84話 村での目覚め
「さて、寝るか。俺はここにしとこう。みんなはどのベッドで寝る? 好きなベッド選んでいいぞ」
食事も済ませ、俺はモンスターたちと寝室に戻ってきた。
普段は睡眠を必要としないモンスたちだが、イベント中は違うらしい。どうやら主の睡眠中は一緒に睡眠を取る仕様になっているようだ。寝ている間はシステムに保護されるので、攻撃されたりはしないらしいが。
これだけハッキリと睡眠と明記されているし、できればベッドとかで寝かせてあげた方が良いと思うんだよね。
割り振りで言うと、クママ、サクラ、オルトがベッド。リックは部屋の隅にある籠に毛布でも敷いてやればいいかな。
そう思ってたんだけどね。
「ムー!」
「クマー!」
「キュー!」
オルトたちが一斉に俺が腰かけていたベッドにダイブしてきた。サクラもいつの間にか俺の横の位置をキープしているし。
枕元のリックはともかく、他の3人は寝苦しくないのか? 俺はシステムで勝手に睡眠状態になるだけだから、多分関係ないけど。
まあ、好きにさせよう。結局、右にサクラ、左にオルト、枕元にリック、足元にクママという形で落ち着いたらしい。
「じゃあ、俺は寝るな? お休み」
皆の頭をそれぞれ撫でてやってから、俺はベッドに横たわった。そして睡眠時間を決めるウィンドウに6時間と入力し、決定する。
「おお、本当に眠気が――」
そして、気が付くともう朝だった。いや、良いなこのシステム。メチャクチャ気分爽快で、なんかグッスリ寝た感が凄い。
「ム~?」
「クマー?」
俺が動いたせいかオルト達が起きたようだ。サクラとリックも起き上がる。
「キュキュ~?」
「――♪」
まだ眠そうなオルトやクママを尻目に、サクラは一足早く立ち上がると窓辺に近寄り、カーテンをシャッと開けた。そして、両手を左右に広げ、朝日を全身で浴びている。
そういえばサクラは樹木の精霊だし、光合成スキルも持っていた。日光浴が好きなのかもしれないな。
俺はまだまったりしているモンスたちを残して、1階に降りた。寝ている間も満腹度は減るようで、20%まで減少している。
実は朝食を用意してもらえるのかどうか聞いていなかった。もし用意してもらえないのなら、台所を借りようと思ったのだ。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「はい。俺もモンスターたちもグッスリでした」
「それは良かった。今朝食を用意するでね、少し待っていてくれるかい?」
おお、俺の分まで用意してくれるらしい。
「まあ、昨日のスープとパンだがね」
「だったら、俺に作らせてもらえませんか?」
「おお、そうかい? だったらパンのレシピから教えてあげよう」
ということで、お爺さんからパンのレシピを教えてもらうことになった。レシピを貰うんじゃなくて、一緒に作ることで教わるパターンらしい。
「まずはこれじゃ」
「食用草の粉末ですか」
名称:食用草・粉末
レア度:1 品質:★6
効果:食材。
お爺さんに聞くと、食用草を乾燥させて、臼で挽いて粉々にした物らしい。まあ、頑張れば俺でも作れるかな? ただ、品質が★5以下だと食用草の苦みが残ってしまうようで、気を付けなきゃいけないらしい。
「これを水で溶いて、塩を入れる」
「ふむ」
「こうやって捏ねて……」
お爺さんが普通に生地を練っていく。
「捏ね上がったらこのままボウルに入れて、30分ほど置いておく」
「イースト菌はいらないんですか?」
「なんじゃそりゃ?」
どうやらゲームの中にイースト菌は存在していないらしい。どこかにはあるのかもしれないが、この村では知られてないんだろう。
「これで15分経つと生地が良い感じに膨らむから、それを平らにしてオーブンで焼けば完成じゃ」
「なるほど」
イースト菌なしでも問題なく生地が膨らむんだな。
俺たちは生地が膨らむのを待つ間に、サラダを用意することにした。白トマト、ホレン草、それにキャベツそっくりの野菜、キャベ菜のサラダである。味付けは塩コショウだけだが、野菜が美味しそうだから問題ないだろう。
サラダが出来上がる頃には、パン生地は倍くらいに膨らんでいた。これは凄いな。食用草の効果なのか?
それを4分割して、さらに平たく延ばしてオーブンの中に並べた。このオーブンは魔力で点火できるタイプらしく、魔力を流して温度を設定したらそれで終わりだ。
「スープは昨日の分がまだあるが、もう一品くらい作ってくれるかね?」
「そうですね……。やってみましょうか」
「なあに、食材はたくさんある。好きに作ってみたらどうだい? 失敗しても構わないから」
「いいんですか?」
「ええよええよ。どうせわしが作るんじゃ、ろくなものはできないし。ユートくんの料理に期待じゃ」
これは嬉しい申し出だ。実は、色々な食材を見て、幾つかレシピが解放されているのだ。
とりあえず俺は、肉と野菜2種で解放されている????を作ってみることにした。多分、肉野菜炒めだと思うんだが……。
システムの指示に従い、ウサギ肉を切って小さくして、群青ナス、ホレン草を切ったものと一緒にフライパンで炒めていく。最後に塩を振って完成だ。
「やっぱり肉野菜炒めだったか」
「ほほう。美味しそうじゃないか」
朝からちょっとガッツリだけど、ゲームの中なら気にはならない。というか、平パン、スープ、サラダ、肉野菜炒めと、昨日の夕食より豪華なんだけど。
「うむ、美味いな」
「そうですね」
俺はカイエンお爺さんと村のことを話しながら朝食を食べた。
村は農業や林業、木工細工などが主な産業らしい。また、村の周りにはそれなりに強い魔獣がいるらしく、俺たちだとちょっと厳しいかもしれない。
一番弱いモンスターはラビット。その次にはリトルベアなどが出現すると言うから、少なくとも第2エリア相当の敵が出現するんだろう。
あと、お爺さんは昼食は外食で済ませるそうだ。なので、次に作るのは夕食だな。
「今日はどうするんだい?」
「畑仕事を済ませたら、冒険者ギルドに行ってみます」
「そうかい。頑張ってな」
「はい」
よし、みんなを呼んで畑に行こう。




