838話 樹界鴉撃破!
樹界鴉相手に有利に戦っていた俺たちだったが、さすがにそのまま勝利できるほど温い相手ではなかった。
「クウウウォオォォォォォォォ!」
「狂化きた――え?」
「ムム?」
はっやー! 何だ今の!
俺とオルトの横を、緑色の影が通り過ぎていった。その瞬間、何故かダメージを食らったのだ。
どうやら、すれ違いざまに何らかの攻撃を食らったらしい。
狂化したことで樹界鴉の突進速度が飛躍的に上昇していた。
ヤバいのは、オルトも反応しきれていなかったことだ。うちで一番の盾役でもあるオルトが見切れないって、どんだけ速いんだよ!
「クオオオォォ!」
「――!」
「デビー!」
「サクラ! リリス!」
サクラとリリスが攻撃を仕掛けるも、素早い動きで回避されてしまった。それどころか、すれ違いざまに攻撃を受けている。
離れたところから見て分かったが、奴の攻撃方法は赤と緑が斑に入り混じったオーラの刃のようなものだった。
翼を覆っているオーラが一瞬伸び、接触した相手にダメージを与えるらしい。俺たちもサクラたちも衝撃はほぼ感じなかったので、ゴースト系のモンスターの攻撃に似ているのだろう。
当然反撃を試みるが、全て回避されてしまう。偏差射撃が上手い下手とかいうレベルの話ではない。
速いだけではなく、トリッキーなのだ。急激に上下左右へと曲がる不規則な動きを前に、予測なんてできるはずもない。
「クオオオオオオオォォ!」
「は、速過ぎる……」
「ムムー」
気を抜くとあっという間にその姿を見失いそうになってしまう。
広範囲攻撃をぶっ放したりもしてみたが、それを予測しているかのようにあっさりと躱されてしまった。
反撃手段を増やすためにオルトやヒムカを入れ替えたり、死にかけのリックを交代したりもしたのだ。あえて交代したばかりのキャロをメルムと即座に交代することで、相手の意表を突こうともしてみた。
しかし、どうやっても攻撃は当たらない。急に強くなり過ぎだろ!
だが、策がないわけじゃないぞ! ダメージを食らいまくりながらも、なんとか1つだけ行動パターンを見つけたのだ。
「クオオオオォォォッ!」
「きた! アクアチャージ! からの、人馬流奥義・五連星!」
俺の持てる最強の手札。アクアチャージで強化した水魔術を、奥義で五発放つコンボだ。ダメージを狙うなら、攻撃魔術を使う方がいいだろう。
しかし、今の樹界鴉に当たるかどうかは微妙だ。ならば、確実に当たる技で、奴の動きを阻害することに専念する方がいい。
「ここだぁぁ! アクアバリア!」
「ク、クォォォォォォン!」
「成功だ!」
直径3メートルほどの水の防壁を生み出すアクアバリア。アクアチャージのお陰で、少し大きくなっている。それが5枚、まるで桜の花のような形で綺麗に並んでいた。
隙間なく組み合わさった水の防壁は、巨大な一枚の盾のようである。
奥義によって生み出された五枚のアクアバリアが、樹界鴉の進路を塞ぐように鎮座する。
「あの鳴き声の後、必ず最高速度で突進してくるってのはもうわかってんだよ!」
目の前に急に生み出された巨大障害物は、さすがの樹界鴉でも回避しきれなかったらしい。水にぶつかったとは思えない、ドゴンという硬い音ともに水が大量に舞い散る。
ちょっとヒヤっとしたな。やつは驚くべき勢いで進路を変えようとしていた。端の方にギリギリ引っかかったが、アクアチャージを使ってなかったら失敗していたんじゃないか?
「でも、動きを止めちまえばこっちのもんだ!」
赤緑色の鳥がフラフラと俺たちの目前を飛んでいる。いい的だぜ!
「やれ! みんな!」
「トリー!」
「――!」
「キッキュー!」
オレアたちが溜めていた攻撃を一気に解き放つ。彼女たちだけではない。
「モグモー!」
「ヤヤー!」
交代したばかりのドリモやファウも、ここぞとばかりに覚醒スキルをぶっ放していた。
自分で言うのもなんだが、うちの子たちの判断力は中々のものだ。俺が指示を出すまでもなく、みんな動き出していたからね。
大技を放ったため魔術はまだ使えないが、アイテムの投擲なら可能である。リキューにはまったく及ばないが、手製の爆弾を食らえ!
溶岩地帯で手に入れた素材を使った、火炎属性の爆弾なのだ。植物属性っぽいし、きっと効くはず!
「おりゃぁぁぁ!」
「クアアァァァァァ!」
「あ?」
爆弾当たる前にボス死んだぁぁ!
俺が投げた黒い金属塊は、砕け散った樹界鴉の緑色のポリゴンをすり抜け地面に落下していた。ボンという音とともに、火柱が上がる。
結構威力がありそうだよな。意味なかったけど!
「キキュー!」
「ヤー!」
「はいはい。お前らの攻撃凄かったよ。さすがだな」
「モグモ」
「――!」
「見てた! ちゃんと見てたから! 引っ張るなって! え? いやいや、誰が倒したとかじゃなくて、全員頑張ったし、最後は全員の勝利だ!」
俺の攻撃以外はね!




