845話 バイタルチェッカーvsアリッサさん
ホームに戻ってきたが、どうしようか。アリッサさんの所に情報を売りにいこうかと思ったが、まだログインしてるか?
「えーっと……うわ」
なんじゃこりゃ。メールが100件超えてるんだけど。没入感優先で通知オフにしているから気づかなかった。
一番多いのが、アリッサさんからのメールだ。
最初は「ちょっと聞きたいことがある」っていう内容だったのが、段々と「連絡が欲しい」、「まだメールに気付いてないの?」、「無視してる?」っていう感じに変化していた。
アリッサさんじゃなかったら、ちょっとしたホラーである。アリッサさんからのメールの件名がワールドアナウンスに関してだし、大陸新発見が俺だと確信しているようだ。
どこでそう考えるに至ったのかは分からんが、情報屋としてはできるだけ早く話を聞きたいのだろう。
これは早めに連絡を取った方がよさそうだ。
「――もしもし!」
早! コールして0.5秒くらいで応答あったんだけど! 明らかに、ウィンドウ開いて待ち構えていたよね?
「あー、なんかメール貰ってたみたいなんですけど……」
「ワールドアナウンス! あれ、ユート君よね? 絶対そうよね?」
「は、はい……」
「すぐ会いましょう! 疲れてるなら今すぐ私が行くわ! というか、もう畑の前にいるんだけどね!」
「え?」
周囲を見回すと、確かに畑のすぐ目の前にアリッサさんがいた。人垣の最前線で、手を振っている。
フレンドには畑へ入る許可出しているのに、外で待ってるのが律儀だよね。
俺が手を振ると、ホッとした様子で畑に入ってくる。
「いやー、ようやく連絡してくれたわね! もう、各所からの早く情報仕入れて売れっていう圧が凄くて!」
「は、はぁ。そうっすか」
「で? 新大陸って、ユート君なのよね?」
「そうですけど、よく分かりましたね?」
北の島の船が稼働しているならともかく、あれはまだ完成前だ。それに、早耳猫も関わっているので、動かせるようになればアリッサさんにも連絡が行くだろう。
あの船以外の理由で、俺が新大陸を発見したのを確信できる情報なんてあったか?
「ユート君だもの!」
「いや、理由になってないっすよ」
「これ以上ない理由だと思うけど? 銀の大陸って言ってたし!」
「いや、あれは別に俺由来じゃないと思いますよ? 白の大陸とかもあるっぽいですし」
「まあ、細かく言うと、ユート君の目撃情報が多数天望樹で報告されているわ。なんか、種子で飛んだって」
「あー、あれ見られていたんすね」
天望樹への行き方は発見されたばかりだが、もう辿り着いて活動しているプレイヤーは結構多いらしい。その中には当然、早耳猫のプレイヤーもいるのだ。
「北のエリアで、白の大陸に関する情報が出てたじゃない? 船でそこにいけるのはほぼ確実っぽいし。だったら、他のエリアからも新大陸へと繋がってるんじゃないかって考えるのは、当然でしょう?」
「なるほど……」
「で、天望樹でなんか色々発見してたっぽいユート君が怪しいと思うのは、自然のことだと思うの。ユート君だし」
さすが早耳猫。少ない情報で俺をマークしていたってわけか。
「立ち話もなんなんで、ホームいきませんか? お茶くらい出しますから。結構長くなりますし」
「な、長くなるのね……。いいわ。ばっちこいよ! 今日の私は違うってところを見せてやるわ! ユート君にもバイタルチェッカーにも勝って見せる!」
ということで、ホームの炬燵でお茶を飲みながら情報の整理だ。どこから語ればいいのか迷うくらい、色々あったからねぇ。
「えーと、まずは天望樹の情報ですけど、もうあらかた探索されちゃってますかね?」
「マップはほぼ埋まってるけど……。ぜひ聞かせてほしいわね」
「そうですか? じゃあ、雑貨屋さんを見つけたところからですかね? あ、これはアミミンさんたちが売りに行ってます?」
「ソーヤ君がきたわ」
ソーヤ君たちと一緒にゲットした情報に関しては、彼らに取り扱いを任せたのである。売りたくない情報もあるだろうしね。
ちゃんと、情報を売りにきたらしい。
「じゃあ、種子のことも分かるんですね?」
「ええ。ただ、現物は見たことないから、直接見せて欲しいわね」
「それならお安い御用ですよ。庭に出しちゃいますね」
縁側から庭に降りて、天望樹の種子を取り出す。銀の大陸に行った時には少し成長したんだけど、元に戻ってしまっている。
あの時限定の変化なんだろう。
「これ? 浮いてないわね」
「浮くには天望樹の魔力がないとダメみたいですよ」
「なるほど。やっぱりあそこでのエレベーターアイテムだったってことか」
「そうなんですけど、それだけじゃないですよ?」
「え?」
そこから俺は、種子の使い方について説明した。まあ、それには上層の攻略や、そこに至るまでのチェーンクエストに関しても説明しないといけないんだが。
「まず、チェーンクエストの――」
「こ、これは――」
「大連続クエストの攻略報酬が――」
「にゃにゃっ――」
「で、上層に入るためには――」
「は、はわわ――」
「プライベートエリアが――」
「ひぃぃ――」
「ミミック・Sってやつに――」
「お、おぇぇ――」
「エリートテイマーは――」
「ひゃわわわ――」
「で、この発着場を使ったら、ロケットみたいに打ち上がりまして。最後は空に浮かぶ銀の大陸へと辿り着いたってわけです」
「……」
あれ? アリッサさん? ここ、いつもの雄たけび入れるチャンスですよ! 溜めてるんですか? その割には、なんか固まっちゃってるけど――。
「――」
「えええええ? ア、アリッサさーん!」
アリッサさんが消えたぁぁぁ!
な、なんで? 知らぬうちに我が家に罠でも設置されてた? モンスたちの悪戯がエスカレートした結果? あ、またバイタルチェッカーの異常か? 前もあったもんな! なんだ、演出か。さすがアリッサさん、ビックリさせてくれるね!
「……うん?」
10分くらい経っても戻ってこないんだが。え? なんで?
「あれー?」
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