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90話 カカルさん

 広場で多少時間を使ったものの、俺たちは無事に狩人のカカルさんの家を発見できていた。


 とりあえず声をかけて、ノックしてみる。


 すると、家の扉が少しだけ開いた。10センチほどの隙間が空く。おっと、もしかして警戒されてる? そのまま待っていたら、扉の隙間から何かが動くのが見えた。


 人だ。見上げるような高い位置に、老人の顔が確認できた。ギョロリとのぞく老人の目が不気味だ。


 ちょっと前に流行った、排他的な寒村を舞台にしたサバイバルホラーにこんなシーンあったな。この後、余所者は去れ! とか叫ばれて、そのまましつこくすると鉈を持った老人に追いかけられるのだ。


「余所者か」


 え? 嘘。もしかしてサバイバルホラー展開なの? 長閑で綺麗な田舎の村だと思ってたのに、実は恐ろしい闇が潜んでいるのだろうか? 優しいと思っていたカイエンお爺さんも、実は夜な夜な怪しい儀式を行う狂気の人だったりするのか?


 そんな恐ろしい想像をしていたら、扉が静かにゆっくりと開いた。中から、白いひげを蓄えた、筋骨隆々のお爺さんが出てくる。


 は、迫力あるなー。身長も俺よりはるかに高いし、その眼光は恐ろしく鋭い。眉間から頬にかけて深い傷跡が走っており、どう見ても山賊の頭領か、歴戦の古強者であった。


 元最強の冒険者とか言われても納得してしまう風格がある。というか怖い! なにこの無駄に強そうなお爺さん!


 しかもその右手には巨大で分厚い鉈が握られており、その迫力を倍増させていた。あれ、冗談で言ってたのに、本当に襲われたりしないよね?


「こ、こんにちは」

「ああ」

「カ、カカルさんでしょうか?」

「うむ」


 一応頷いてくれているが、表情は全く動かず、内心でどう思っているのかは全然わからない。俺は怒らせないように細心の注意をはらいながら、お爺さんに質問をした。


「こちらで、カカルさんが仕留めた獲物を譲っていただけるという話を聞いてきたんですが、私にもお売りいただけますか?」


 き、緊張する! 新入社員だった頃、何故か社長と一緒にディナーを食べることになってしまったときと同じくらい緊張する! あのときは社長が突発的に若い社員に太っ腹アピールをしたくなったらしく、残業で残っていた俺たちがめでたく連行される運びとなってしまったのだ。お高いレストランでご馳走になったはずなのだが、何を食べたかも定かではない。覚えているのは、社長の親父ギャグのセンスが最悪だったってことだけである。


「誰に聞いた?」


 豆農家のクヌートさんと同じパターンか? だが、俺には心強い味方がついている!


「カ、カイエンお爺さんです」


 カイエンお爺さんの名前を出すと、カカルさんの表情が少しだけ和らいだ気がした。鬼だったのが、仁王くらいには変わったと思う。


「そうか、カイエンの紹介か」

「は、はい」


 ここはクヌートさんも落としたラブリー攻撃をお見舞いしたいところだが、どうしてもオルトたちをけしかける勇気が出なかった。


 カカルさんに有効かどうか分からない。なにせ、この凶悪な面の筋肉爺さんが、可愛い物を愛でる姿など想像できないからな。


 それに、オルトたちもカカルさんの迫力にビビッているのか、俺の後ろに隠れてしまっている。オルトが俺の足に真後ろから抱き付き、そのオルトの背中にクママが、さらにその後ろにリックが隠れている。


 こいつら、俺を盾にしやがったな。サクラだけはそんな弟分たちを呆れた顔で見ていた。


「で、何が欲しい?」

「あ、売ってもらえるので?」

「ああ」


 俺の目の前に商品ウィンドウが開かれる。とりあえず商品を売ってはくれるらしい。


 ラビットの毛皮、ラビットの肉、リトルベアの毛皮、リトルベアの爪、アタックボアの肉、アタックボアの毛皮、オリーブトレントの実、オリーブトレントの枝というラインナップだった。


