91話 釣り場への道中
俺たちは釣り場に案内してもらうために、リッケと共に村を出発していた。
うちの子たちはリッケが気になるのか、周囲に纏わりついている。
「おいこら、頭に乗るなって! ああ帽子引っ張るな! ほどけちゃうだろ!」
「キュー」
「歩きづらいからあまりくっつくな! うわ、コケるって!」
「ムー」
「こら、魚籠にはまだなんも入ってないから! のぞくな!」
「クマー」
リッケに遊んでもらっていると言うよりは、完全にリッケで遊んでるな。普段は俺としか遊べないし、子供のリッケと遊べるのが楽しくて仕方ないんだろう。
サクラも笑顔でオルトたちを見ている。
ピッポーン。
そんな時、お馴染みのアナウンスが響いてきた。
『イベント3日目の12:00になりました。中間結果を発表いたします』
へえ、中間結果なんて公開されるんだな。初日と2日目に無かったから、発表されないもんだと思ってたよ。どうやら、今日からは毎日発表されるらしい。
同時にメールが送られてきているな。開いてみると、様々なデータが掲載されていた。
まずは個人データのランキングだ。今の俺のイベントポイントは149。一番のポイント入手先は、おばさんの畑の手伝いクエストの100。あとはプチ・デビルやラビットの討伐、素材納品クエストを細々やった成果だった。
順位は俺たちがいる第29サーバーにおいて、298人中274位だ。ビリでもおかしくはないと思ったんだけど、意外と順位が上だったな。
ま、ビリの人でも120程度は稼いでいるので、うかうかしてたらすぐに逆転されてしまうだろうが。
また、トップは411ポイントとかなり高い。多分、効率的に依頼を受けているんだろう。あと、プチ・デビルみたいなイベントモンスターを狩っているのかね? プチ・デビルは1匹倒しても1しかもらえないから、相当倒さなきゃいけないが……。
もう1つ気になるランキングがあった。それはサーバー貢献度というやつだ。ポイント的な物で表されているのではなく、順位だけが掲載されている。
ただ、イベントポイントの高低では決まらないようだ。なにせ、4位に俺の名前が入っているからな。いや、何でだ?
1、2位は、ポイントでもトップのプレイヤーたちがそのまま名前を連ねているが、3位にはジークフリード、4位には俺となっている。ちなみに、ジークフリードのイベントポイントは231で、139位だ。5位の人物もイベントポイントで12位となっていて、3位というわけでもない。
「うーん。嬉しいけど、何が良かったのか分からないな……」
サーバー貢献度なんてものが上昇するような、特別なことはしてないと思うんだよな。まあ、明日以降データを見てみれば、何か分かるかね?
最後に見るのが、サーバーランキングだ。なんと、33までサーバーがあるらしいな。そんな中で、俺たち第29サーバーは3位となっていた。1位は第7サーバーだ。
「へえ。結構上じゃないか」
俺以外の人たちが頑張ってくれているらしい。そうやってデータを見ていたら、リッケが不思議そうに首を傾げている。
「兄ちゃん、どうしたんだ?」
そりゃあ、隣を歩いていた奴が急にステータスウィンドウを見て唸り出したら、不審に思うよな。
「悪い悪い。ちょっと重要なメールが来てさ」
「そっかー。じゃあ、しょうがないな~」
NPCにはちゃんとゲーム用語が通じるから有り難いね。データはもう確認し終えたので、俺はリッケとの会話に戻った。これ以上放っておいたら、リッケに怒られるかもしれんし。
「キュキュッ!」
釣り場に向かって歩きながら、父親の話なんかを聞いていたら、リックが俺の肩の上に駆け上がって、警戒するように鋭く鳴いた。そして、髪の毛を引っ張りながら、森の一角を指差している。
「む。モンスターか?」
「キュ!」
リックの警戒を見て、オルト達も即座に戦闘態勢を整える。頼もしい限りである。
ただ、リックの警戒の仕方が妙だな。この辺にはラビットしか出ないし、こんな必死に訴えかけるほどか? いつもなら、軽く鳴いて警告を発する程度なのに。
10秒程待っていると、森の木々の間からモンスターが姿を現した。
「なんだ、やっぱりラビットじゃないか――?」
現れたラビットは3匹。うち2匹は、白い兎の姿をしたどこにでもいる普通のラビットであった。
だが、真ん中にいる1匹が、少々妙な姿をしていた。鑑定ではラビットと表示されるんだが、黒い靄の様な物を身に纏っていたのだ。
「リッケ、あの黒いラビット、見たことあるか?」
「おいらも初めて見たよ」
と言うことは、強いか弱いかも分からないか。名前はラビットだし、まさか全滅させられるほど強くはないよな?
「グルルルル」
「向こうはやる気だな!」
しょうがない、とりあえず戦ってみよう。
「リッケは後ろに下がってろ」
「大丈夫! おいらも戦えるよ!」
「え? 平気なのか?」
「任せて!」
俺の心配をよそに、リッケは自信満々だ。NPCが死んだらどうなるか分からないんだが、本当に大丈夫か? あっさり倒されたりしないよな。
「分かった。ただ、リッケは右にいる普通のラビットを相手にするんだ。真ん中のラビットはサクラと俺でやる。オルトとリックはリッケの護衛。クママは左のラビットを倒せ!」
「ムム!」
「キュ!」
「クックマ!」
「――!」
俺の合図で、皆が一斉に動き出した。サクラが黒いラビットに対して、鞭を伸ばす。いつも通り、拘束しようとしたんだが……。
「速いな!」
サクラの鞭を横に跳んで躱しやがった! そのまま突っ込んでくる。
「――!」
「サンキュー、サクラ!」
だが、サクラは盾もこなせるのだ。突進してきた黒ラビットは、サクラに受け止められ、軽くはじき返される。そのチャンスを逃す俺じゃないんだぜ! まあ、体勢を崩して隙だらけだったからな。誰も見逃さんだろう。
「アクアボール!」
「グルー!」
「ふう、HPは強化されてなかったみたいだな」
黒ラビットは魔術を食らうと、悲鳴を上げて一撃で沈んでいた。サクラの受けたダメージを見るに、攻撃力もたいしたことはなさそうだ。強化されていたのは敏捷性だけみたいだな。
「クマー!」
よし、クママの方は問題なくラビットを仕留めているな。リッケたちの方はどうだ?
「ムー!」
「キュー!」
「とりゃー!」
オルトがクワでラビットの攻撃を防いだところに、リックが飛びかかって体勢を崩した。そこにリッケの攻撃が炸裂だ。なんと、釣り竿を振って釣り糸を飛ばし攻撃している。しかも、HPが半分残っていたラビットを仕留めたということは、攻撃力もそれなりにあるんだろう。攻撃射程も広いし、釣り師ってもしかして強いんじゃないか?
「何とかなったか」
「へっへーん。おいらも結構強いだろ?」
「そうだな」
あれなら、ラビット相手の戦闘で戦力と考えて問題ないだろう。
さて、戦闘も終わったし、ドロップをチェックしておこうかな。何か特殊なドロップを落としているかもしれないし。
だが、俺の予想に反して、黒ラビットは特殊なドロップを残していなかった。と言うか、ドロップ自体が無かった。その代わり、イベントポイントが4点入手できている。
ドロップが無く、イベントポイントが入手できる? 先日倒したプチ・デビルと一緒だ。ということはイベントモンスターだったってことか。あんなタイプもいるんだな。




