第5話 「助け①」
第1章 「はじめてのおつかい」
「剣士の兄ちゃん、見えたか?」
「見えましたよ。ここからそう遠くないですね。」
「ちょっと馬車のスピード上げるから、しっかり捕まっててくれよ!」
「いえ、ご心配なく。このままあの光の方向へ向かってください。僕は先に行きます。」
「おぃ!今なんてーー。」
馬車から飛び降り、今見えた光を目指して走り出す。あの光が少女だと言う確証はないが、今の時間森に入っている者などいないだろう。
「道なりに進んでいては遠回りになる。森の中を突っ切る他無さそうだ。」
「『加速』!」
月の光が差し込む森の中を突き進む。夜目には優れているので心配はないだろう。乱立する木々を避け、湿った地面を蹴り、最短ルートで光へ向かう。
「無事だと良いが……。」
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「今回の報酬は5万ブロンとなります。次の依頼も期待してますよ。」
「ありがとう」と声をかけながら、卓の上に置かれた小袋を受けとる。今回の依頼の達成金だ。僕は小袋を持ち、ギルドハウスの2階へ向かう。この村はそれほど大きくないのでギルドハウスの中もそんなに賑わっているわけではなかった。受付の前にある1階のレストランでは家族連れや、パーティーメンバーの仲間たちと食事を楽しんでいる姿が見えていた。真ん中の螺旋階段を上がった開放型の2階のカウンターでは、一人の酒を嗜むもの、軽い食事をとるものが片手で数えられる程度だが、くつろいでいた。私もカウンターの奥に腰をかける。
「剣士のお兄さんは今日も一人?」
「あぁ。それより、いつものサンドイッチを頼むよ。後、飲み物も一杯貰いたい。」
「はいよ~。ちょっと待っててね。飲み物のご要望はある?」
「そうだな、酒って気分ではないから酒以外で何かお任せで貰おうかな。」
この酒場のバイトの少女は注文を取ると、支度をしに鼻歌を歌いながらこちらとは反対側へと歩いていった。僕はカウンターへ顔を伏せると、疲れていたのかそのまま少し眠ってしまった。
「……さん…………お……さん…………お兄さん!」
酒場の少女に声をかけられ、顔を上げる。賑やかだった音は止み、周りを見回すと、カウンターにはすでに誰も座っていなかった。
「悪い。どれくらい寝てたかわかるか?」
「私が注文受けてから、他のお客さんと話し込んじゃって~それから作り始めたから、1時間位かな。と言うわけで、遅くなったけどサンドイッチとマルメロジュースね。」
「そんなに経ってたのか。ありがとう。いつも悪いね。」
カウンターの後ろの棚に並べられたお酒を見ながら、カウンターの上に置かれたサンドイッチに手を付けようとしたときだった。
「お兄さんお疲れだね。あんまり見ない顔だけど……。」
と、声をかけられる。声の方を見ると、自分より10位上だろうか女性が立ちこちらを覗いていた。その女性は僕の隣へ座りこちらをにっこりと見ている。無視するのは印象が良くないだろうと考えた僕は、
「ここ1ヶ月位この町に滞在しています。色々な村を転々としているんです。僕に何か用があるのですか?」
「いやぁ!そんなにかしこまったことはないよ。いつも受付の奥から見える君の顔がうかない顔してるからさ~。それにしてもそれ美味しそうだね。」
「あぁ、これですか。この酒場ではいつも頼んでいるんです。」
「いいねぇ~。美味しそう。酒場のお姉さ~ん!私もこの人と同じのちょーだーい!この人に付けといて。」
注文を受けた少女は、「いいんですか?」とこちらに確認を取るが隣では「いいのいいの」とジェスチャーを送っている。少女は少し困ってそうだった。少女が少し気の毒にだった。
「受付の奥ってことはここの受付嬢ですか?そんなに方が僕に用があるなんて思えないですけど。」
