842話 銀の大陸探索開始
転移陣を登録した俺たちは、隊列を組んで浮遊大陸の探索を開始した。そこは、一見すると高地の草原って感じだ。
浮遊島の下底部に開いた穴から入ってきたため、崖っぷちってわけじゃない。むしろ、今いる場所から浮遊島の端は見えないのだ。
「とりあえず、一番端まで行ってみるか」
「キュ!」
「クマ!」
「モグモ!」
さっきまで種子の中で丸まって震えていたとは思えないほど、ドリモが元気だ。浮遊大陸だけど、地面があればいいらしい。
爽やかな風が吹く草原を、リックを先頭に進む。向かう方角なんかは、適当だ。リックがなんか自信満々に歩き出したので、全員でその後についていっている感じである。
数分後。
「モンスターだ! 戦闘準備!」
「トリリ!」
「デビ!」
出現したのは、白い翼の生えた岩石である。まじで、丸い岩から天使のような翼が生えているのだ。
名前はウィングロック。テイム不可の飛行型魔獣が4体、俺たちの頭上を旋回している。
「まずは遠距離で先制する!」
「――!」
「モグモ!」
「ヤー!」
牽制に、遠距離攻撃を一斉に放つ。すると、思ったよりもダメージが通っていた。
「リックの木実弾で、一撃か! 植物属性が弱点みたいだな!」
「キュー!」
新大陸の敵ということで、大苦戦を覚悟していたんだがな……。思ったよりも戦えた。多分、取得したばかりの少数精鋭のお陰だろう。
想像以上に強化倍率が高かったのだ。あとは、植物属性が弱点の相手だったのも運が良かった。なんたって、俺、サクラ、オレア、リックと、植物属性使いが4人もいたのである。
ダメージは通るし、状態異常も面白いほどに決まった。俺だけだったら、こうはいかなかっただろうな。
「素材が、デミエンジェルの羽根?」
あんなんでも、天使の下位種族だったらしい。浮遊大陸は天国扱いなのか? 樹界鴉のドロップも羽が多めだったから、何か使い道を考えたいところだね。
そんなことを考えていると、不意に視界が白く染まった。
「ぶわっ! なんだこれ……!」
「モグモ?」
「クマー?」
どうやら、流れてきた雲に周囲を包まれたらしい。すぐ横にいるはずのクママとドリモの姿さえ見えない。声のお陰で、位置は直前までと変わっていないと分かるのに。
ただの雲ではなく、ゲーム的な視界隠しの効果があるのかもしれないな。
「デビー! デビ!」
「ヤヤー!」
「どうした? リリス? ファウ?」
ただ事ではない、リリスとファウの声が聞こえた。まるで悲鳴のような?
「キィィィ!」
「うわっ!」
耳元で耳障りな甲高い音が聞こえたかと思うと、俺のHPバーが大きく削れていた。衝撃で、倒れ込みそうになる。
リリスたちの悲鳴はこいつのせいか! 何かに攻撃されたのは間違いない!
「敵だ! 警戒しろ!」
「モグモ!」
「クマ!」
俺の声を頼りに集まって、慌てて陣形を固める。だが、敵の攻撃を防ぐことはできなかった。
完全に透明というか、攻撃してくる相手の姿も捉えられないのだ。雲に紛れているのだろうが、隠密能力がとんでもない。
「スキルも反応しないとは……。こうなったら、攻撃しまくれ、全方位に撃ちまくって、弾幕を張る!」
「キキュ!」
「――!」
攻撃が当たれば、エフェクトが出るはずだ。それを視認できれば――。
「キィィ!」
「そこだぁぁ!」
「クママママー!」
「トリー!」
赤いダメージエフェクトを、クママとオレアも確認したらしい。その場所目がけてクママとオレアが突撃した。1メートルも離れてしまえば、もう2人の姿は見えない。
だが、声はしっかりと聞こえる。
「クマ! クマ!」
「トリリリ!」
「キィィィイィ!」
一際甲高い謎のモンスターの悲鳴が響き渡った直後、視界が大きく変化した。真っ白なのは変わらないんだが、見通しが大分マシになったのである。
周囲にいるモンスたちの姿くらいは確認できた。10メートルほど離れた場所にいるクママとオレアは、影が見えるくらいかな。
「雲の中は視界が悪いのは間違いないが、モンスターが影響を強めてたのか?」
ログを確認すると、倒した相手はクラウドスピリットという名前だった。ドロップ品は、雲霊の欠片。
多分、雲状の敵ってことなんだろう。クママとオレアの攻撃で倒せたということは、完全な物理無効ではなさそうだ。
雲の中に潜み、視界を奪って攻撃してくる。攻撃力もかなり高く、複数と戦うことになったらかなり危険だった。
「とりあえず雲を抜けよう」
「キュ!」
リックが再び一行を先導して歩き出す。その歩みは、やはり迷いがなかった。初見の場所だが、何か目印のようなものでもあるのだろうか?
雲を抜けた先を確認するが、俺には同じような草原が続いているようにしか見えない。
「リック。どこに向かってるんだ?」
「キュ?」
「え? なんで首傾げてんの?」
「キキュ?」
こいつ、もしかして……!
「適当か?」
「キキュー」
「褒めてないわ! 照れんな!」




