88話 3日目!
イベント3日目。
今日もモンスまみれの状況で目覚めた俺は、微睡んでいる皆をベッドに残して、キッチンに向かった。そして、早速朝食作りに取りかかる。平パン、不味そうな見た目の味噌汁、野菜炒めの簡単料理だけどね。ただ、カイエンお爺さんの家にはもう肉が無かったので、肉は昨日の夜狩りで手に入れてきたウサギ肉を使っている。
「今日はどうするんだい?」
「実は幾つか欲しい物があるんですけど、村で手に入りますかね?」
「何が欲しいんじゃね?」
「魚介類ですね。海の産物があればベストなんですけど。あとはチーズも欲しいです」
「こんな辺鄙な村に、海の物が入ってくるわけないじゃないかい」
「そうですか~」
ですよね~。ここは海から遠そうだし、まあ期待はしていなかったが。
「川魚なら、リッケの奴に頼めば用立ててもらえると思うが」
「リッケ?」
「うむ、川漁師見習いのリッケじゃな。本来はその父親が魚を獲っているんじゃが、今は武闘大会の観戦に出てしまっておるでの。息子のリッケが代わりに働いとる」
じゃあ、そのリッケっていう人に会えれば、魚が手に入るかもしれない。鮎などで出汁を取ったラーメンを食べたこともあるし、川魚でも出汁が取れないということはないだろう。なにより、普通に魚が食べたい。これはぜひ訪ねてみなければ。
「あと、チーズはアバルの所に行けばあると思うぞい?」
「その人は酪農家さんだったりします?」
「うむ。そうじゃ」
この村は自給自足なので、商店に卸したりするのではなく、生産者が家などで直接販売していることが多いらしい。
これは本当に良い情報だな。そうか、店で買うだけがアイテムの入手方法じゃないってことだよな。
「他にも家で細々と販売しているような人はいますか?」
「そうじゃな……。茸採集をしてるバッツと、狩人のカカル、あとは豆農家のクヌートは自宅で細々販売しておるよ?」
ほほう。全て面白そうだ。俺は全部の家の場所をお爺さんに教えてもらい、今日のうちに回ってみることにした。
その前に畑仕事だけどね。カイエンお爺さんの畑に向かうと、お爺さんの畑には、様々な野菜が育っていた。やはりオルトの栽培促成exと、サクラの樹魔術の力は偉大だね。
「よし、今日は収穫できるな」
「ム!」
「――♪」
「クマ!」
「キュ!」
ただ、この後どうすればいいんだろう? 全部収穫して家に運べばいいのか? この後、種まきは?
俺はオルトたちに畑を任せて、一旦お爺さんにどうするのか聞きに戻った。すると、半分は株分して畑に蒔くのだそうだ。それも俺たちにやらせてもらう。オルトたちの経験値稼ぎにもなる仕事だからね。
畑に戻ると、皆が楽し気に畑仕事をしている様子が目に入ってくる。長閑な畑で一所懸命働く妖精や動物たち。うーん、いつ見てもファンタジーな光景だ。
「ムッムッム!」
「――♪」
オルトとサクラは野菜を収穫しているが、そのやり方も微妙に違う。
オルトは威勢よくブチブチと抜いていくが、サクラは一個一個丁寧に収穫している。品質に差は出ないと思うが……。大丈夫だよな、オルト?
クママとリックは協力して草むしりをしている。しっかりと役割分担ができているようで、クママが根の強そうな大きい雑草を、リックが小さい雑草を引き抜いていた。
「キュー!」
「クマクマクマー!」
特にクママは草むしりに意外な才能を発揮しており、普段は敵を斬り裂く鋭い爪で、まるで耕運機のように土を掘り返しては次々と雑草を駆除していった。
いつもと違う畑での仕事にも慣れてきたのか、昨日よりもかなり早く終わっている。この調子だと、他の畑でも時間が短縮できるかもしれないな。
お爺さんの畑の次は、おばあさんの畑に向かう。こっちも様々な野菜が収穫可能だった。今日は収穫するだけで種まきが無いからね。サクサクと仕事が終わってくれる。
1時間後。
おばあさんの畑の後、果樹園での仕事を終えた俺たちは、皆で連れ立って村の中を歩いていた。目指すはおばあさんの店。そして、生産者の皆さんの自宅である。
最初はおばあさんの雑貨屋だ。畑で収穫した野菜を納品して、依頼達成だからね。
「おはようございまーす」
「あんたは昨日の旅人かい? 何の用だい?」
「作物の納品にきましたー」
「おや、ずいぶん早いじゃないか。それは助かるね。で、どんな塩梅なんだい?」
「えーっと、これなんですけど」
品質が低いとか怒られたらどうしよう。ちょっとビビりながら野菜をおばあさんに手渡す。おばあさんはギョロッとした目でしばし野菜を見つめていたが、すぐに口元をクイッと上げるニヒルな笑みを浮かべた。
