第6話 「助け②」
第1章 「はじめてのおつかい」
「グルルルゥゥゥゥゥ……」
魔物はジリジリと近寄ってくる。早く逃げなきゃいけない。でも、まだ足に力が入らない。座ったまま後ずさるしかなかった。
「やめて………来ないで……!」
そんなお願いを聞いてくれるはずもなかった。どんどん距離は近くなる。魔物は後ろ足に力を入れて、また飛びかかる……
ーーーーーーーーガンッ!!
飛びかかってくるはずの魔物は、硬い音と一緒に地面に伏せてもがいていた。
「グアァァゥゥ……ギャァァァァァァァァァ!!」
魔物は厚みのある透明な何かに押さえつけられているようだった。目を凝らすとやっと見えたのは、四角くて畳暗いの厚さの壁みたいなものが地面を引っ掛け回している魔物の動きを止めていることだった。魔物は抜け出そうとその壁を押し上げようとすると、その上に同じ壁が現れ上に重なって抑さえ付ける。その不思議な状況に理解が出来ないでいると、さらに同じものが現れ今度は周りを囲うように作られ、見えない壁の檻が作られていく。
「大丈夫か?」
いきなりの声に私は怯えながらも声のする方を向くと、森の中から一人の人影が現れた。左手を前に突きだし、右手に持つ剣は月に照らされ薄ら光り、森の中から歩いて出てくる。月明かり照らされる人影は、20もいっているか位の黒髪のお兄さんで、黒いコートに身を包んでいた。
「だ……誰?」
私はまた後ずさる。状況の分からない私は逃げるしかなかった。森の中から出てきたお兄さんは一息ため息をつくと、右手に持った剣を鞘に収めながら、私の方へ歩いてくる。私の所まで歩み寄ると魔物の方を向く。
「固定」
そう言うと左手を下げこちらを向き直し、お兄さんは私に向かって手を伸ばす。伸ばされた手は私を包み込み、抱き上げる。抱き上げた私に一言声をかける。
「もう大丈夫、助けに来たから。」
「ーーーーっっっ!」
赤い瞳で黒い格好のお兄さんの怖さとは裏腹に、優しい笑顔は私になにかを与えてくれた。安心とか希望とか、一言で表せないもの。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!!」
優しいお兄さんの腕の中で、私は泣いた。泣くことしか出来かった。今までの一人ぼっちで森をさまよい歩いた寂しさや怖さが一気に込み上げてくる。抑えることができなかった。それをお兄さんは抱え込んでくれた。心地のよいあたたかさと力強い腕の中で…………。
「寝てしまったか。」
さて、少女は無事に保護した。少女の荷物も近くに転がっているから問題はないだろう。しかし、この魔物はどうしたものかと衝壁で囲った魔物を確認しようと近寄るとそいつは自分の作った見えない檻を壊そうと暴れていた。
「こいつ……ギャガトじゃないか……?」
普段は小動物やマジストの木なんかを食べて生息しているから、人間など襲うなどと言うことは聞いたことがなかった。「衝壁」で作った檻を眺めながら考えていると、後ろの方から馬車の走る音が聞こえていた。
ーーーーーーーーガラガラガラガラ
「兄ちゃん!大丈夫か?」
後ろから近づいてきた馬車は1メートル位の所で止まると、馬車からはギルドハウスで飛び込んできた馭者の男、ヤマさんが降りてきた。
「大丈夫ですよ。少女は無事です。疲れていたのか安心して寝てしまいました。」
「よかった……。ミサラちゃんに何かあったら俺は…………。」
そう言うと、ミサラと呼ばれた少女の頭を撫でながら目を抑えていた。私には分からない感情だった。一人でやって来た私には……。
「その……、そいつはどうするんだ?後ろの奴は。」
ヤマさんは目から涙を拭き取り、咳払いをすると後ろのギャガトを指差して問いかける。ギャガトは普通に過ごしていれば危害は無いが、これはもう少し様子を見る必要があるだろう。
「このまま持ち帰ります。「伸縮」。「収納」。」
ギャガトは「衝壁」と共に小さくなり手に現れた小袋の中に入り、小袋はそのまま渦の中に消えていき見えなくなった。ヤマさんはとても不思議そうにこちらをみていた。
「兄ちゃんってすげぇんだなぁ。」
「いえいえ、基礎なものが使えるだけです。さぁ、この子の村に帰りましょう。」
プチ説明
ギャガト……猫のような顔をした虎みたいな魔物。興奮状態になると全身の毛が逆立ち、爪が丸みを帯びて伸び、両刃のダガーのようになる。
マジストの木……この世界に生えているごく一般の木。魔力を少し保有している葉をつける。
魔法の説明がは次回いれたいと思います。飽きずに読んでいただきありがとうございます!また次回もよろしくお願いいたします。