ある日の日常
初投稿です。
お目にかけていただき光栄です。
「ニジャあぁー!どこ行ったぁー!」
辺りを見回して叫ぶ少女が一人。年の頃は6、7歳であろうか。少女の居る周りには鍬や鋤、桶が散乱し、更には作りかけの畝がそのままになっている。少女が探す人物が、何をしていたかは想像に難くない。……その人物がこれからどうなるかも。
「全く…あのバカはサボってばっかりで……。どうせいつものところに居るに違いないわ!!もうどこも手を貸してくれないって言うのに…。これはお仕置きが必要ね!」
少女は意気込みを表すように腕をまくると、その腕には熊のような毛皮が露になった。少女の全身をよく見ると、その顔も薄茶色の毛皮に覆われており、鼻も口も、それこそ野生の熊のようだ。頭の方に目をやれば、そこには熊のような耳も伺える。熊と違うところと言えば、あれほどコロコロした体型ではなくて、服を着ているという程度か。
そうしてみると、背丈が6、7歳ほどの少女位の熊が直立し、人の言葉を話し、ともすれば探している人物に対してお仕置きするようなことをのたまっているのは、なんとも不思議な光景である。
その人語を解する熊は人のように歩行し、ぶつぶつと何事かを呟きながら作りかけの畑を後にした。
「あぁ…空が蒼いなぁ…」
そう呟く人物は仰向けに空を見上げていた。
「こんな日はのんびりしてたいよねぇ…」
その人物は、見た目の限りは先程の少女のように不思議な点は見当たらない。ただ、本人が無精なのか、髭は整えられた様子はなく、伸びるがままに任せられているようだ。ある程度の周期で剃っているのか、首を隠すほどには伸びていないがそれでも一般的には、もう剃れよ!!と、言いたくなるような惨状である。髪の方も似たようなもので、こちらは首にかかるほどの長さになっている。男の線の細さも相まって、髭がなければ性別がわからなかったであろう。
「あ…でもそろそろ戻らないとヤナイに怒られるかなぁ…。まだ今日の作業が終わってないし…。でもなぁ…。今日位休んだっていいよなぁ…だってこんなに天気が」
「良い訳ないでしょ!!」
男の呟きに被せるように熊が叫んだ。
「ちょっとあんた!今日こそ予定のところまで作業を進めるって昨日約束したでしょ!なんでこんなところでのんびり、キョウクライヤスンダッテイイヨナァ~、ってなによそれ!!あんた前から全く作業進めてないでしょ!!てかあんだけ作業進めたのも結局私じゃない!!あんた拾ってからこっち迷惑しか被ってないじゃないのよぉー!!」
熊はそこまで一息で言うと、ぜぇはぁと息を切らし肩…?を上下させていた。それに対して男は
「えー、と…ごめんね?」
熊でも唖然とした表情は可能なようで、その後がっくりと肩を落とした。
「…もう、いいわ…。私も一緒にやるから、さっさと戻るわよ!」
「えぇ…もう少しここでのんびり」
「出来る訳ないでしょ!作業も押してるんだからさっさと戻るわよ!」
熊は男を無理やり立たせるとそのまま背中を押し、渋る男を連れて丘を降りていった。
男が居た丘からは、優しい日差しに照らされる森が見えるようだった。
楽しんでいただけたら幸いです。