「いい出来じゃないかい。これなら問題ないね」
「そうですか、良かった」
「報酬はギルドで受け取りな。早く納品してくれた分、色を付けておくよ」
「ありがとうございます」
収穫してきた野菜はおばあさんのお眼鏡に適ったらしい。まあ、嬉しさよりも怒られずに済んだ安堵の方が大きいけどね。
おばあさんの店を辞去した俺たちは、そのままの足で冒険者ギルドへ向かった。ギルドは今日も空いてる。クエストの達成を報告すると、予定よりもポイントが多くもらえた。多少のお金なんかよりも、余程嬉しいボーナスだ。
俺はそのままの流れで、何かできそうなクエストが無いか掲示板を覗いてみた。そして、ある1つの労働クエストに目が止まる。
「またおばあさんの依頼が出てるじゃないか」
それはいま達成したばかりの畑の世話をするクエストだった。依頼主も依頼内容も全く同じだ。どうやら無限に繰り返しができるクエストだったらしい。
俺は迷うことなくクエストを受けておいた。俺にやれそうなクエストの中では比較的ポイントが良いからね。普通なら数日かけて野菜を育てて、納品するクエストなんだろう。それを俺たちなら毎日繰り返せるのだ。いやー、美味しいね。
俺は再びおばあさんの店に行って、クエストを再び受領した。この辺は学習型のAIらしく、2度目だからという理由で詳しい説明などは端折られた。昔のゲームだったら、NPCからまた面倒な説明を受けなきゃいけないところだったぜ。
2時間後。
おばあさんの畑の水やりなどを全て終えた俺たちは、カイエンお爺さんに教えてもらった生産者さんの家へと向かって歩いていた。
最初は、酪農家のアバルさんのところだ。ここは俺も知っている。先日村を歩いた時に見つけた、村はずれの牧場だろう。牛が数頭いたのは覚えている。
「すいませーん」
「ほーい?」
牧場横にある一軒家の扉のノッカーを叩いてみる。勿論、ノッカーは牛の頭の形で、鼻輪の部分を叩く仕様だ。運営、分かってるじゃないか。しばらくすると、中から恰幅の良いおじいさんが顔を出した。
「おや、旅人さんかね?」
「こちらでチーズを譲ってもらえると聞いたんですが……。私にも譲ってもらえますかね?」
「おお、そういうことか……」
俺の問いかけに、アバルさんが難しい顔で考え込んでしまった。あれ? 売ってもらえない?
「うーん、村の人以外に売ることを考えてないんだよね。それに、数も多くないから、君に売ってしまうと村の分が足りなくなってしまうかもしれない」
「なるほど」
「だが、わざわざ来てくれてただ追い返すのも忍びない」
「ということは?」
「願いを1つ聞いてくれないかい? その報酬として、我が家で食べる分のチーズを譲ろうじゃないか。どうだい?」
おお、突発依頼発生か? ぜひ受けたい! 内容次第なんだけど……。
「やってもらいたいことは、お菓子の調達なんだが」
「お菓子ですか?」
「ああ、最近は友人たちとお昼にお茶をしてるんだが、次のお茶会で私がお茶菓子を用意する番なんだよ。でも、心当たりがなくてね~。果物でも買おうかと思ってたんだが、5人分、何か用意できないかい?」
お菓子か。どれくらいの物ならお菓子と認定されるかだな。ハチミツナッツクッキーは持っているが、アイテム図鑑には携帯食料と同じページに表示されている。
もし、カテゴリとしてのお菓子じゃないとダメと言うなら、用意するのはそこそこ頑張らないといけないだろう。とりあえず聞いてみようかな。
「クッキーとかで構わないんですか?」
「どういう物かね?」
「えっと、これなんですが」
「おお! これはいいねぇ!」
俺はインベントリに仕舞っていた、ハチミツナッツクッキーを渡してみた。すると、アバルさんは喜色満面で頷いている。これでもお菓子と判断してもらえたらしい。なんか、一瞬で依頼達成してしまった。
「じゃあ、5枚でいいんですか?」
「ありがとう! みんな喜ぶよ!」
こうして俺は念願のチーズを手に入れたのだった。しかも、想像してたのよりもデカイ、ホールのチーズだ。30食分もあるらしい。
元手もほとんどかかっていないクッキーが、チーズに化けるなんて、わらしべ長者の気分である。俺が得しすぎな気もするが、イベント内のクエストだしな。初めから所持したんでなければ、村の中でお菓子を手に入れるのは結構苦労しただろう。
「トマトソースにチーズにオリーブオイル、バジルルもある。これでイタリアンが色々と作れるぞ~」
やばい、燃えてきた!
リアルがまだ忙しく、次の更新は3日後です。
申しわけありません。




