87話 ピザが食べたい
「ただいまー」
家に戻ると、どうやらカイエンお爺さんはまだ帰ってきていないらしい。
じゃあ、お爺さんが戻ってくる前に、夕食の準備をしちゃいますかね? 色々と試してみたいこともあるし。
まずは、失敗の恐れがなさそうなスープからだな。
「調味料はっと……あったあった。結構色々あるじゃないか」
LJOで料理を作るとき、何も調味料を入れなくても僅かに塩味が付く。まあ、ギリギリ不味くない程度だけどね。
だが、キチンと調味料を使えばもっと美味しい料理が作れるはずなのだ。始まりの町では塩と胡椒しか見たこと無かった。しかし、カイエンお爺さんの家にはそれ以外にも数種の調味料類が置かれていた。
「塩、胡椒、醤油、味噌、オリーブオイルか」
俺はとりあえず醤油と味噌を取り出してみる。軽く手に取って舐めてみると、それはまさしく醤油と味噌だった。ただ、味と匂いはそこまで良くはないかな? リアルで食べている物よりは劣ると思う。
「まあ、それでも醤油で味噌だからな。これでスープが作れるぞ」
スープと言うか、味噌汁だけどね。本当は出汁も取りたいところなんだが、出汁が出そうな物が何もない。和食の料理人さんがやってるような野菜で出汁を取るなんて高度な真似、俺にはできないし。魚介類でもあればいいんだけど。明日、村で売ってないか探してみよう。
おっと、スープの前にパンの生地を捏ねておこう。
「ムー?」
「――?」
「なんだ? 気になるのか?」
「ムム!」
リックとクママは部屋の隅で寝ているが、オルトとサクラは俺がやっていることが気になったらしい。ボウルでパン生地を捏ねていると、左右からのぞき込んできた。
「ムム!」
オルトの鼻息で吹き飛んだ乾燥食用草の粉が、サクラの顔に降りかかる。
「――!」
粉が目に沁みたのか、サクラは目をゴシゴシこすりつつ呻いていた。その後、ちょっと怒った顔のサクラに睨まれ、オルトは気まずそうに首をすくめる。
「――!」
「ム~……」
「ぷっ」
そんな姿を見て思わず笑ったら、オルトに怒られてしまった。ムッとした顔で俺の足をポカポカ叩いている。だが、その可愛い怒り方がより笑いを誘う。
「わはははは」
「ムー!」
オルトと追いかけっこをしていたら、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。危ない危ない、お爺さんが帰ってきちゃうよ。
俺はオルトたちに少し離れた場所で見学するように言うと、料理に戻った。さて、パン生地の発酵を待つ間にスープへと取りかかろう。
「具は、ウサギ肉、青ニンジンだ。待てよ、群青ナスも入れちゃおうか?」
スープのレシピは水に具材2種類なのだが、昨日のお爺さんのスープには具材が3種類入っていた。ということは、俺でも具材が増やせるのではなかろうか?
「物は試しだ。やってみよう」
鍋に水を沸かし、青ニンジン、群青ナス、兎肉を投入する。味噌と少量の塩もだ。
そのままグツグツと煮込んでいくと、良い匂いが漂ってきた。やばい、メチャクチャおいしそうだ。まあ、見た目は最悪だけどね。
想像してみてほしい。茶色の味噌汁の中に、色鮮やかな青と群青の具材が大量に浮いているのだ。非常に食欲をそそらない光景だった。
だが失敗してはいない。鑑定してみると、きちんと味噌汁と表示されているからな。鍋1つで4人前らしい。
名称:味噌汁
レア度:2 品質:★3
効果:満腹度を28%回復させる。HPを4%回復させる。
スープを作っている間に生地の発酵が終わったので、延ばしてオーブンに入れておく。これで2品目だ。
「あと2品は欲しいところだな。サラダでも作っておくか」
作るのはもう手慣れたもので、3分くらいでチャチャッと作れてしまった。白トマトとホレン草、キャベ菜のサラダである。味付けは塩、胡椒、オリーブオイルでイタリア風に仕上げてみた。
「最後はメインか……。よし、焼肉だな!」
これも焼くだけだから簡単だ。だが、味付けに少し凝ってみようと思う。
「乾燥!」
まずはバジルル、セージを乾燥でハーブティーの茶葉にする。そこに混ぜるのは塩だ。ハーブ塩を作ってみるつもりなのだ。擂り粉木でゴリゴリと混ぜていくと、茶葉は粉々になって塩と混ざりあっていく。お、微かにハーブの香りがしてきたぞ!
「よし、完成だ!」
鑑定してみると、きちんとハーブ塩という名前に変化しているではないか。品質は★2だから、作り方が悪いんだろうが、成功は成功である。
焼いたウサギ肉にパラパラと振りかければウサギの焼肉、ハーブ塩仕立ての完成である。まあ、名前は焼肉・ウサギ肉という素っ気ない物だったが。
とりあえず自分の分を味見してみよう。不味い物をお爺さんに出すわけにはいかないからな。実際、品質が★2の調味料を使っているわけだし、本当に美味しいかどうかは分からない。
「じゃあ、いただきまーす」
恐る恐る焼肉を口に入れてみると、俺は驚きのあまり目を見開いてしまった。だって、かなり美味しいのだ。肉は多少硬いものの、きちんとハーブ塩の味がする。ハーブの香りもしっかりと残っているし。
「いや、待てよ。俺だから美味しいのか?」
ハーブの香りがかなり強いのだ。俺はハーブ類が好きだから気にならないが、ハーブが苦手な人だったら、エグ味や雑味が残ってしまっているように感じられるかもしれない。
「……今日のところは醤油味噌で味付けしとこうかな?」
ハーブ塩味を出すのは、味見をしてもらってからにしておこう。大人しく醤油と味噌で味付けをした焼肉を作っておいた。さて、これで4種類。夕食には十分だろう。
だが、お爺さんはまだ帰ってこない。だったら、少しだけ実験をしてみようかな。
実は、平パンを見たときからどうしても作ってみたい料理があったのだ。今日、オリーブオイルを見てその思いはさらに増してしまった。
平パンに、トマトに、バジルル、オリーブオイル。そう、ピザである。サクサクモチモチの平パンに、たっぷりのオリーブオイルとトマトソース。それだけでも十分美味しそうだ。チーズがあれば完璧だったんだが、この世界ではまだ見たことが無かった。心の底から残念だ。
課題はそれだけではない。まずは肝心のトマトソースを作れるかどうかを確かめなくてはならなかった。
刻んだ白トマトを鍋にかけ、塩、胡椒を振った後はただひたすら混ぜていく。色は白いホワイトソースみたいなのに、匂いはトマト。すっごく違和感があるな。
だが、15分ほど混ぜ続けていたら、それっぽくなってきたぞ。トマトの原形はほとんどなくなり、見た目やドロドロ具合は完全にソースのそれだ。
「よし、最後の仕上げだ」
俺は意を決して鍋に魔力を流し込んだ。上手くいけば何かが出来上がるし、失敗していればゴミとなる。
すると、ポンという音を立てて、俺の目の前に白いソースの入った小瓶が置かれていた。名前は白トマトソースとなっている。品質は★3だが、紛れもなくトマトソースだ。
「おおお! やった!」
これでピザが作れる! いや、それだけじゃない。一気に料理の幅が増えたぞ!
「ふっふっふ、明日はこのトマトソースでピザだな!」
ということは、俺がやることは1つだ。なんとしてもチーズを手に入れる。モッツァレラとは言わん。チーズであれば何でもよい。それさえあれば、ピザが完璧なピッツァとなるのだ!




