第7話 「帰路」
第1章 「はじめてのおつかい」
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小刻みな揺れと音で目が覚める。目を開けるとそこは、さっきまでの位森の一本道の景色とはがらりと変わり、馬車の上だった。横になった体を起こし周りを見回すと、見慣れた馬車とおじさんの背中があった。唯一違っているのは、目の前に知らないお兄さんがいることだ。私が体を起こすとお兄さんは顔をあげこちらを向く。
「目が覚めたか。よかった。どこか怪我とかしていないかい?」
自分を心配してくれているお兄さんとは今まであったことはない。全身を黒い服で包まれた姿には少し怖さがあった。ビクビクしている私を見かねたお兄さんはため息をつくと、
「大丈夫。怖がることはないよ。そこのヤマさんに頼まれて君を探しに来ただけだよ。」
と、言葉を掛けてくれた。その言葉は少しの安心を与えてくれた。それと同時に、別の心配が頭に浮かぶ。
「私の荷物………。」
アミ姉から貰ったはずの卵やランプなどが自分の手元にないことに気がついた。どこにいったのかと周りを見回すと、お兄さんの足元に私の荷物が集まっていた。
「これか。これのことなんだが……。」
そう言って渡された自分の荷物を持つと中身を確認する。かごの中身はぐちゃぐちゃになっていた。卵はすべて割れていて、このまま焼いたら大きな卵焼きができそうだった。アミ姉御用達のかごのお掛けで、中身は液体でもこぼれないようになっているため、卵はすべて残ってた。中を見てうなだれると、お兄さんは立ち上がり、私の隣へ腰を掛ける。
「どうした?中身はぐちゃぐちゃかもしれないが、君が無事なら問題はない。心配しなくてもいいんだよ。」
「そう言うことじゃないの。初めて頼まれた大事なおつかいだったから……。」
中を見せるとお兄さんは「ちょっと待ってて」と言い、周りを確認して、おじちゃんも前を向いていることを確認すると、お兄さんは手をかざす。
「「呼出」、「複製」、「変換」!」
そう告げたお兄さんは「あんまりやっちゃいけないことだから秘密にね」と言い放ち、元の席に戻る。お兄さんを不思議そうに見ていると、かごの中でゴロッとなにかが転がったように感じた。中を見るとぐちゃぐちゃだった中身は割れていない状態、アミ姉から貰った時のように戻っていた。
「何で?どうなってるの?」
「魔法の多重展開だよ。あんまりやらないけどね。呼出で元の状態を読み込んで、複製で記憶して、変換で書き込むとこうなる。簡単なことだよ。」
「お兄さんすご~い。私もできるようになりたいな~。」
「誰にでもできるさ。使うか使わないかの話だよ。」
足をバタつかせながら空を見上げる私にお兄さんは言った。子供の私は何をいっているのかわからなかったけど……。
「そろそろ着くぞ。ミサラちゃん、剣士の兄ちゃんもすまねぇな、付き合わせちまって。」
「いえ、大丈夫です。不本意ながら僕も用がありましたので。」
「そうだよおじちゃん。お家に帰れたからいいよ。」
村の明かりが見えたところでおじちゃんが口を開いた。私が起きてからおじちゃんは一言もしゃべらなかった。ずっと暗い顔をしていた。それからは誰もしゃべらず村の駐留場に到着した。駐留場に着くとそこには、たいまつをもったお母さんとお父さん、手を繋いでいるハルくんが待っていてくれた。その隣には村長が立っていた。こんな時間に出迎えてくれてなんて優しいと思ったけど、そうじゃないことはすぐにわかった。
「お母さ~ん。ただいま~!」
「ミサラのバカ!こんな時間までなにやってたの!」
怒られるなんて考えてもいなかった。私はその場で固まる。なんて言えばいいのだろう。良かれと思ってやっていることが悪い方にいくなんて思っていなかったので、言葉に詰まった。そんな私を尻目にお母さんは続ける。
「あ、あのね……お母さん……。その……私……。」
「私達がどれだけ心配したと思っているの?どれだけ心配して待っていても帰ってこない……、何も出来ないし……どれだけ私が…………。」
「すまねぇ!!俺が悪いんだ!ミサラちゃんを放って湖で休憩なんてしているから……。ミサラちゃんにも怖い思いをさせちまった。その上何を言えば言いかもわからなくて……、何も声を掛けることもできなかった…………。本当にすまねぇ!!」
おじちゃんは私の横に立ち、頭を下げる。頭を下げられたお母さんは困惑しているようだった。
「ヤマさん。頭をあげてください。悪いのはヤマさんじゃないでしょう。」
「いや、俺が悪いんだ。本当にすまん。ミサラちゃんも本当にすまねぇ!」
それを見かねたお兄さんは間に入り、事のすべてを話した。私が一人で森に入ったこと。ヤマさんは湖で寝ていたこと。魔物に襲われているところを助けられたこと。すべて。話を終えると、ヤマさんは再び頭を下げる。私も「ごめんなさい」と頭を下げる。するとお母さんは、
「ヤマさん。頭をあげてください。私達はヤマさんを責めたりはしません。ミサラにも怒っていないと言えば嘘になりますが、無事でいてくれた事だけでいいんです。」
そう言って私を抱き寄せる。抱き寄せられたお母さんの手は冷たかったが、それ以上に暖かかった。騒動の終えた一日が終わろうとしていた。
一段落し、お兄さんは「今日はもう遅いので解散にしましょうと」と話を切った。するとヤマさんが、
「兄ちゃんは今日はどうするんだい?よかったらうちに来るかい?」
と、お兄さんに訪ねる。お兄さんは
「いえ、今日は村長さんの家に用事もあるのでそちらに。村長も承諾してくださいました。」
といい、村長の後を着いていこうと向をむく。皆が解散するその前に私はしなきゃ行けないことがあった。
「お兄さん!今日はありがとう。とっても嬉しかった。お兄さんの名前を教えて。」
「僕かい?僕の名前はマコトだよ。よろしくね、ミサラちゃん。」
そう言って頭を撫でられ、マコト兄ちゃんは村長についていった。
お久しぶりです。今年も最後の投稿となりました。今年もいろんな作品を読んで、見て、楽しい一年でした。今年だけでなく、私も話が続く限り頑張っていきたいですね。