 アタックボアというのは第2エリアに出現する猪型のモンスターである。リトルベアと同じくらいの強さらしい。


 オリーブトレントは初めて聞いたが、どう考えてもオリーブオイルの原料はこいつだろう。まさか畑で育てるんじゃなくて、モンスターから採取しているとは思わなかった。


 ラビット、リトルベアの素材は自力でどうにかなる。アタックボアはまだ戦ったことはないが、イベント終了後でも問題ない。出現場所の情報は知ってるからな。


 問題はオリーブトレントだ。枝は無理して入手する必要はないと思うが、実はぜひ欲しい。オイルを搾ってもいいし、料理に使ってみても面白そうだ。


 値段は1つ200Gと高価でもないし、俺は上限の5つまで購入しておくことにした。それと、今日の晩飯用に、アタックボアの肉も一緒に購入する。


 その後、カカルさんに怒られたり、ましてや襲われることなどなく、俺たちはぶっきらぼうな態度で見送られながら、カカルさんの家を出るのだった。


 もしかして顔が怖くて少しシャイで、ちょっとばかり寡黙なだけの、善良な一般市民だったのだろうか? いやいや、まさかね。


 まあ、とりあえず猪肉は手に入った。豚ではないが、これで豚汁モドキが作れそうだぜ。となると、ぜひ出汁もちゃんと取りたいところだ。絶対に魚を手に入れてやるぜ!


 俺はそのまま、カカルさんの家の数軒隣にある、漁師のリッケさんの家に突撃した。


「よし、ぜひ魚を手に入れるぞ」

「兄ちゃん、魚が欲しいのかい?」

「え?」


 俺が勢い込んでノックをしようとしたそのときだ。後ろから突然声をかけられた。振り返ってみると、日に焼けた小麦色の肌と、手編み感満載の麦わら帽子いかにも田舎の子供っぽい、元気そうな少年が立っていた。


 満面の笑みを浮かべて少年がトコトコと近寄ってくる。


「こんにちは! おいらはリッケっていうんだ! 兄ちゃんは?」

「俺は旅人のユートだ。君が漁師見習いのリッケ?」

「うん!」


 漁師見習いという肩書を聞いて、若い男性を想像していたが、まさかこれほど若いとは。12歳くらいだろう。だが、腰には魚籠を吊るし、長い釣り竿を肩に担いでいるし、嘘じゃないだろう。


「君にお願いしたら、魚を分けてもらえるかもしれないって聞いてね。訪ねてきたんだけど」

「あー……そういうことか」


 俺が魚が欲しいと言うと、リッケの表情が曇った。どうやら、簡単にはいかないか。


「おいら、見習いだろ? 父ちゃんほど、たくさん釣れるわけじゃないんだ。だから、村の人に頼まれた分を手に入れるだけで精いっぱいなんだよ。ごめんな」

「1匹も余ってないのか?」

「うん。むしろ足りないくらいなんだよ」

「そうか……」


 それは本当に残念だ! でも足りてないってことは、何かクエストをこなして譲ってもらうこともできないだろうし。


「うーん。どうしても魚が欲しいのかい?」

「是非にも」

「じゃあさ、魚が釣れるポイントまで一緒に行ってやるからさ、自分で釣ったらどうだい? おいらももう一度釣りに行くつもりだからさ」


 それは意外な提案だな。だが、そんなこと可能なのか? もし釣れるなら、ぜひ釣りたいんだが。


「俺、釣りスキルを持ってないんだけど?」

「そっかー、じゃあ無理だな」


 そんなあっさり!


「だって無理なものは無理じゃん?」

「待て、釣りスキルがあれば、釣りができるんだな?」

「ああ、釣り竿も貸してやるよ」


 ならば問題ない。ボーナスポイントは残っているのだ! 今後に備えて戦闘スキルを取るつもりだったけど、ここまで来たら意地だ。それに、ゲームの中で釣りなんてちょっと面白そうだ。


 そして、俺は2ポイント支払って釣りスキルを取得したのだった。


「よし、早速釣り場にゴ~!」

「おう、おいらに任せておきなよ! とっておきのポイントに案内してやるから!」



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