853話 青緑の森
意気揚々と青緑の森に突入した俺たちだったが、1時間もかからずに撤退してしまっていた。
いやね、あれは無理よ?
「なんだよあの蜘蛛地獄!」
「デビー」
「リリスは蜘蛛の巣に捕まってたけど、何とか逃げれてよかったな」
「デビ!」
森の中には、クラウディスパイダーという真っ白な蜘蛛が無数に潜んでいたのだ。
強力な親蜘蛛と、それに付き従う弱いが数が多い子蜘蛛。その波状攻撃で、全滅しかけたのである。
もうね、無双ゲーム状態? 俺の非力な杖の攻撃でさえ、一回で数匹の子蜘蛛を倒せてしまう。それでも次から次に押し寄せてくる子蜘蛛を倒しきることは無理だった。
周辺を百を超える子蜘蛛に囲まれた時にはマジで諦めかけたのだ。しかも、後方では親蜘蛛がこちらの動きを観察するように、どっしりと構えているし。
MPを使い切る勢いで範囲攻撃をぶちかまし、モンスたちの奥の手も全部使って何とか突破したのだ。
慌てて引き返している途中で再び白い蜘蛛に遭遇した時は、もう泣きそうになった。かなり索敵には気を遣っていたんだが、リリスが蜘蛛の巣に引っかかったことで、相手に存在を知られてしまったらしい。
リリス自身の闇魔術と、スネコスリの念動でなんとか糸を切って脱出したが、何発か蜘蛛の攻撃をもらって大ダメージを受けていた。脱出が遅れていたら危なかっただろう。
「スネコスリ、良い働きしたな」
「スネー!」
念動って、もっと極めたら色々細かい作業とかもできるようになるのかもしれない。
「アコラも、助かった」
「ララ!」
今回、一番活躍したのが、一番レベルが低いアコラだった。クラウディスパイダーは火が弱点であったらしく、竜血覚醒がかなり効いたのだ。
アコラの竜血覚醒が残っていなかったら負けていただろう。
テイム可能な相手だったけど、あれはいらない。しばらく蜘蛛は見たくないし。
「たった2戦でMPがスッカラカンだ。奥の手も使い切ったし、今のままじゃ進んでも死ぬだけだろうな」
「ラー」
「火魔術を覚えるか……? でも、今更覚えたところで、レベル足らんしなぁ。だったら、火属性の得意なモンスを探す方がいいけど……」
なにかいるかな? モノリスと四季の牧場のおかげで、2体は増やせる。本当は4枠増えているんだけど、そっちにもエリートテイマーのテイム数半減が効果を及ぼしてしまうらしかった。
「とりあえず、森以外の場所を探索するか。西の方に、もう一ヶ所町みたいな絵が描かれてるしな」
「ニュ!」
「ヤー!」
「まあ、まずは休憩するけど」
因みに、戦闘中に入れ替えたので、現在はファウ、リック、キャロ、メルム、リリス、アコラ、スネコスリとなっている。
俺は魔物避けのアイテムを使い、森の外で休憩することにした。シートを敷いて、食べ物や飲み物を並べる。
完全にピクニックの絵面だが、それが狙いなのだ。
「いやー、良いロケーションだよなー。すぐ近くを雲が流れてくところでピクニックとか、リアルじゃ難しいし」
「キュ!」
「はいはい。ナッツどうぞ」
「ヤー!」
「ハチミツをもっとかけろって? 分かった分かった」
こうやって安全な場所から眺めるだけなら、青緑色の葉が鮮やかな美しい森なんだけどなぁ。というかあれだけの蜘蛛の大群を突破するとか、どんくらいレベル上げりゃいいんだ?
多分、5レベルくらいじゃ意味ないと思うんだ。明らかにレベル帯間違ってるもん。
「そう考えると、ここはこの大陸でももっと後半に来るべきところだったんだろうな」
「キュー」
「リックもそう思う?」
「キュ」
いつもはイケイケドンドンなリックでも、ここは無理って感じだもんな。
一応森で採取伐採はしたんだけど、蜘蛛糸と材木が少々って感じだ。作物は中薬草がそれなりの量と、スカイベリーという青緑のベリーが少しである。
名称:スカイベリー
レア度:6 品質:★8
効果:使用者の空腹を5%回復させる。使用者の光耐性を1時間大きく上昇させる。クーリングタイム5分。
レア度はそこそこ高い。光耐性が付くってことは、森の敵は光属性が多いんだろうか? 蜘蛛にしか出会ってないから、情報が少なすぎるのだ。
一応、クラウディスパイダーの牙や糸はドロップしているが、それだけで属性は分からないし。
「スカイベリー、うちの畑で育てられるのかね? 天望野菜みたいに、特殊な環境が必要そうな気もするよな?」
「キュー?」
「ニュー?」
オルトもサクラもオレアもいないから、全然分からんな。
「ま、考えても仕方ないし、今はピクニックを楽しむか」
「スネ!」
「おおう。素晴らしいモフモフ感!」
「スーネー」
なんだろう? スネコスリのこの他にない手触りは。リックやドリモよりもよりスベスベなのに、モフモフ感もしっかりある。というか、フワフワ過ぎない? 毛の長さに見合ってない気がするんだが……。
「もしかして、スネコスリの能力か?」
「スネ!」
人をくすぐるのが好きなスネコスリは、念動で相手をコチョコチョできる。念動の細かい制御によってなされるフェザータッチを応用したら、自分が撫でられる時により手触りを良くしたりできるのではなかろうか?
「こ、こんな能力まであっただなんて! スネコスリ、恐ろしい子!」
「スネ?」
まあ、今はこの不思議なモフモフ感を堪能させてもらいましょう。ナデナデしつつ、吸ったりもしちゃったりして?
「スネー」
「む? これは念動か?」
シートの上に寝転がるスネコスリの腹に顔を近づけたら、なんか見えない壁に阻まれた。これも念動の応用らしい。
「吸うのはダメと?」
「スネ!」




