96話 4日目
イベント4日目。
畑仕事などを全てこなした俺たちは、昨日は留守だった、茸採集をしているバッツの家を再訪問していた。
今日は時間が良かったようで、すぐに出会うことができた。まあ、キノコを譲ってもらう代わりに、キノコ栽培の手伝いをさせられたけどね。
凄い発見もあったから文句はないけど。なんと、乾燥茸から出汁を取るという方法だ。干しシイリ茸を水に浸けておくと、出汁になるらしい。良いことを聞いたぜ。味噌汁のレベルがさらに向上するかもしれない。
いや、昨日の夜に作った味噌汁もかなり美味しかったけどね。
カイエンお爺さんの家に戻った俺は、手に入れた食材を使って料理をすることにした。
最初に取り掛かるのが味噌汁だ。何せ魚がある。とは言え、生で出汁を取ることは俺には難しいので、乾燥させてみることにした。すると、ビギニウグイは小魚の煮干し、ビギニマスは川魚の一夜干しというアイテムに変化する。
大きさの違いかね? まあ、煮干しがあれば出汁は取れる。どうせならとことん拘ろうと考え、浄化水と煮干しを一緒に鍋にかけてみた。すると、煮立ったところで鍋の中に変化が起こる。煮干しがどこかに消え去り、浄化水が出汁という名前に変わっていたのだ。成功らしい。品質は低いから、そこは研究が必要だろうが。
その出汁に、味噌と、狩人のカカルから購入したアタックボアの肉、青ニンジン、キャベ菜、群青ナスを投入すれば、青い具材の浮かぶ豚汁の完成だ。ただ、その効果が凄かった。
名称:豚汁
レア度:2 品質:★7
効果:満腹度を23%回復させる。2時間、HPの自動回復速度上昇。2時間、体力、精神力が2上昇。
これだ。効果が高すぎる。これは売れるんじゃなかろうか? 食事するだけでバフが付くわけだし。さらに、その次に作ったのが念願のピザなんだが、こっちも凄かった。
まずはトマトソースである。白トマトを切ってオリーブオイルを加え、後はひたすら煮詰めていく。軽く塩コショウを加え、ドロドロになったら完成だ。見た目がホワイトソースの、白トマトソースである。
前は品質が低かったことも考えて、最初にトマトの皮を剥き、煮詰める時の火加減も注意してみた。品質が★5になってくれたので、頑張った甲斐があったね。
それを焼く前のパンの生地に塗り、オリーブオイル、白トマト、群青ナス、バジルル、千切ったチーズをのせて、オーブンで焼く。
完成した物がこちらです。
名称:ピザ・1ピース
レア度:2 品質:★6
効果:使用者の空腹を13%回復させる。2時間、MP消費が8%減少。
アクアボールしか使わない俺にはほとんど意味が無いけど、本職の魔術師だったらかなり有用な効果だろう。
今朝の朝食は昨日の余り物だが、豪華な朝食だった。しかし、味噌汁がばっちり作れるようになったからには、やはり米が欲しいよな。パンも美味しいんだけど、見た目がどうしてもね。
そんなことを考えながらギルド前の広場に行くと、すでにマルカやジークフリードたちが輪になって話をしていた。
遅れたことを詫びると、とんでもないと逆に恐縮されてしまったぜ。彼らは皆この広場にテントを張っており、自然と集まってしまったそうだ。
それに、集まった協力者のうち、半数以上が俺の名前を出したらしい。昨日の女性陣が頑張ったようだな。
「むしろ白銀さんは仕事を十分こなしてくれたので、次は我々の番ですから」
「ああ、君は良い報告を待っていてくれ」
「あれ? 俺は参加しなくていいのか?」
一応、言い出しっぺの一人になると思うし、最初の方で戦うつもりだったんだけど?
