生まれる前の約束ってなんだ
俺はパペットを気にせずそのまま歩いた。誰も俺を止められない。
たとえそれが美しいパペットだとしても、だ。
パペットは宇宙人の粘土で作られたものだからいまだに科学では解明できていない部分が多いけど、それでもお金になるから資本家たちが目をつけて、政治家とグルになり今ではもう市民権を得ている。
だが、やはり得体のしれないパペットを反対する人も中にはいる。だがほとんどの市民は気にも留めていなくて、日々の生活の方が大事なようだ。
俺は歩き続けたが、ずっとついてくるパペットになんだか愛着が湧いてきた。
もう家に帰れる気配がないから、このパペットと暮らすのも悪くないと思うようになった。
正直俺は今いる場所のただならぬ雰囲気をしっかりと感じ取っていた。普段自己愛が強い分、愛の波動が低い場所にいると居心地が悪くなる。
いったいこの場所はなんだ。そしてこのパペットはいったい何者なんだ。少し疑い始めると、次から次に疑問点が湧いてくる。でも俺はすぐに冷静さを取り戻した。
この世には今解決できることとそうじゃないことがある。考えてもわからないことはいったん受け入れて、そこから今できることを考えればいい。
無駄なことで悩むことに俺の貴重な時間は使わないんだ。
ということで、もしかしたら俺は異世界に来てしまったのかもしれないな。
たまにそういう話を聞く。さっきから見たことのない植物がたくさんある。俺の世界にはなかったものばかりだ。もしかしたら、このパペットが原因かもしれないな。
ということは、一度このパペットと向き合った方がいいかもしれない。
俺の周りを踊り続けるパペットに手が触れた瞬間、俺の頭の中に声が響いた。
「君~、生まれる前の約束はどうしたの~」
生まれる前の約束とはいったいなんだ。そもそもこの声は俺の妄想か?
でも喋り方が全然違うし声の質も違う。
この現象はいったいなんだ?
「君がいつまでたっても行動を起こさないから僕が出てくる羽目になったじゃないか~
」
やはり俺は生まれる前からパペットマスターになることを決めていたのか…
「君が大人になるころこの星の運命は2つに分かれる。欲を満たす科学の発展か自然をと調和した愛ある世界か。だから君は今このタイミングで生まれてきたんじゃないか。」
全然覚えていない。なんのことを言っているんだ。そもそもこの声の主は誰なんだ。
「とりあえず、混乱しているように思えるから今日はここまでにしとこう。僕の送ったパペット君と一緒にいたら、いろいろ思い出すことだろう」
そう言い残して声が止んだ。俺は現実を肯定的に受け止める男だ。だから、起こったこと、感じたことを気のせいやなかったことにはしない。
やはりこのパペットには秘密があるのか。だけど思い出せない。生まれる前の約束ってなんだ。
そしてここはどこなんだ。
パペットはまだ、俺の近くで踊っている。