確かに私は国に尽くす決心をしました。しかし結局今に至るまでただの一度も、私が殿下に想いを寄せる事は無かったのです。ですから特にどうという事はないのですよ?」

「そう……なのですか?」

「えぇ」


 眉尻を下げて確認してくるエレノアに、ローラは改めて「だから大丈夫」と念押した。

 すると、ここでやっとエレノアは安堵の息をつく。



 無事に誤解が解けたお陰で、場にはクスリと笑うローラと、ホッと胸を撫で下ろすエレノア、そしてそんな彼女に苦笑する私が出揃った。


 平和が戻ったティーテーブル。

 そんな場所の中心で、私はふと思い出す。


「そういえば、結局お二人の婚約破棄イベントってあの後どうなったのですか?」


 2人が既に正式な婚約破棄した事は、私も既に聞いている。

 しかし結局2人の間に一体どんなやりとりがあったのか。

 その辺はまだ知らないままだ。



 確かにローラは必要以上の事はしない主義だけど、婚約破棄についてきちんと片を付ける事は彼女にとって必要な事だっただろう。

 何かやり取りはあった筈だ。


 そう言えば、おそらくその言葉に私の好奇心を感じたのだろう彼女は「シシリー様がご満足できる話かどうかは、保証できませんけれど」と前置きをしてからあの日の顛末を話し始めたのである。



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<素っ頓狂な私の親友、ホントに手が掛かるんですけど ~私は別に面倒見なんて良くないタイプの令嬢のはず~>




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