「いや、それがですね……」
コクテンが何故か言い淀む。なにか言いづらい理由か? いやそうか、俺たちが弱いことは知られているし、役に立たないと思われたのかもしれないな。でも、面と向かって「お前たちは雑魚過ぎて戦っても意味がないから」とは言えないんだろ。
だが、次にコクテンの口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。
「私も白銀さんには3番目か4番目くらいに挑んでもらおうと思っていたんですが……。大反対に遭いまして」
「大反対? 誰が?」
「女性プレイヤーたちの大半ですね。皆さん、白銀さんのモンスターのファンのようでして、死に戻りさせるなんてとんでもないと。その、凄い剣幕でして……」
そう言って、コクテンは情けない顔をする。どうやら、女性陣に囲まれて散々に言い負かされたらしい。その光景を想像したら、背筋が寒くなってブルリと震えてしまった。寒気さえも再現するとは、凄いなLJO。
「それに、白銀さんには協力者をたくさん集めていただいたので、さらに戦闘までお願いするのは心苦しいというのもありますから」
「まあ、それならそれで構わないけど」
どうせ大した役には立てないからな。無駄に死に戻りするよりはマシだ。
コクテンと話していたら、広場の石碑がうっすら輝くのが見えた。誰かが死に戻ってきたようだ。
「あれ、昨日見たパーティだな」
「彼女たちは3番目にクマと戦ってもらったんです」
「え? もう始めてるの?」
「ええ、すでに私たちも死に戻りました」
コクテンたちは時間を無駄にするのが勿体ないということで、すでに朝から巨熊に挑んでいるらしい。事前情報通り、川の上流で遭遇するそうだ。コクテンたちのパーティが最初に戦ったらしい。
「どうだったんだ?」
「今のままでは難しいですね。HPを3割ほど減らしたところで力尽きました。ただ、パターンが分かれば、やれないことはないでしょう」
それは頼もしい言葉だ。
それにしても、この後どうしよう。熊と戦うつもりだったから、時間が余ったな。ギルドで依頼でも探してみるか。そう思ってギルドの中に入ったら、いきなり声をかけられた。
「あ、白銀さん!」
「うん? ああ、アメリアか」
「こんにちは!」
アメリアと彼女のモンスが駆け寄ってくる。なんと、彼女もすでに熊に挑んで返り討ちに遭っているらしい。
「いやー、歯が立ちませんね!」
「そうなのか?」
「うちの子たちもすんごく頑張ってくれたんですけどね~。瞬殺でしたー」
アメリアがそう言うと、アメリアのモンスたちがガックリと項垂れた。負けたことを気に病んでいるみたいだ。そんな彼らを慰めるように、うちの子たちが近寄っていく。
「ムム!」
「キュ!」
オルトがラビットの肩? 背中? をポンポン叩いてやり、リックはリスと鼻先をくっつけ合っている。
「クックマ」
「――♪」
クママはハニービー、リトルベアと何やら頷き合い、サクラがウォードッグを慰めるようにしきりに顎の下を撫でていた。
モンスターだけで通じ合うものがあるのかもな。モンス同士、仲が良くていいことだ。
「これから依頼を受けるんですか?」
「受けられる依頼があればね」
アメリアと話しながらクエストボードに向かおうとしたのだが、その前に受付嬢に声をかけられた。
「あの、昨日リッケと一緒にいた旅人さんですよね?」
「え? そうですけど」
何で知られてるんだ? いや、一緒に歩いてたし、村の人には普通に見られてたか。
「実は、リッケとあと2人の子供の姿が見えないそうなんです。それでリッケと最後に話したというあなたに心当たりが無いか聞きたいんですが」
「最後? いえ、俺と別れた後、ギルドか村長さんの家に行ったと思いますよ?」
巨熊のことを村の人に伝えるって言ってたからな。だが、受付嬢は知らないと言う。詳しく説明すると、非常に驚いた顔をしていた。そんな報告は受けていないのだと言う。
「ええ? でも、確かに報告するって言ってたんだけどな」
「その巨熊というのは、どんな熊でした?」
「俺は直接は見てないんですけど、かなり巨大な熊のモンスターらしいですよ。川の上流で遭遇したとか」
「なるほど……」
俺の言葉に受付嬢が考え込む。いったい何が起こってるんだ? 分かるのは、リッケが熊のことを村の人に話さずに隠していたってことか。
「あの、リッケたちの捜索をお願いできないですか? 村の人間も探しに出ているんですが、手が足りないんです」
探索クエストか。まあ、何か依頼を受けるつもりだったし、ちょうど良いな。いや、特にクエストが発生したりはしてないみたいだ。クエストではない、単なるお願い扱いってことかね?
「私も捜すわ」
「いいのか? クエスト扱いじゃないから、報酬が出ないと思うけど」
「でも、イベントに関係ありそうだしね! 他の人に声かけてくるわ!」
確かに、イベントに関連がありそうな事件ではあるな。
「じゃあ、まずは心当たりを当たってみるか」
俺は最初に釣り場に向かうことにした。村の外でリッケに関係ありそうな場所は、あそこしか思いつかないからな。
「みんなもリッケを捜してくれよ?」
「ム!」
「キュ!」
「クマー!」
「――!」
おっと、その前におばあさんの畑労働クエストをこなしておかないと。100ポイントも貰えるクエストだからな。もう慣れてきたから、30分くらいでこなせるし。
体調はもうほとんど完調したんですが、執筆が次回に間に合いそうにありません。
次回は8日に更新させていただき、その後は2日に1回更新に戻せたらいいなと思っています。




