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追放された俺を拾った神様が、脱衣テイマーを始めるようです  作者: 羽菜 歩夏
【第一部】第02章 初めての戦闘 編
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09.酸鼻の光景 ★

 人が斬られるのを見たのは、もちろん初めてじゃない。

 討伐隊は魔物だけでなく、夜盗や盗賊集団、あるいはもっと組織だった反体制派の組織などを相手にすることもあったからだ。


 しかし、自分で斬ったのは初めてだった。

 生きた人の鼓動まで伝わってきそうな、両手に残った気味の悪い感触に、俺は少なからずショックを受けていた。


――でも、そんなことより……。


 あの、時間が止まったような感覚はなんなんだ!?

 思わずサクヤの方を振り向いてその答えを求めたが、返ってくるのは薄笑いのみで何も答えてはくれない。

 ……というよりも、全裸で仁王立ちしている美少女を直視できずに慌てて目を背けてしまった。


「な……なんなんだテメェ! な、なにしやがった!」


 再び、耳障りなフランツの濁声(だくせい)耳朶(じだ)に触れる。


「マルセル! アンヌ! 計画変更だ! まずはこいつを殺るぞ!」


 左右の茂みへ声をかけるフランツ。


 そうだ、今は戦闘中なんだ!

 まだ三人も残っているし、話を聞くのはその後だ!


 ガサリ、と右の茂みが揺れ、奥からゆらりと男の影が浮かび上がる。

 が、何かおかしい。


――く、首がない!?


 ドサリ、と前に倒れた男の後ろから現れたのは、右手に手斧を、左手に男の生首をぶら下げたルプスだった。


挿絵(By みてみん)


「残念。この人肉はもう、動かないし」

「なっ……ば、ばかな!? こ、小娘、貴様……お、おい! アンヌ! 先にこの小娘を()れ! 生け捕りは中止だ!」


 振り向いたフランツの視線の先で、左の茂みが突如、雷雲(らいうん)のように稲光(いなびかり)を放つ。

 直後、草を割って転がり出てきたのは、髪の毛がちぢれ、頭部だけが黒焦げになった女の死体。

 その後ろからヌッと現れたのは、右手からバチバチと放電させたコンだ。


挿絵(By みてみん)


「この女の脳は、雷撃でドロドロにしたです」

「な、な、な……なんだおまえら!? ばっ、化け物!」


 しかし、逃げ出すフランツの前に立ちはだかったのは……。


――サクヤ! いつの間に!?


「幼子相手に色欲三昧の不良貴族と……どちらが化け物かのぉ?」

「な、なんだテメェ! そこをどけ! どかねぇと、た、(たた)っ斬るぞ!」


 震える声で(わめ)くフランツが、同じく震える剣先を全裸の美少女に向ける。


 だが、しかし――。


 フランツの瞳からはすでに好奇の色は消え去り、代わりに浮かんでいるのは恐怖……いや〝(おそ)れ〟と言った方がいいかもしれない。

 俺たちの存在も忘れたのか、一歩二歩と退いて距離を取ろうとするフランツを、サクヤの、感情の抜け落ちたような声が追いかける。


「貴様は、ブラッスール男爵の手の者か?」

「だ、旦那? い、いや、違う! 俺たちは金で雇われただけだ! だ、旦那とはなんの関係もねぇ! だ、だから、見逃(みのが)――」

「ならば、死ぬがよい」


 一陣のつむじ風が、森を駆け抜ける。

 直後、フランツの身体に網目のように緋線が走ったかと思うと、そのことごとくから血煙(ちけむり)を噴き上げ、バラバラの肉塊となって地面に落下した。


 気がつけば俺たちは、鮮血にまみれた酸鼻の光景の中に(たたず)んでいた。


――な、なんなんだよ、こいつら!?


「ちょ、ちょっと待て……コンもルプスも、アルコールは大丈夫なのか!?」

「アルコールに弱いのは獣の姿の時だけじゃ。どうやら、いろいろな情報が誤って伝わっているようじゃの」

「じゃあ、俺が(おとり)になる必要なんてあったの?」

「もちろんじゃ。試験は合格じゃ」


 ルプスから受け取った服を身に着けながら、サクヤが答える。


「試験?」

「おぬしをわれわれのパーティーに入れるかどうかじゃ。興味深い特性を持ってはおったが、肝心(かなめ)は心根じゃからな」

「こ、こころね?」


――と言うか、パーティーに入りたいなんて言った記憶は……。


「まあ、ワシは(はな)から心配しておらんかったがの。……おまえたち、これでどうじゃ?」


 サクヤが二人の獣人に目配せすると、先にコンが口を開いた。


「あなたの命、この先ずっと、コンたちのために使うことで(あがな)う……そう言ってたです」

「うん。……ん?」


――この先ずっととは言ってなかったような……。


「コンは人間が好きじゃないです。でも、ノエルのことは少し様子を見てあげるです」と、右手を差し出すコン。

「あ、あれ? ノエル、って……」

「変態人間からクラスチェンジしたです」

「あ、ありがと……ってアイタタタタタァ――ッ!」


 コンの右手を握った瞬間、全身をビリビリとした痛みが駆け抜ける。


「あ、すみません、まだ帯電してたです」

「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ握手は無しの方向で……」

「裏切ったらどうなるかは、分かってるですね」


 と、黒焦げの女の死体に目配せするコン。

 なんだろう、この、悪魔と取り引きをしたような気分は……。


「ボクは大丈夫だし!」


 横から、今度はルプスが右手を差し出してきたので、恐る恐る握り返す。

 返り血で、ヌルッとしてる……。


「何か分からないことがあったら、ボクに遠慮なくきけ、人肉!」

「う、うん。え~っと……パーティーを抜ける方法は――」

「じゃあ神様! 新鮮なうちに、死体を食っていいか?」

「うむ。綺麗に片付けておけ」


 サクヤが答えるや否や、栗色の狼に姿を変え、フランツの細切れ肉を(むさぼ)り始めるルプス。


――俺、この子たちと上手くやれるんだろうか?


「ところで、サクヤ? その、パーティーってのは一体……」

「まあ、ここではなんだし、上に戻って話そうかの?」

「上、って言っても、この木、梯子も何も見当たらな……うあああっ!」


 不意に俺の身体がふわっと持ち上がる。慌てて振り向くと、


――こ、コン!?


 なんと、コンが体長二ポイル(※約三・二メートル)以上はあるであろう金色の大狐に姿を変えて、俺のベルトを咥えていたのだ。


「いつもは風の精霊の世話になるんじゃが……今日はうっかり服を着てしまったからの。こっちの方が早い」と言いながら、コンの背に乗るサクヤ。

「ちょ、ちょっと待って! なんで俺だけコンに咥えられて――」


《ルプスの方がよかったですか?》


 頭の中に直接響いてくるようなコンの声。

 ルプスの方へ視線を転じると……ちょうど、黒焦げの女の頭にかぶりついたついたところだった。


「い、いや、このままで……」

《この大きさは長くは持たないので、さっさと行くですよ》


 言うや否や、コンは疾風(はやて)のように大木を駆け上っていった。

ここで第二章終了となります。

ブクマや評価などでご声援頂けますと執筆の励みとなりますので、面白いと思っていただけましたら、どうぞ宜しくお願いいたします。


第三章「特訓と婚約 編」も、現在準備中ですので近日中に公開できると思います。

次章では早くも、ノエルの正妻が決定!?

引き続きお楽しみいただけましたら幸いです(๑•̀ᴗ- )✩

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