828話 水瓶座?
リックに呆れられながらも、俺は祝福の内容を確認していった。
射手座の祝福は、『従魔退化』という従魔を退化させるスキルに、『プラントテイム』という植物系のテイム率が上がるというスキルだ。従魔退化! ここできたか!
サジータさんが俺にはまだ無理って感じのことを言ってたはずだが、このチェーンクエストをクリアしろって事だったのだろう。
「山羊座はまた農業系スキルだな」
スキルの範囲を狭める代わりに効果を上昇させる『小規模農場』と、『肥料作製』である。小規模農場は、大規模農場の正反対の効果だな。小さい畑で高ランクの物ばかり作るような場合には向いていそうだ。
肥料作製は単純に役立ちそうだ。魔化肥料などの大量生産もできるし、金策にもなる。
次に見た水瓶座の祝福でもらえるのは、フィールドにおいて植物関連の行動すべてにボーナスが入る『緑の達人』というスキルだった。
これ1つだけってことは、exスキルに並ぶ効果ってことか?
あと、水瓶座に対応するNPCさん、誰だっけ? 会ったことある? 思い返しても、心当たりがない。まあ、あとで思い出そう。
次の魚座は『特殊伐採』、『木材良化』という、木こり垂涎のスキルだな。特殊伐採はその名の通り、伐採時に普段とは違うアイテムが入手できることがあるという、結構運要素が強めのスキルである。
木材良化は、伐採時に得られる木材の品質が上昇するらしかった。うちは木工も結構やるし、悪くはないだろう。
うーむ、どれもこれも良過ぎて、メッチャ迷うんだけど!
「さて、どうしよう?」
「キュー」
「も、もうちょっと待ってくれ」
「キュ」
頭の上で眠るリックをモフりながら、スクロールの内容をもう一度吟味する。正直全部欲しい。だが、貰える祝福は1つだけ……。
「うーむ」
農園の片隅にあるベンチに腰掛けて悩むこと数十分。いつの間にか、アリエスお爺さんが目の前にいた。
「やあ、何か悩んでいるようだけど、大丈夫かい?」
「あ、ずっとここを使っててすみません」
「いやいや、いくらでも使ってもらっていいよ」
そうだ、アリエスお爺さんに訊いたら、水瓶座の人が誰か分かるか? スキルの選択に影響はないけど、ちょっと気になってるし。
「ちょっと、知りたいことがあるんですけど、お爺さんのご親族について訊いていいですか?」
「儂に答えられることなら構わんが……」
「えーっと、アリエスお爺さんとキャシーさんの息子さんが――」
とりあえず、星座に関係あると思われるNPCの名前を挙げていく。アリエス、キャシー、ジェミナ、スコップ、ライバ、バルゴ、リオン、ピスコ、トーラウス、カプリ、サジータ。やはり11人しか思い出せん。
「あとお1人いると思うんですが」
「うむうむ。儂の親族で植物に関係している者たちだね。旅人さんたちが会ったことがないのは、儂の末の息子じゃろう。アキュリオという名前で、未開の地で植物を探すハンターをしておる」
植物ハンターのアキュリオさん? やっぱ会ったことないな。関係者全員に出会ってクエストをこなす必要はないらしい。
依頼を受けて即完了したりもしたから、そこでアキュリオさんの登場イベントがスキップされちゃったのかもね。
というか、祭壇への捧げもの、アキュリオさんが手伝ってくれる展開とかもあったのか?
「まあ、ここにも姿を見せるから、そのうち会えるんじゃないかね? それより、これでも飲んで少し休んだらどうだい?」
アリエスが差し出してきたのは、少しトロみのある白い液体の入ったグラスだった。甘く美味しそうな匂いを発している。ミルクか?
何気なく鑑定したら、スクロールのことなんて頭からぶっ飛んでいってしまった。だって、名前からしてとんでもない。
「天望樹の実のジュース? え?」
天望樹素材を使ったジュースだって? しかも、実? 種子が食材になるのか?
