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94話 コクテンさん

 俺たちは、釣り場で知り合ったプレイヤーパーティに連れられて、村の広場まで戻ってきていた。


 道中で自己紹介は済んでいる。クママの大ファンだと言う女性はマルカという名前だった。


 そのマルカに案内されたテントには、見覚えのある紫色の髪をしたプレイヤーがいた。騎士プレイで有名なジークフリードだ。俺にとっては3称号仲間とも言える相手である。


「やあ、マルカくんだったかな? どうしたんだい?」

「ジークフリードさん、ちょっとお話がありまして。イベントが進むかもしれません」

「おお! それは朗報だね!」

「まずは、ジークフリードさんたちに話を聞いてもらいたいんです。今、私の仲間がコクテンさんを呼びに行ってますんで」

「わかった。それと、そちらの彼とは初対面かな?」

「ああ、テイマーのユートだ」

「僕はさすらいの騎士、ジークフリード。以後お見知りおきを。君とはずっと会ってみたいと思っていたんだ」

「……俺を知ってるのか?」

「それは勿論。同じ3称号の取得者だし、白銀の先駆者と言えばノームの主として有名だからね!」


 やっぱ知られてたか。まあ、悪い奴ではないし、俺の称号に関しても馬鹿にしている様子はないから嫌ではないが。


「アカリくんに好人物だと聞いて、会える日を心待ちにしていたよ」


 そういえば、アカリが知り合いだって言ってたな。そのまま2人で雑談をしていたら、マルカの仲間がもう1人のプレイヤーを連れてきた。俺は知らなかったが、このサーバーで最も高レベルで、普段のゲームでもトップ攻略組と言われるパーティのリーダーだそうだ。


 何故そんな凄いパーティが武闘大会に出場していないのか疑問に思ったが、元々対プレイヤー戦であるPvPなどには興味が無く、武闘大会には出場しなかったらしい。


 このサーバーでも一目置かれており、なんとなくリーダーと言うか、中心的な扱いになっているようだ。そのコクテンというプレイヤーは、全身黒づくめの凄い厳つい装備を身に着けており、メチャクチャ威圧感があった。


 だが、恐る恐る挨拶すると、すぐにニコリと笑い、丁寧に挨拶を返してくれる。


「あー、こんにちは」

「はい、こんにちは。コクテンという者です。どうぞよろしく」

「テイマーのユートです。よろしく」

「いえいえ、こちらこそ」

「いえいえ」


 この感じ、この人絶対にリアルじゃ社会人だろう。他社の営業さんと名刺を交換する時の雰囲気を思い出してしまった。相手もそう思ったらしい。頭をかいて苦笑している。


「はは、ゲームの中でまで頭を下げてしまうんですよね」

「それはわかる。だから俺は、ゲームの中ではむしろ敬語とかあまり使わないようにしてるな」

「はは、それも良いですね。僕はもう染みついちゃってるので、敬語の方が楽なんですよ」


 コクテンさんが揃ったことで、準備が整ったんだろう。マルカが自分たちが襲われた巨熊のことを語り始める。遭遇地点や、強さ、黒い靄を纏っていたこと等々だ。


「黒い靄か。実は今日になって黒い靄とか霧を纏ったモンスターとエンカウントしたという話が幾つか寄せられているな」

「俺も黒いラビットと戦闘になった。倒してもドロップが無く、イベントポイントが貰えるだけだった」

「私もですね。森の深部で、黒い靄に包まれたオオトカゲと戦った。何かイベントが進行していることは確かだろう」

「マルカくん。動画か何かあるかい?」

「それはもちろん。あまり長くはないけど、熊の姿はバッチリ撮れてるわ」


 マルカにその動画を見せてもらったが、すんごい迫力があった。仲間が奇襲で倒された直後から始まり、向かってくる熊から全力で逃げる様子が撮影されている。撮影者が時おり振り返ると、凄まじい形相で牙をむく熊の姿が真後ろに迫ってきているのが見えるのだ。


 少し前に人気になった、ホームビデオ目線で進むパニックサスペンス映画に通じる怖さがあるな。


「これは凄いですね。でも、確かに黒い靄を身に纏っているのは分かるなー」

「ああ。それにしても、マルカくんたちは攻略組だぞ? そのパーティメンバーを一撃で死に戻りさせるとは……」

「そうですね。奇襲ボーナスとクリティカルが重なったとしても、一撃というのは……」


 マルカの話を聞いたコクテンとジークフリードが唸り出す。彼らからしても、この巨熊は強いらしい。


「コクテンさんのパーティでも勝てませんか?」

「分からないですね。どんな特殊能力があるかもわからないですし」

「そうですよね……。やっぱり何度か戦ってパターンを確認するしかないですね」

「だが、パターンを探ると言っても、下手に戦えば全滅の危険もあると思うが? マルカ君たちだけでは危険ではないかな?」

「なので、協力者を集めようと思います」


 そして、マルカが作戦を話して聞かせた。方々に声をかけて、パターンを探るための生贄になってくれる人々を探す。死に戻るとイベントポイントが減少してしまうため、できるだけ多く集めて、1人1死までにしたいところだが……。


「そのためにも、顔が広いジークフリードさんや、コクテンさんにも協力をお願いしたいんです。ここにいる白銀さんも、協力を約束してくれています」

「まあ、戦闘じゃ役に立たないからな。このくらいはしないと」

「そうですね。どちらにせよ、戦ってみないといけないだろうし……。最初の戦闘は僕のパーティに任せてください。多分、皆も行くと言ってくれると思います。僕たちはそういう、強いモンスターとの戦闘を目的にしているパーティですから」


 なるほど。つまりLJOを狩りで楽しんでいるパーティってことか。


「私も知人を当たってみよう。臨時のパーティを組んで、戦いに出てもいい」


 コクテンとジークフリードの協力も取り付けた。俺たちも他の協力者を集めるとしよう。まあ、俺とモンスたちは広告塔というかお神輿で、声かけはマルカたちが全部やってくれるんだけどね。


 マルカたちが心当たりに声をかけに行くと言って散っていったので、俺はギルドの前でしばし待つことにした。


 インベントリの中にある今日入手した食材を眺めながら、何を作るか色々と考えてみようかな。


「ムームッム!」

「クママ!」

「キュ!」

「――♪」


 うちの子たちは輪を作るようにしゃがんで何かをしている。覗いてみると、輪の中心には土を固めて作った山と、その山に突き刺さった棒があった。


 オルトたちが順番に、その山の土を少しずつ手で削っていく。どうやら棒倒しで遊んでいるらしい。俺も子供の頃によくやったな。


「ム……ムム」

「クマー……」

「……キキュ!」

「――♪」


 サクラ以外の3人はメチャクチャ真剣な表情だ。呆れるほど慎重な動きでゆっくりと土を崩し、その度に額の汗を拭う。まるで人生を懸けた大勝負にでも挑んでいるかのような雰囲気である。まあ、遊びに真剣なのは良いことだよね。


 だが、勝ち残りで何度も繰り返した結果、最後に勝利したのはサクラだった。結局、少し肩の力を抜くくらいがちょうどいいのかもしれない。まさか、モンスたちの遊びを見て人生の真理を悟るとは……。深いぜ。


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