867話 雲外鏡
ライチョウ草原の町の中を、妖怪を探して歩く。妖怪察知はスキルの範囲内に妖怪がいると、音で教えてくれるというスキルだ。
近づけば近づくほど音が大きくなるので、それに従って方角を少しずつ特定していくという感じである。金属探知機のシステムに近いかもしれない。
妖怪察知に従って進んでいくと、妖怪は町の外れの方にいるようだった。というか、外に出ちゃったりしないよな?
不安に思いながら100メートルほど歩いた頃、今度は妖怪探索に反応があった。効果はほとんど妖怪察知と同じだが、探索のほうがより正確に場所を特定できるらしい。
具体的には、音の大きさだけではなく、低音、高音で高さ、音の長さで方角まで教えてくれるのだ。
その結果、俺は林の中にある小さな社のようなものを発見していた。一応、ここもまだ町の中という判定ではあるらしい。ギリギリ町を囲む柵の中だしね。
元々は白木で作られた、小さなお社だったのだろう。完全に和風な感じだ。ただ、長い間打ち捨てられているのか、全体が黒ずみ、屋根の上は苔で覆われている。
杉のような真っ直ぐな樹が立ち並ぶ林の中にこの社があると、メチャクチャ雰囲気があるね!
「この中に妖怪がいるっぽいな」
「ポン!」
「それじゃあ、開くからな」
社の扉に静かに手をかける。腐りかけの扉だが、破壊せずに開けることができた。中を覗き込むと、意外なものが置かれている。
「これは、鏡?」
「ポン?」
社の中に安置されていたのは、一枚の鏡であった。サイズは一般的な壁掛け時計くらい? ガラスを嵌めているのではなく、金属を磨いて鏡としているようだ。
「銅鏡ってやつかな?」
「ポン?」
この鏡が妖怪なのか?
手に取っていいものかどうか迷っていたら、急にウィンドウが立ち上がった。
「なになに? 妖の絵巻物を使用しますか?」
買ったはいいけど使い道が分からなかったあのアイテム、ここで使えんの?
「……どうすっかね?」
何が起きるか分からないし、超高額アイテムだし、使えって言われてもなぁ。
「ポン?」
「うん? 使ってほしいの?」
「ポン!」
チャガマがメッチャ見てる。というか、待ってるモンスたちも超興味津々だ。全方位からキラキラした目で見つめられて、もう使わないという選択肢がない気がする。
「……まあ、どうせ使い道が分からなかったアイテムなんだし、ここで使っちゃってもいいか」
「ポコ!」
「よし! 妖の絵巻物、使うぞ!」
「ポンポコー!」
俺がウィンドウのyesをタッチした瞬間、どこからともなく妖の絵巻物が飛び出してきた。そして、光の粒となって弾け飛び、鏡に吸い込まれていくではないか。
やっぱ使うと消滅するっぽいなー。
《イベントの一部をスキップし、雲外鏡と友諠を結びました》
「は?」
「キョ!」
アナウンスが流れたかと思ったら、雲外鏡に目が生えた。というか、姿も微妙に変わったな。緑青に覆われた緑色の曇った銅鏡だったのに、綺麗なブロンズカラーの、僅かな曇りもなく磨き上げられた銅鏡に変化しているのだ。
その鏡の中央部分に可愛い目が描かれている。どうやら鏡に浮き上がった絵文字のような顔でコミュニケーションが取れるらしい。笑顔の絵文字そっくりだな。
「キョ!」
雲外鏡は笑顔で一鳴きすると、一瞬で姿を消した。パーティに枠がないので、ホームへと移動したのだ。
「一度召喚してみたいな。すまん、チャガマ。雲外鏡と入れ替わってもらうな?」
「ポコポン!」
チャガマは笑顔で右手をシュタッと上げ、手首をピコピコと動かす。何の動きだ? メッチャ可愛い。そして、嫌がる素振りがない。
さすが我が家のおもてなし番長。仲間をぜひ使ってやってって感じらしい。
「ありがとな」
「ポコー!」
「チャガマ送還で、雲外鏡を召喚!」
チャガマの頭を撫でてから、雲外鏡と入れ替える。
「キョキョ!」
甲高い声で嬉し気に鳴く雲外鏡は、俺の目の前にプカプカと浮いていた。どうやって動くのかと思っていたら、普通に浮かぶことができるらしい。
「能力は、真実看破に反射?」
鏡っぽいと言えば鏡っぽい能力だな。でも、真実看破ってどこで使うんだ? 創作物でよくあるあれだろ? 変身している悪魔の姿を暴くとか、呪いで猫に変えられている王女の呪いを解いて仲間にするとか、そういうやつ。
イベント以外で使い道なくない? それとも、変身能力を使ってくるような敵がこの後たくさん出てくるとか?
反射は逆に強すぎない? 普通に考えたら攻撃を反射するって能力だもんな?
「なあ、雲外鏡」
「キョ?」
「真実看破って、戦闘中に使って意味あるのか?」
「キョキョ!」
どうやら戦闘中使用可能な能力であるらしい。一度戦闘で試してみたいな。
俺は町の外に出て雲外鏡の能力を検証することにした。ウィングロックの群と遭遇したので1体を残して他は倒してしまう。
「よし、これで安全に検証できるぞ! 雲外鏡! 真実看破!」
「キョー!」
前に出た雲外鏡がピカーッと輝く。射程が短めなんだろう。放たれた光はウィングロックを包み込み――何も起きなかった。
「え?」
「キョ?」
失敗? でも、雲外鏡にそんな素振りはない。効果が分かりづらいだけ?
「オオオオォォォォ!」
「やべ!」
ウィングロックが雲外鏡に攻撃してきた! 真実看破は敵対行動扱いっぽいな! ていうか、雲外鏡動けてない? 硬直入ったままか! まだ弱いから攻撃食らったら死ぬ!
「うおぉぉぉぉ!」
何で後衛の俺が体を張って庇わなきゃならんのだ!
更新日を間違えてしまいました。申し訳ございません。12日の8時頃にもう1話更新し、その後は16、20と4日に1度更新になります。




