841話 浮遊島?
天望樹の精霊様の許可が下りると、魔法陣が光り輝いた。使用可能になったらしい。
「じゃ、種子をセットして――あれ?」
なんか、種子の姿がちょっと違う? 今まではデッカイどんぐりから、黄緑色の若葉がチョロッと出ている感じだったのだ。
だが、俺が設置した種子からは、より大きく成長した葉が4枚生えていた。葉脈がより太くなり、葉の色も硬さを感じさせる濃い緑に変化している。
『では、魔法陣を起動させるぞ?』
「は、はい」
ウィンドウが立ち上がらないなーと思っていたら、精霊様が起動させてくれるらしい。
『高いところは大丈夫か? もし苦手であるのならば、高所に関する視覚フィルターをオンにすることをお勧めする』
「は? え?」
急に精霊さんにフィルターとか言われて、ビックリっすわ! 急にゲーム感出してくんなよ運営!
でも、世界観を壊す危険性があるとしても、そう聞いておかなきゃいけないってことなんだろう。まあ、種子でさらに上昇するのは分かっていたが、俺の想像よりも高くまで行くのかもしれない。
『では、よき空の旅を』
「は――アアァァァァァァァァ⁉」
「トリー!」
「キキュー!」
「デービー!」
モンスたちが叫んでるっぽいけど、自分の絶叫に掻き消されて全然聞こえないな! というか、なんじゃこりゃぁぁぁ!
精霊様が見送る様に手を振った瞬間、俺たちの乗った天望樹の種子はロケットかって言うくらい、凄まじい勢いで打ち上げられていた。
天望樹の枝葉が緑と茶色の線となって一瞬で流れていき、周囲が広い空に囲まれる。
速い速い速い! なんだこれぇ!
種子には薄い不思議な膜が張られているようで、風や慣性をほとんど感じずに済むのはありがたかった。
普通に空気抵抗があったら、俺たち全員床に押し付けられていただろう。それほどの速さだった。
少し速度に慣れて下をみてみると、もう大地が遥か下だ。
樹海の木々を個別に認識することはできず、まるで緑の絨毯のようだ。その中にあって、天望樹だけはまだ識別することができた。もう豆粒みたいに小さいのに、天望樹であることは分かる。
改めて、あの樹の巨大さを思い知ったな。
なーんて感慨にふけっている間にも、種子はドンドンと上昇を続けていく。もう天望樹もどこにあるか判らなくなって――。
「モグモ!」
「ヤー!」
「うん? どうした?」
ドリモとファウが上を見ている? 俺もそっちへと視線を向けると、2人が大きい声を上げた理由が分かった。
「え? 島?」
「――♪」
「クマー!」
もう雲が間近の高さまで上ってきたんだが、その雲の間に明らかな陸地が見えていた。間違いない。ファンタジー的存在の代表格、浮遊島だ。
「なるほどな! ここに来るための発着場だったってわけだ!」
「デビ!」
「ヤー!」
島がグングンと近づいてくる。というか、このままいくと、島の底にぶつかっちゃうんだけど……。
え? このままいくの?
「ちょ、これ大丈夫か?」
「――!」
「トリー!」
心配になっている俺を余所に、サクラとオレアがワクワク顔である。数秒後、その理由がよく分かった。
島の底部をよく見てみると、小さな穴が開いていたのだ。種子はそこを目指しているようだった。
でも、あの穴結構小さくない? 大丈夫?
ちょっとドキドキしながら待っていると、種子は問題なく島の底に口を開いた穴へと吸い込まれていった。種子よりも少しだけ大きい縦穴の中を、滑る様に上っていく。
速度が落ちてきたんじゃないか? そう思ってから数秒。俺たちの視界が一変し、光と緑が目に飛び込んできた。
「うおー! すっげー! メッチャ綺麗だな!」
「キキュー!」
「クックマ!」
浮遊島の上に出たんだろう。
どこまでも広がる緑の絨毯と、ポツポツと点在している背の低い樹々。そんな丘陵地帯を、小山のような雲が滑る様に流れていく。
夕日に照らされて茜色に染まる浮遊島は、息を呑むほど美しかった。
「にしても、緑豊かだね。これで遺跡でもあれば、マジでラピ○タなんだが」
「モグモ」
「――?」
ドリモとサクラも周囲に何かないかと見回しているが、人工物は今俺たちがいる種子の発着場だけであった。ああ、あと、その横に転移陣がある。
種子のウィンドウが開かず、一方通行のようで最初は焦ったんだが、転移可能なら問題はない。いつでもここにこれるってことだし。
「とりあえず、下りて登録しよう」
「モグ」
「キキュ!」
そうして、俺が種子から島へと降り立った直後であった。
ピッポーン!
《プレイヤーによって新大陸が発見されました。最初に到達したプレイヤーに、称号『新大陸発見者』が授与されます》
《プレイヤーによって浮遊する大陸が発見されました。最初に到達したプレイヤーに、称号『銀の大陸発見者』が授与されます》
久々のワールドアナウンス! 浮遊島じゃなくて、浮遊大陸ね。俺の想像よりも、規模が大きいのかもしれない。
そして、銀の大陸って言う名前であるようだ。称号はボーナスポイントと、お金だ。まあ、ボーナスポイントは盛大に使ったあとだから、いくらあってもいいけどね!
「よし! 折角の新大陸一番乗りだ! 探索してスクショ撮りまくっちゃうぞ!」
これは、盛大な早耳猫案件! 情報があればあるだけ、アリッサさんの雄たけびを聞くことができるだろう。俺、頑張っちゃおうかな!




