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877話 緑の大樹号


「4階はかなり使いやすそうだな」

「ニュ」

「それに、この上は甲板のはずなのに、足音とかも聞こえないのはいい」

「ニュ!」


 出航までの短い時間で、特別客室のある4階を回ってみたんだが、優遇され過ぎじゃねって言うくらい使いやすくなっていた。


 特別客室からすぐの場所に、生産施設、4階の乗客専用の購買、モンスたちとも入れるプール、カフェがあったのである。本格的に客室で生活できそうだった。船長室なんかもこの階層にあるらしい。


「あとで生産施設を使ってみような」

「フム!」

「フマー!」

「購買も中々すごかったよな。楽譜とかまで売ってるとは思わんかった」

「ヤー!」


 マイナー職業用のアイテムも充実していた。多分、全職業が船内で不自由しないようになっているのだろう。苗木や種まで売っているのには驚いた。


 どうやら、部屋に置いてあるプランターで育てることができるらしい。まあ、うちの畑にある作物ばかりだったから、あまり意味はないだろうけど。部屋でオルトたちの暇つぶし用に、使ってもいいかもしれない。


「じゃ、そろそろ出航みたいだから、一度甲板に出るぞ。なんか出航イベントがあるみたいだからな」

「ニュー」

「うん? どうしたメルム」

「ニュニュ」


 なにやらメルムが甲板を気にしている。そちらを見ると、1人のドワーフが大砲のようなものを移動させているではないか。


 出航前から戦闘の準備?


 ドワーフたちが大砲を甲板の端に並べる光景を眺めていたら、親方に呼ばれた。


「ユート殿! いよいよ出航だ!」

「親方も船に乗るんですか?」

「勿論よ! 航海先でこいつが壊れたら、直してやんなきゃいけないからな!」


 親方がいなくなったら誰が船を作るのかと思ったが、他にも船大工はいるらしい。まあ、ゲーム的に考えれば、船が新造されるたびに新しい親方が登場するんだろうな。


「それじゃあ、儀式を開始するぞ! ユート殿はこっちだ!」

「え? 俺?」

「筆頭船主なんだから当たり前だろう!」


 親方が俺をグイグイと引っ張って立たせたのは、船の先端部分であった。タイタニックで、レオ様たちが手を広げていちゃラブしてたあの場所だ。


「ほら、これを持て!」


 親方に手渡されたのは、酒の瓶だった。あれ? 酒瓶を割るのって、進水式じゃなかった? これは出港式だよね?


「それじゃあ、その酒瓶の中身を海に流しながら、この船の名前を叫ぶんだ!」

「え? 名前?」

「そうだ! この船の名前だ!」

「俺が付けるの? ちょ、ちょっと待って! 何も考えてないんだけど!」

「そんなもん、フィーリングでドーンといけ! ただ、公序良俗に反する名前と、聞いた人間が不快に思う名前は神によって変更される場合があるから注意しろ」


 ゲーム的な注意入ったよ! でも、急すぎるでしょ! 事前に言っておいてくれればよかったのに!


「ほら! どうした! みんな待っているぞ!」

「げぇ!」


 言われてみると、港には大勢のNPCとプレイヤーが詰めかけ、こちらを見上げていた。完全に出航イベントが始まったって思われてる!


 いや、これが出航イベントなの? だったら絶対に失敗できない! というか、変な名前つけたら、ずっと残るのか?


「あ、あー、デフォルトの名前とかはないのか?」

「最初から決まってる名前ってことか? あるぞ!」

「それ! それは何て名前なんだ?」

「うむ。グレートユート号だ!」

「却下ぁ!」


 運営め! 筆頭船主に対するサービスのつもりか? 全然サービスじゃねぇんだよ! むしろ罰ゲーム!


「むむぅ……」

「ヤー?」

「フマー?」

「ペペーン?」


 モンスたちが俺の真似をして、しきりに首を捻っている。可愛い。いや、そうじゃない。船の名前を考えねば!


 船! 船の名前と言えばなんだ? ヤマト? ムサシ? アル〇ディア? ナデ〇コ? ブリュ○ヒルト? いかん、後半は宇宙船の名前だ!


 もっとわかりやすい……それこそこのゲームに関係ありそうな名前……?


「み、緑の大樹号で!」

「おお! いいのではないか?」


 水臨大樹はゲームでも一番有名な樹だし、それにあやかるのは我ながらいい案だ。親方も納得してくれたみたいだし。


「ほれ、宣言しろ! デッカイ声でな!」

「こ、この船の名前は、緑の大樹号だぁぁぁぁ!」


 ダサいと言われたらショックで立ち直れなかったかもしれないが、眼下に集まっている人々は一斉に歓声を上げる。どうやら受け入れられたらしい。よかった。


 まあ、プレイヤーのほとんどは、場の雰囲気で声を上げているだけだと思うけど。


「それじゃ、次は酒だ! 海神様へと捧げるんだ!」


 俺は親方に言われた通り、酒を海へと注ぎ入れる。紫色の液体が、トポトポと海へと流れ落ちていった。これでいいのか不安になるが、間違っていなかったらしい。


 同時に、大砲が火を噴いた。上空で、色とりどりの煙が炸裂している。空砲ではなく、煙花火を打ち上げたようだ。これも儀式の一環ってことなんだろう。


「よーし! これで出航の儀式は完了だ! 無事に出航できるぞ! ご苦労だったなユート殿!」

「お、おお」


 疲れた! 精神的に疲れたよ! よく頑張った俺!


「とりあえず部屋戻ろうかな」

「ニュ!」

「ヤヤー!」


 第二の犠牲者が出ないように、筆頭船主は船に名付けしなきゃいけないって、アリッサさんに周知してもらおう。


 俺は事なきを得たけど、場合によっては悲惨なネーミング事故が起きるかもしれんからな。ずっと残るものだし、今後筆頭船主になる人はじっくりと考えて名前つけてください。


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― 新着の感想 ―
例のチャットで「サスシロ号」とか呼ばれそうな気がする…
さすがに、アリッサの祝福号は無いにしても、農夫オルトではなくて樹精関係のほうになった…いや、船舶は女性に見立てるんだったか。 でも元ノーム探検隊から、白銀のオルト号って命名された船ができたりして。
単純に、自分の名前を船の名前には付けられない、とかそういうのじゃないかなぁ
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