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追放された俺を拾った神様が、脱衣テイマーを始めるようです  作者: 羽菜 歩夏
【第一部】第01章 追放と邂逅 編
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04.早く服を着てください

 その後のことは、あまりよく覚えていない。

 クリスティナの言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、抜け殻のような状態になっていたことに加えて、その後の肉体的なダメージも追い討ちをかけたのだろう。


 気がつけば俺は、文字通り身包(みぐる)みを剥がされ、裸で両(ひざ)と両手首を縛られた状態で野営地(キャンプ)の近くを流れる渓谷の(そば)に立たされていた。


「や、約束が違うわアンティ! ノエルは殺さないって言ったじゃない!?」

「殺しはしない。俺の手ではな」

「そ、そんな……。そんな状態で急流に落とせば、間違いなくノエルは死――」

「黙るんだ」


 そう言って、他のメンバーに抑えられていたクリスティナを振り返り、ほくそ笑むアントニー。


「ここまで、俺は多くの嫉妬と反感の視線に(さら)されながら今の地位に登りつめた。もちろん俺の実力だ。だが、それだけじゃねぇ。後顧(こうこ)(うれ)いとなりそうなことは徹底的に排除してきた結果でもある」

「じゃあ、ノエルのことも……」

「普段なら間違いなくこの手に掛けているだろう。だが、この先おまえに一生婚約者の(かたき)として見られるのもつまらねぇ。かと言って、いつまでもこの能無しに未練たらたらでいられるのも然りだ。……つまり、折衷(せっちゅう)案っつうわけだ」


 アントニーが、俺の方へ向き直り、さらに続ける。


「このあとお前は、十中八九溺れ死ぬだろう。だが、万が一、強運にも生き残ることがあれば、いつでもまた相手をしてやる。もっともその頃には、クリスティナの身も心も完全に俺のものになっているだろうがな」


 そう言って白い歯を覗かせたアントニーが、持っていた片手剣で俺の両足の腱を斬った。

 視界が回転し、一瞬の浮遊感のあと、俺は冷たい川の中へ落ちた。


 それからどれくらい、水を飲み、岩にぶつかりながら急流に翻弄(ほんろう)されたことだろう。

 はっきりと覚えているのは、せいぜい百ポイル(※約百六十メートル)くらいの間で、そこからのことはまったく覚えていない。


 気がつけば、先ほどのコンの声で目が覚めたというわけだ。



「ふむふむ……なるほどなるほど」


 いつの間にか(かたわ)らにしゃがみ込んでいた裸の神様が、俺の額に右手を当てながらしきりに頷いている。


「おぬしも、なかなかに辛い経験をしてきたようだの」

「え? な、何も話してないけど……」

「おぬしの記憶を読んだのじゃ」

「き、記憶を読んだって……そんなことできるわけ……」

「それくらいのことは造作もない。もっとも、何から何まで読めるわけでもないがな。おぬしがいま思い出していたことに紐付けられた記憶に限っての話じゃ」

「だ、だとしても……」


――すごい!


「そんなことより神様! 早く服を着てください」


 コンが、神様用のものと思われる肌着と衣装を持ってきてベッドの上に広げた。

 黒を基調に、白いレースであちこち飾り立てられた人形着のような上下は、貴族令嬢が集まる女学園の制服を思い起こさせる。


「この変態人間がいる間は女の子だけではないんですからね! これまでのように裸族では困るです」

「下界の(けが)れた布など(まと)っていては、力が上手く伝わらんのじゃ」

「そのために、コンたちがお仕えしているじゃないですか」

「おぬしたちは、ワシから見れば飼い犬や飼い猫のようなものじゃ。犬や猫に裸を見られたとて、とくに困ることは――」

「こっちが困るです! フンッ!」


 と、コンは一度広げた衣服を再び拾い集めると、今度は神様に押し付けるように直接手渡す。


「分かった分かった、おまえはだんだん(うるさ)くなるのう……。ではその前に、ノエルの気持ちをすこし落ち着けてやろう」


 と言って、横から俺の頭を抱きかかえるように胸元へ寄せる神様。


 あれ? 俺の名前なんてまだ名乗ってないよな。

 この子、本当に俺の記憶を……。


 そんなことを考えているうちに、不思議と気持ちが安らいでいく。

 あの悪夢のような出来事のせいで、今にも片側に崩れ落ちそうだった精神の(はかり)が、ゆっくりと元の均衡を取り戻していくような、そんな感覚だ。


「どうじゃ?」

「うん……すごく、落ち着いた気がする……でも、こんな魔法、聞いたこと――」

「これは魔法ではない。特に名はないが、コンは〝奇跡〟と呼んでおるな」


――奇跡……神の御業(みわざ)!?


「おぬしらの文明レベルでは理解が難しいかもしれんが、精神状態は脳の中で分泌される物質によって左右されるものなのじゃ。今は、心が休まる物質を分泌させたにすぎん。おぬしのトラウマが完全に消え去るまでは、まだまだ時間が必要じゃろう」


 だとしても……あの苦しみから一時でも解放してもらえることが、今の俺にとってどんなに救いになることか!


 気持ちが落ち着いてきて、ようやく周囲の様子も観察できるようになってきた。

 どこかの建物の中で間違いなさそうだが、俺が知っている石組みや木組みの建築物とはかなり様子が異なる。


 床も壁も、まるで生まれたての卵の殻ように、ぬくもりのある白い一枚岩で構成されている。窓も明かりもないのに、なぜか部屋の中はほんのりと明るい。

 二箇所の出入り口があり、部屋はここだけではなさそうだ。


「ここはワシの携帯用の住処(すみか)で〝(やしろ)〟と呼ばれる空間じゃ」


 キョドッている俺の心の(うち)を見透かしたように、服を着ながら説明する神様。


「携帯用? ここが?」

「そうじゃ」

「まさか……天幕(テント)じゃあるまいし、こんなしっかりした巨大な建物が……」

「だから奇跡なのです」と、コンが横から口を挟む。

「変態人間のゲロピーも、すっかり消えているです」


 言われて初めて気がついた。

 俺が床にぶちまけたはずの吐しゃ物――と言っても、ほとんど胃液のみだったけれど――が、跡形もなく消え去っている。


「この建物内では、人間が出した汗、糞尿、ゲロピーなどのあらゆる体液は、すぐに分解され空気となって屋外に放出されるです」

「す、すごい……」


 ふっふ~んと、得意げな表情に変わるコン。


「もっとも、コンたち専用のちゃんとしたお手洗いもありますけどね!」

「……ん? コン、たち?」

「そうですよ。お手洗いは女子にとって大切な場所です。変態人間の残り香なんてあったら気分が悪くなります」

「えっと……じゃあ、俺は、どこで?」


 俺の質問に、眉根を寄せて不快感をあらわにするコン。


「話、聞いてたですか? そのへんに垂れ流していればいいです」

「鬼か! そんなの、そっちだって気分が良くないんじゃ――」

「その代わり、拭き紙は貸してあげるです」


――その代わりって……。

ここで第一章終了となります。

ブクマや評価などでご声援頂けますと執筆の励みとなりますので、面白いと思っていただけましたなら、どうぞ宜しくお願いいたします。


第二章も、現在下書きが終わり推敲段階に入っていますので、近日中に更新再開できるかと思います。

引き続きお楽しみいただけましたら幸いです!

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