名称:天望樹の実のジュース
レア度:8 品質:★4
効果:満腹度を25%回復させる。使用者に40分間、浮遊、防風、樹の民を付与する。
これ、どう考えても俺が以前作ったかき氷のお仲間というか、素材があれ並みにレアってことだよな? 雪の民の同系統と思われる、樹の民とかいうスキル付与効果あるし。以前作ったかき氷がこれだ。
名称:かき氷・スペシャルベリーソース
レア度:8 品質:★6
効果:満腹度を35%回復させる。使用者に1時間、耐寒・大、氷雪無効、雪の民を付与する。
やはり似ている。もしかして、このジュースってここからさらに上にある迷宮攻略に必須級のアイテムだったりしない?
「しかもメッチャ美味しいし!」
「ほっほっほ。気に入ってもらえたようで嬉しいよ」
浮遊状態だと、空中をまるで地面のように踏みしめることができた。効果としては、地面からは十数センチほど自動で浮き、足を一定以上の強さで踏み出すと、空中で反発するような力が発生する感じ?
あとは重心の移動で前後左右へと移動することが可能である。俺は運動神経抜群な方じゃないけど、少し慣らせば空中でそれなりに動くことができるようになっていた。
非常に面白い。
「あ、あの! このジュースって、どうやって作ってるんですか?」
「これかい? 作り方は特に変わっているわけじゃないね。天望樹の実をミキサーでジュースにしてるんだよ」
「天望樹の実って、種子とは違うんでしょうか?」
「あんなに大きくなる前に収穫した、これくらいのサイズの物を『天望樹の実』と呼んでいるんだ」
アリエスが小玉スイカくらいの大きさを手で示す。未熟なうちに採取すると、食用になるという。
「それ、俺でも入手できるんですかね?」
「うーん。普通に買うのは難しいかもねぇ」
あまり数が生るものではなく、簡単に採取できる場所のものはもう取り尽くされているらしい。
「上層部に行けば、残ってるものがあるかもしれないけど、魔物も食べるから。あるかどうかは分からないよ」
「そうですか……。これ、元のままだったら苗木にできますかね?」
「儂はやったことがないが、多分ねぇ」
忘れそうになるが、ここは天望樹の上だ。そこに天望樹の苗木を植えることはするわけないし、歴戦農家のアリエスでも試したことがないのだろう。
「やっぱ、上にある迷宮ってのに行ってみるしかないか」
効果も凄いけど、単純に珍しい天望樹の苗木が欲しいのだ。でも、難易度高いだろうなぁ。場所的には、氷獄熊と戦った北の島と同レベルだし。
戦闘をできるだけ避けつつ、採取できればいいんだが……。
「あ! そうだ!」
そこで、俺は思い出した。スキルスクロールを開き、水瓶座の祝福を確認してみる。そこに表示されているのは『緑の達人』というスキルだ。exの表記はないが、1つしかゲットできないということは、その効果はex級ってことだろう。
その効果は、フィールドにおいて植物関連の行動すべてにボーナスが入るというものだ。
植物の発見、採取。植物系のエネミーとの戦闘行動。植物に囲まれた場所での行軍、休憩。仲間の植物系モンスターへの支援、指揮。フィールド上での料理や加工。ありとあらゆる植物関連の項目にボーナスが入るらしい。
さすが、植物ハンターさん由来のスキルだ。
これ、天望樹での探索中は凄いことになるんじゃないか? だって、周りに植物が多いどころか、樹木の上にいるわけだし。発見、採取にも影響があるなら、天望樹の実の発見率も上がるはずだ。
正直、従魔退化や香辛料栽培exと花木栽培exに惹かれるものはあったが、ここは即役に立ちそうな緑の達人にしておくか? 従魔退化とか、現状うちでは使わないし。
「……ぐぬぬ」
ヤバい! 考えすぎて混乱してきた! どのスキルを選べばいいんだ!
「キキュー!」
あ! 頭をブンブン振ったらリックが飛んでった! すまーん!




