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追放された俺を拾った神様が、脱衣テイマーを始めるようです  作者: 羽菜 歩夏
【第一部】第03章 特訓と婚約 編
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10.思い立つ日に日咎なし

「いったい……どうなってんだ……?」


 コンに運ばれて大木を上っていくと、待っていたのは幹に取り付けられた出入り口の扉のみ。

 落ちる直前にもチラッと視界には入っていたけど、その時は俺の勘違いかと思っていた。


 でも、やっぱり間違いない。


 いくら大木とは言え、この高さまでくれば直径はせいぜい二ポイル(※約三・二メートル)がいいところだ。とてもあの大きさの建造物が入る太さじゃない。

 でも、扉を開ければ十平方ポイル(※約十四畳)ほどの空間が広がっているのだから驚かないわけにはいかない。しかも、部屋はここ以外にもあるのだ。


「この世界の物理法則に縛られたおぬしたちには理解できんじゃろうが――」


 そう切り出したサクヤの説明によれば、別の次元にある別の物理法則を、次元クレバスというものを通して利用しているらしい。

 どうせ理解は無理そうなので、コンたちを見習い、サクヤのやることはすべて〝奇跡〟として処理することにした。


「とは言え、この世界で活動する上で職号(ジョブ)が神様というわけにはいかんからの」

「確かに……俺も最初は、単なる残念な子かと……」

「命の恩人に対して、たわけ者め!」

「い、いや、だから最初はそう思ったってだけで、今はそれなりに尊敬してるから、ちゃんと!」


 最初に全裸で一緒のベッドにいたのも、ほとんど生命活動を停止させていた俺に超回復の奇跡を施すためだったらしい。

 もっとも、彼女の力を以ってしてもほぼ絶望的に思われた俺が回復できたのは、俺の持って生まれた特性のおかげらしいが。


「三日間、ずっと、その……は、はだ、裸で添い寝してくれてたってこと?」

「まあ、そんなところじゃ。……なんじゃ? また顔を赤らめおって」

「いや、だって……」

「婚約者もいたくらいじゃし、別に童貞というわけでもあるまいに」

「彼女とはそれこそ子供のころからの付き合いだったけど、他の女の子と、その、近しい関係になったことはないから……」

「なんじゃ? 早くもワシと()い仲にでもなったつもりか?」

「いや、そんなつもりじゃ!」

「まあ、別にワシは構わんがの」

「――え!?」


 悪戯っぽく笑ってコンの淹れてくれたお茶を口に運ぶサクヤ。


「今後は外で活動することも増える予定じゃ。その時に、そういう設定もあった方が良いかもしれんと思ってな」

「せ、設定……ああ、そっか、そういうことか……」

「それに、失恋を癒す最大の特効薬は新しい恋じゃと言うではないか。どうじゃ、この身体は?」


 胸のささやかな膨らみを強調するように、寸胴ボディを反らせるサクヤ。


「う~ん……悪くはないと思うけど……」


 やはり、ついついクリスティナと比較してしまう。


「調整できるなら、もうちょっと胸はあったほうが……イテッ!」


 テーブルの下でサクヤの蹴りが飛んできた。


「調整などできん!」

「ご、ごめん」

「まあ、設定のことは追々考えるとして、外界での設定は魔物使い(ビーストテイマー)パーティーということにしようかと思っているのだが、どうじゃ?」

「テイマー……。また珍しい職号(ジョブ)を……」


 俺がいた西の大陸では、テイマーというのはかなり(まれ)なジョブだった。

 と言うのも、現在では珍しく、二属性以上の――と言っても三属性以上はまずいないだろうが――属性を必要とする職号だったからだ。


 成長と共に魔力の属性特化が進んだ際に、99.9%の人間は一属性に収斂(しゅうれん)する。

 しかし、残り0.1%の割合で、稀に二属性を持ったまま成人するケースもある。