「当たりであって当たりじゃないかな。ギルドの受付嬢でもあってギルド長でもあるだよねぇ。」
こいつがギルド長?そんなことがあるのか?思わず手に持っていたコップを落としそうになる。こんないい加減そうな女性がギルドの長だとは思えなかった。しかし、仕事上嫌われるわけにもいかないので気を付けよう。
「で、受付嬢兼ギルド長のあなたが何のようでしょう。色んな所を転々として、魔物を狩っているから疲れているんです。なので、手短にお願いします。」
「じゃあ、どこかに腰を据えればいいじゃない?」
「お待ちどうさまです。追加注文のお品です。」
酒場の少女が注文されたものをもってきた。絶妙なタイミングだった。ギルド長の彼女は、注文したサンドイッチとジュースが来ると「わぁー」とサンドイッチ手をつけ、ほっぺに手を当てる。賑やかな人だ。酒場の少女はこちらを見ながら手招きをする。顔を近づけると耳元に話しかける。
「良かったんですか?ギルド長なんで、お断りするのも気が引けて。」
「いや、君が気にすることじゃないからいいよ。気にしないでくれ。君も大変だね。」
少女はそんなことありませんといいながら、片付けに戻る。しかし、痛いところをついてくる。腰を据えるなんて考えていない。そもそも僕には、
「居場所なんてない……。」
「ふーん。ほんなきひにひっはりないらひがあふんだけど。」
「口にものを入れながら喋らないで下さい。まぁ、話だけは聞きましょう。」
と、承諾すると彼女は一枚の依頼書をカウンターの上に広げ、僕へ渡す。
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常駐冒険者求
近頃、森ノ中ニオイテ魔物ノ出没ガ頻発シテイル。
ヨッテ、村ノ民モ頭ヲ抱エテイル次第。
コノ魔物ノ討伐又ハ一掃ノデキル冒険者ヲ求。
ナオ、住居ノ提供ニ加エ、月給ノ支払ヲ約束スル。
詳細ハ隣村「アストレア」マデ
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「どほ?ひひないほうでほ?」
「だから、口の中のものを……。」
「ごめんごめん。でも、どう?居場所が出来るかもしれないし。いい話じゃない?」
「悪くはない。悪くはないが……。」
悪くはないが、僕には向いていない。他の適任者を当たってくれと断ろうとした時だった。
ーーーーーーバンッ!
勢いよくギルドのハウスの扉が開くと、自分の親父位の年の男が息を切らしながら入ってきた。男は周りを見回すと、息を整え大きな声で訴え始めた。
「頼む!誰か、助けてくれ!小せぇ女の子が一人で森の中に入っちまったみたいなんだ。この村の行きそうな所探してもいねぇし。向かった所の人も帰ったよって言われたんだ。最近はアストレアの方は魔物がよく出てて、俺一人じゃ襲われたらひとたまりもねぇ。頼むよ!誰かいねぇか?」
男は叫び終えると、周りを見渡すと周りには家族でくつろいでいる者達の姿しかなかった。運悪く、冒険者達は出払ってしまっていた。僕を除いて……。男はその場で膝を折り、頭を地に付け下げる。
「頼むよ……、誰でも良いんだ。俺が呑気に馬の休憩しながら、湖のほとりで寝ていたばっかりに……。」
「悪くないっていったからね♪」
この先は、いくら馬鹿でもわかるだろう。
「ヤマさ~ん!ここにいる剣士のお兄さん使ってくれて良いよ!常駐冒険者の依頼についても話があるみたいだから!ギルド長としてお兄さんにも命令します。助けに行ってきなさい!」
二週間ぶりのお久しぶりです!もう来月には年末ですね。
年末はお金使うことばっかりで大変な上、仕事も忙しくなってくる時期です……。大人になるって大変なんですね。まぁ、くじけず頑張る予定ですが……。と言うわけで、応援よろしくお願いいたします