900話 いざ金の大陸
壊れた砂のランプを買い直してから転移で魚人のもとに戻る。虹の花を渡すと、彼はとても喜んでくれた。淡い虹色の光を放つ花を両手で掲げながら、小躍りしているのだ。
「新鮮な虹の花か! 素晴らしい! ありがとう! 本当にありがとう!」
これだけ喜んでくれるってことは、虹の花がそれだけいいアイテムってことかね? 500万のランプが壊れたのは悲しいが、すぐに元が取れるかもしれない。
「助けていただいたうえ、これだけ良くしてもらって何も礼ができないのは心苦しいが……。そうだ! お主らは冒険者なのだから、遺跡などに興味はあるか?」
「え? まあ、あります」
「ならば遺跡までの道を作ろうぞ! ここの真下に丁度地下水脈があるからな! うむ! それがよい!」
魚人は一方的に納得すると、そのまま部屋の床に手をついた。そして、何やらオーラのようなものを放出する。
すると、地面に再び流砂が生み出されたではないか。やはりコクテンたちとは違うルートを引いたらしい。あと、流砂が生み出された勢いで、壁も壊れた。コクテンたちが通ったルートも選べるってことなのだろう。
「さあ! 飛び込むのだ! さすれば遺跡に辿り着くであろう!」
「うわっ!」
ちょっと考え込んでたら、魚人さんがグイグイ来るんだけど! 顔のどアップ怖い!
「さあさあ! いくがいい!」
「ちょ!」
押さないで! あ、ヤバ――。
魚人さんに文字通り背中を押されて流砂に飛び込むと、全身をもみくちゃにされる感覚に襲われる。
どうやら普通の流砂とは違うらしい。洗濯機かっていうくらいにグルングルンだ。
砂メッチャ口に入ってくる! 鼻にも! あ、なんか冷たい! 水? 砂だけじゃなくて水もある! というか、途中から水路の中を流されていくんだけど! これが地下水脈? いや、また砂の中に戻された! なんだこれー!
「うおー」
そして、砂と水に揉みくちゃにされた俺は、ポイッと地面に投げ出された。勢いが付きすぎて、変な声を上げながら数メートルほど転がってしまったぜ。
砂と水で全身がグッチャグチャだ。ああ、お風呂に入りたくなってきた。
「クマー!」
「フムー!」
「ちょ、待って! 転がり過ぎだって! つ、潰れる!」
俺の後に続いて流砂に呑み込まれたモンスたちが次々と排出され、俺の上に重なっていく。俺がすぐに起き上がらなかったのも悪いけど、なんでずっと乗ったままなんだよ!
明らかに楽しみやがって! 全員砂だらけじゃんか!
「はいはい! どいたどいた!」
「――♪」
「キキュ!」
リックも楽し気だけど、下手したらクママの尻の下だったぞ? 後先考えずにヤンチャするのも程ほどにな?
水魔術で全身の砂を洗い落としながら、周囲を見回す。
「で、ここはどこだ?」
「ラー?」
「ペペン?」
魚人さんが言っていた通り、遺跡だ。砂の中に埋もれた、古代遺跡なのは間違いない。砂と同じ薄茶色の石材が、年代を感じさせるね。
「砂の中の古代遺跡となると、コクテンたちの情報にあったアレだが……」
多くのモンスターを倒し、ボスを撃破した後にようやく辿り着くという話だったんだがな。どうやらショートカットを引いたらしい。
コクテンたちの場合が戦闘が得意なプレイヤーのためのルートで、俺のが非戦闘職ルートなんだろうか?
一本道の遺跡を恐る恐る先へと進むと、広い部屋に出た。その中央には、白い輝きを放つ巨大な魔法陣が描かれている。
「やっぱそうだ」
早耳猫で購入した転移陣のスクショと全く同じである。ここが新大陸へと転移するための装置で間違いなさそうだった。
マジでボス戦までスキップしちゃったよ。人によっては経験値や素材が手に入らないのでデメリットなんだろうが……。
「やったぜ! 絶対に勝てない戦闘を回避できちゃったよ! みんな、転移するから固まれ!」
「キキュー!」
「トリリ!」
時間的にそろそろログアウトしたいし、さっさと先へと進んでしまおう。皆で転移陣に乗ってウィンドウを開くと、????へ転移するかという文字が表示される。
何も知らなかったら悩むんだろうが、転移先が分かっている俺は躊躇わないぜ! Yesをポチッと押す。
直後、俺たちの視界がグニャリと歪んだかと思うと、エレベーターに乗っている時のような浮遊感に襲われた。
そして、視界の色が切り替わる。まだグニャッているから、どんな場所か分からん! そうして少し待っていると、視界が元に戻り始め、周囲の景色がよく見えてきた。
「うわー! すっげー!」
「フムムー!」
そこは、小さな島の上だった。緑が豊かな小高い島の頂上に大きな魔法陣が鎮座し、そこに俺たちが跳んできたのだ。
しかも、周囲には同じような島が無数に連なっている。月明かりに照らされた島々は、息を呑むほど美しい。
ピッポーン!
『新大陸を発見しました。到達したプレイヤーに、称号『金の大陸到達者』が授与されます』
よし! 称号もゲットした。やっぱりここが金の大陸で間違いないぞ! 正直、大陸と呼ばれているけど、諸島とでも呼んだ方が正しいように思えるが。
本当は探検をしたいところだが、時間がもうない。初新エリアを夜に探索するのは怖いしね。
楽しむのは次にとっておこう。俺はそう決意すると、転移で始まりの町へと戻った。しかし、まだログアウトはせんぞ!
「すみません! 情報買ってください!」
「え? ユート君?」
「あらー?」
俺が急いで向かったのは早耳猫である。飛び込んできた俺を、アリッサさんとメイプルが驚いた顔で見ているな。
「だ、だって、さっき金の大陸の情報買っていったばかりじゃない? も、もしかして?」
「はい! 金の大陸に辿り着きました!」
「ど、どうやって! あのモンスターの波は、私たちだってまだ……! えええええ? 本当なの? ええ? なんで?」
そうだろうそうだろう。驚くだろう! 俺みたいな雑魚がモンスターの大群を乗り越えられるわけがないのだ! でも、それが必要なかったからね!
俺はニヤリと笑って、アリッサさんにログなどを見せていく。2人がビクッとしたのはなんで? 黒幕的ニヤリ笑い、そんなに似合ってなかった? それとも似合い過ぎてて怖かったとか?
「キュ……」
分かってるよ! そんなことあり得ないって! だからそんな目で見るなよリック! はいはい! 説明に入りますよ!
「金色卵は――」
「コクテンたちだからねぇ」
「情報売る時に注意しないと」
「この扉に文字が――」
「か、解読スキル!」
「モノリス解読のために全員スキルレベリング中だわ!」
「砂のランプを使えば――」
「虹の花が採取可能って!」
「ラ、ランプの検証をしないとっ!」
「――で、魚人さんのおかげで、遺跡にショートカットできたってわけです!」
「うみゃあああああああぁぁぁぁぁぁ! マジでありえなぁぁぁぁい!」
「ふえええぇぇぇぇぇぇ!」
おお! ダブル絶叫! いやー、今回の情報は俺でもヤバいって分かるからね! そりゃあこうなるよね! いいもん聞かせてもらいました!
「ああ! アリッサ! 気をしっかり持って!」
「くっ! 警告が……!」
「アリッサッ! アリッサァァァァァァ!」




