85話 ギルドへ
「皆、行くぞー」
朝食後、俺はオルトたちを連れて畑に出た。まずは爺さんの畑からだな。
オルトとサクラ、クママが水を運びつつ、俺とリックが草むしりだ。まあ、リックは大きな雑草なんかに苦戦してるから、あまり戦力にはならんけどね。
1メートルくらいはありそうな雑草を抜こうとして、何度も何度も勢いを付けて引っ張っているんだが、全然抜けない。根っこが頑固なのかもな。リックが雑草を抜こうと頑張っている姿は、大きなカブのワンシーンのようだ。バックに「うんとこしょ、どっこいしょ」という掛け声が聞こえてきそうだった。
頑張れ! 可愛いから放置だけど。
「まだ収穫できないか」
鑑定してみると、白トマト、群青ナス、ホレン草、青ニンジン、橙カボチャ、キャベ菜となっている。
オルトの能力ならもう収穫出来ていてもおかしくはないと思うんだが……。昨日の水まきなどが、一部をカイエンお爺さんがすでに終えていたため、オルトの栽培促成exが機能しなかったのだろうか? もしくは、俺が畑の所有者ではないため、オルトのスキルが適用されないかだろう。
明日だな。明日収穫可能になっている作物があれば、オルトのスキルの効果があるってことになるからな。
「さて、次は果樹園に行くぞー」
果物屋さんの果樹園に到着すると、収穫可能な果物が目に入ってきた。こっちは問題なくオルトたちの育樹が仕事をしてくれたみたいだな。
だとすると、お爺さんの畑も明日は期待できそうだ。
「収穫するぞー」
「ム!」
「――♪」
「クマ!」
「キュー!」
リックとかどんぐりを食べ出さないか心配だったが、キチンと収穫しているな。
報酬は今日の収穫物から4つなのだが……。とりあえず紫柿、緑桃を1つずつ、白梨を2つにしておいた。オルトとクママにどれが好きか聞いたら、オルトは白梨、クママは緑桃が好きらしい。
さて、ジュース用の果物は確保できた。後はこの果物が株分できるかどうかなんだが……。
「オルト、この果物は株分できるか?」
「ム~」
「無理か?」
「ム!」
無理らしい。NPCの畑の収穫物という時点で、株分の対象じゃなくなってしまうんだろう。本当に残念だ。
まあ、この村にいるうちにできるだけ白梨を確保しておこうかな。オルトの好物なわけだし。
「さて、あとは収穫物をアイテムボックスに入れて――っと。これで仕事は一段落だな」
畑仕事を終えた俺たちは、再び冒険者ギルドに向かっていた。この村のギルドにはまだ足を踏み入れたことさえないからね。
どんな依頼があって、どれくらいポイントがもらえるのかは知っておきたい。
「よし、今日はそこまで混雑してないな」
ギルドの外に列もないし、中を覗いても10人くらいのプレイヤーがいるだけだ。
「皆はここで待っててくれ」
「ム!」
「クマ!」
「――♪」
ピシッと敬礼するオルト達だったが。リックはしれっと俺の肩に飛び乗っている。まあ、リックだけなら邪魔にならないからいいか。
初めて入ったギルドは、非常に簡素な作りだった。木製のカウンターに、一応は冒険者が並ぶためのマークのような物が床に描かれている。ちょっと田舎のファーストフード店ぽいな。
ただ、小さいながらもクエストボードが設置してあり、冒険者ギルドなのだとなんとか分かった。
「依頼は普通の冒険者ギルドっぽいな」
採取や討伐依頼が多いんだが、俺じゃ受けられないようなものが多い。ラビットの討伐とか、その辺なら行けるか?
常設依頼もあるが、ハニービーの討伐依頼となっている。まだ戦ったことが無いんだよな。一応、東の森の先にある第2エリア、羽音の森に出現する敵なので、少数が相手なら戦えるとは思うんだけどね。
あと、労働依頼が幾つかあるな。相変わらず屋根の補修とか、釣り竿の作成とか地味な依頼が多い。俺ができそうな依頼だと、畑の世話があるな。
「場所によるんだよな。カイエンお爺さんの畑の側だったら、ついでにできるんだけど」
そう思って依頼の場所などを調べていたら、なんとお爺さんの畑の隣の畑だった。しかも結構大きいな。10面くらいはある。
うーん。これはかなり時間がかかりそうだ。それこそ、2時間くらいは取られるだろう。お爺さんや果物屋さんの畑と合わせたら、4時間か……。せっかくのイベント中なのに、やってることがいつもと同じになっちゃうんだよね。
でも、俺がポイントを稼ぐにはこういう依頼をこなすしかなさそうだし、受けておこうかな。まあ、達成条件は収穫を1回することとなっているから、オルトがいれば他の人よりも早く達成できるだろう。
それに、労働クエストは実は悪くない選択肢だ。労働クエストは報酬は安いが、イベントポイントが多めみたいだし。
因みに、依頼の報酬や経験値は普段の依頼と変わらないらしい。ただ、ギルドポイントが貰えず、代わりにイベントポイントが手に入るようだった。
「じゃあ、この依頼を受けます」
「はい。では、依頼の場所はマーキングしておきますので」
マップを見ると、畑ではなくて一軒の家に依頼マークが付いている。依頼主の家なんだろう。
俺たちはさっそくその家に向かった。
歩いて向かううちに妙な違和感を覚えた。なんだ? そして、依頼主の家の前に辿りつくと、ようやく違和感の正体が理解できた。
1回来たことがある場所だったのだ。
「こんにちは~」
「いらっしゃい」
依頼主の家は、なんとあの気難しそうなおばあさんが営む雑貨屋さんだった。相変わらず不機嫌そうなおばあさんに気圧されつつ、依頼を受けてきたことを伝える。
「ふーん……」
なんか値踏みされてる! 俺は居心地の悪さを我慢しつつ、おばあさんの視線に耐えた。
「まあ、仕事さえしっかりしてくれりゃ構わないよ。場所は教えてやるから、世話をしておくれ」
「はい、お任せください」
「ム!」
「――♪」
「クマー!」
「ふむ、従魔かい。ほうほう」
おや、もしかして従魔好き? 右手を上げて挨拶するオルトたちを見下ろす目が僅かに細められる。一瞬、孫でも見ているかのような優しげな雰囲気が感じられた気がした。
俺の生温かい視線を感じ取ったのか、おばあさんが一瞬前の柔らかい雰囲気など微塵も感じさせない不機嫌そうな顔で俺を睨んできた。
「……なんだい?」
「い、いえ、なんでもありません」
「ふん。とっととお行きよ」
「はい!」
ということで、俺たちはおばあさんの畑に向かい、水撒きや草むしりを皆で行ったのだった。明日収穫できたら嬉しいんだけどね。




