839話 自由度上昇
「なんとか勝ったな! それに、レベルも上がったぞ!」
従魔術・上級、使役・上級もレベルが上がったから、あとちょっとで使役可能なモンスターの数も増えるだろう。
エリートテイマーになったら、枠半減しちゃうけどね! でも、使役可能枠が半分になるだけで増えないわけじゃないから、まだスキルを育てていけば問題ないはずだ。
「モグモ?」
「おう、スキルもちゃんと覚えてる!」
ただ、スキルの意味がいまいち分からんな。従魔自由度上昇? 説明には、従魔の自由度がより増すって書いてあるが……。
自由度ってなんだ? そもそもうちの子たちめっちゃ自由だけど。主の俺がちょっと困るくらいに。
「キュ?」
「クマ?」
こ、こいつらがもっと自由になるってこと? 今よりも?
ドリモとかサクラはいいよ? むしろもっと自由にしてていい。だが、他の子たちは……。
「デビ?」
「ヤー?」
「な、なんでもないぞ?」
悪いことしてないのに、先に注意したりするのも変だしな。
それに、自由度が増すって書いてあるだけで、悪戯が酷くなるとは書いてないもんな? きっと大丈夫だよな?
「キキュ!」
「クマー!」
「うん? ああ、エリートテイマーに転職しろって? 分かったよ」
主に「さっさと転職しろ」と促すモンス。これは自由度上昇の効果か? いや、これくらいは普通にあり得るよな?
まあ、みんなも期待しているみたいだし、さっさと転職してしまいますか!
俺はウィンドウを開き、転職をするか否かの問いかけにYesと答える。転職先は、秘伝書を持っているエリートテイマーのみ。迷わなくていいね!
「きたきたきたー!」
「――♪」
「トリー!」
俺の全身が強く光る。モンスたちも目を瞑りながらハイテンションだ。
「まあ外見は変わってないが――職業はちゃんとエリートテイマーになってるな! 初期スキルは『少数精鋭』と『従魔交代:Lv1』ね」
少数精鋭は、この職業の目玉と言えるスキルだった。保有可能従魔の数が半減してしまう代わりに、従魔たちの能力が強化される。
一概に何パーセントとは書いていないが、半減されるに相応しい強化であることは間違いないと思う。単純にステータスが強くなるだけではなく、行動の最適化や、成長率などにも影響が出るらしい。
要は、より強く成長しやすくなっているってことなんだろう。
で、従魔交代は従魔の宝珠と同じ効果の能力だった。現在引き連れている従魔1体を、控えにいる従魔と入れ替えることが可能なのだ。1日につき、Lv分使用可能らしい。
今だと、1日1体までってことね。そんなことを考えていたら、リリスが急に光り出した。いや、リリスだけじゃない! ドリモもだ!
進化? 確かにレベルアップしたけど、ドリモなんか進化したばかりだぞ? リリスだってレベルが中途半端だ。進化ではない?
「ギキュー!」
「リック、またか!」
「ギュー」
お前はまた油断してたな?
リックに目潰しをかましたドリモたちの発光はすぐに収まる。そして、ドリモとリリスは俺に近寄ってくると、その手に持っていたキラキラと光る何かを差し出してきた。
丸い宝石だ。
「おお! 従魔の心か!」
「モグ」
「デビー!」
勝利したことで好感度が上がった? でも、それなら戦闘直後じゃないとおかしいよな? むしろ、転職がトリガーになった気がする。
テイマーの4次職になったからだろうか? それとも、少数精鋭スキルが何かの効果を発揮した?
ともかく、一気に2人から従魔の心を貰えてしまったのだった。
「よしよし、戻ったらすぐに従魔の宝珠に加工しような? ドリモのは土属性の宝石使って、リリスのは闇属性の石を使おう」
「モグモ!」
「デービビー!」
さて、なんか流れで休憩となってしまったが、ボスを倒してステージ終了ではなかった。道がこの広間からさらに先へと伸びているのだ。
北の島では、難破船があった。天望樹では何が見つかるだろうか? まあ、ここから他の大陸へって言うのは難しいだろう。
空を飛べたらワンチャンあると思うけど、天望樹の種子は、この巨木の周辺でしか使えないって話だし。船……壊れた飛空艇とか? そ、それだったらマジで熱いな!
まあ、行ってみりゃわかることだ。
「みんな、いくぞ!」
「クマ!」
「モグ……」
「ドリモはもうちょっと頑張ってくれ」
「モグ」
ドリモのションボリ顔は可愛いけど、消耗の関係でしばらくは交代できない。ここから先は少しだけ我慢してもらおう。すまん!
「改めて出発!」
クママとサクラを先頭に、ボス部屋から先へと進む。そこからの道のりは、それまでとは全く違っていた。
ほぼ一本道だったうえ、モンスターも出なかったのだ。より天望樹の先端へと近づいているのか、枝もかなり細くなってきたし、角度も急だ。
それこそ60度近い坂を、蔦を使って登ったりするようなアスレチックじみた場所も多いのである。まだ天望樹の実の浮遊効果が残っているから大丈夫だけど、なかったら超絶苦労していただろう。
「ヤー!」
「どうしたファウ? あ? もしかしてあそこが終着地点か?」
先行していたファウが戻ってきたかと思うと、何やら上を指し示し始めた。頭上を見上げると、周辺の枝葉が集まって絡み合った、広場のようなものがあるではないか。
今俺がよじ上っている幅50センチほどの枝も、その場所へと繋がっている。多分、あそこが終点なんだろう。
「あとちょっとだな! 頑張るぞ!」
「クマー!」
「トリ!」