 中でも五大属性(フィフスエレメント)(※炎・風・雷・地・水)のいずれかと闇属性の二つを残した者のみがなれるジョブがビーストテイマーだ。

 五大属性は使役する魔物の系統を、闇属性は魔物の使役力の指標となるのだ。


「なんで、わざわざテイマー?」

「服を着たままではろくな奇跡も起こせんし、テイマーであれば、彼女らの正体がバレたとしても使役動物だと言い訳ができるじゃろ?」

「獣人を? 使役? かなり無理はある気はするけど……」


 ビーストテイマーは人知を超えた力を操れるとあって、ある種、畏怖の対象ともなっているジョブだ。強力なテイマーはドラゴンをも操り、一人で討伐パーティー丸々一隊にも匹敵する。


 だからこそテイマーギルドの政治的な発言力も非常に強く、世界人口の半分を信者に持つクラリス教団にすら比肩するとも言われている。

 テイマーの使役対象である魔物についても謎に包まれている部分が多く、人に危害を加えない限りは一国の王と言えども口出しが難しい〝権力の及ばない領域エクストラ・テリトリアリティ〟とされているのだ。


 とは言え――。


「獣人を使役しているというのは、聞いたことがないな……」


 もっとも、俺のいた西の大陸では獣人自体が絶滅して存在しなかったけど、東の大陸ではそう言う言い訳も通用するのだろうか?


「まあ、登録さえしてしまえばなんとかなるじゃろ。一国の為政者すらおいそれと口出しできんようになるからの」

「まあ、隠れ蓑としてはテイマーギルドなら申し分ないだろうけど……そもそもギルドに入会できるのか?」

「それじゃ!」


 サクヤが、(とう)を得たりと俺を指差してほくそ笑む。


「ギルド会館で全裸や下着で査定を受けるわけにもいくまい?」

「ま、まあ……」


 ギルドに入る前に、悪魔祓いに連れて行かれそうだ。


「どうしようかと思案しておったところに、属性特化が見られないという特異体質のおぬしが転がり込んできたのじゃ。ワシは『これだ!』と思った」

「ど、どれ!?」

「おぬしがワシの代わりに、替え玉試験を受けるのじゃ」


――おいおいおい。


「待て待て待て。特異体質つったって、サクヤがいなければ何もできないんだぞ?」

「それはこれから特訓する」

「ちょっと特訓したくらいでそんな……。それに、問題はそれだけじゃない。俺は男だし、替え玉なんてすぐにバレるだろ?」

「大丈夫じゃ。ギルド登録はあくまでパーティー単位。それに、サクヤ・コノハナなんてこの世界では珍しい名前じゃ。男でも女でも通用するじゃろ」

「そんな適当な……。それよりもほら! 裏でギルド証の偽造を専門にやってるような連中もいるだろ? そう言うやつらに渡りをつけて――」

「この先ずっと必要となるものじゃ。それに、テイマーギルド証ともなれば相当に目立つからの。ワシは、正々堂々と手に入れたいのじゃ!」


――替え玉試験を企んでるやつのセリフか?


「自信はないけれど……でも、その特訓というのは試しにやってみたいかも。少しでも強い技能(スキル)が使えるようになるなら嬉しいし」


 これまで、この多属性のおかげで散々白眼視されてきたのだ。俺にも、人並みに強さへの憧れはある。


「よし! 思い立つ日に日咎(ひとが)なしじゃ。コン、おぬしも来い」と、席を立つサクヤ。

「えぇ~……、コンもやるですかぁ?」


 サクヤの後に渋々付いていくコンのあとに、さらに俺も続く。


「あ、あれ? サクヤ? そっちはキッチンじゃ……」

「まあ、見ておれ」


 そう言ってサクヤは一旦扉を閉めると、ドアノブの周囲の回転盤を回し、再び扉を開けた。その奥には――。


「こ、ここって……」

「特訓室じゃ」


 ちょっとした木組みの家(コロンバージュ)が丸々一軒は建ちそうな、巨大な空間が待ち構えていた。

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