822話 浮遊する種子
皆で天望樹の種子に乗り込んだ。大人数で乗っても、内部空間が拡張されてギュウギュウ詰めになることはないようだ。外からは奇妙な感じに見えるのかね?
「種子に全員で乗れることはわかった。次はどうするんだ?」
「トリ!」
「ウィンドウを開けってこと? ああ、種子を使用するかどうか出てるな」
使用するを選択すると、今度は何階へと移動するかという表示に進んだ。10、20、30、40、50と、10階ごとに上昇できるらしい。
とりあえず、10階を選んでみた。
「う、浮いた!」
「――♪」
「トーリリー!」
天望樹の種子はゆっくりと5メートルほど浮いたかと思うと、そのまま天望樹内の巨大吹き抜けをスーッと上昇していく。
「おー! 結構早いな!」
「ペペーン!」
「ヒムー!」
「ちょ、暴れたら――いや、結構平気だな! 全然揺れんし!」
俺に抱えられた状態のペルカと、背後にいるヒムカが大喜びである。特にペルカは手足をジタバタさせて上機嫌だった。自分でも飛べるはずなのに、こういう浮く乗り物っていうのは別物なのかね?
ヒムカは高所は大丈夫っぽい。むしろ大興奮だ。顔は見えないけど、フンスフンスという鼻息が俺に直撃してるもん。
2人が暴れても、種子はほとんど揺れなかった。安定した状態で上昇を続ける。
これなら、高所恐怖症の人でもあまり恐くないか? ドリモも、チャレンジしてみたら案外行けたかもしれない。
「――!」
「トリー!」
サクラたちが身を乗り出して、下にいるソーヤ君たちに手を振っているな。お、落ちそうでちょっと怖いんだけど! 特にオレア! 足、下に着いてないよ?
俺もちょっとだけ身を乗り出して下を見てみるが、10階って結構高いね! 高所恐怖症じゃなくても、ちょっと怖いわ。
さっき、高所恐怖症の人でも平気かもとか思ったけど、あれ嘘! 多分無理! 今後、ドリモはこれに乗せないこと決定だ。
「お? 着いたか?」
「ヤヤ!」
「キキュ!」
種子は、10階のフロアからちょっとだけ吹き抜け側に迫り出した場所に滑り込んで動きを止めた。ここにも、緑色でどんぐりと二重円が描かれている。このマークが、種子の発着場所を示しているのは間違いなさそうだった。
10階ごとに、この飛び込み台みたいな種子の発着場があるんだろう。
「よいしょっと」
降りるのは簡単だ。飛び降りるだけだし。リアルならちょっとしり込みしてしまうだろうが、ゲーム内なら普通にある高さである。
「で、種子をインベントリに仕舞えばオッケーってことね」
初めてだからいろいろバタバタしたが、慣れてくればいい移動手段だろう。正直、1000万の価値があるかどうかといわれたら微妙だけど。
「じゃ、一度戻るか」
インベントリから種子を取り出して、みんなで乗り込んで、1階をポチだ。今度はスムーズに工程をこなすことができた。
1分くらいでみんなの下に戻ってくることができたのだ。
「凄いね! これ!」
「中々気持ちよさそうだったね」
「何かに応用できそうな気もしますね!」
種子に興味津々なアミミンさんたちとともに、ここからは色々と検証をしてみる。ああ、因みに、外からだとヒムカの姿だけ見えなかったらしい。拡張された領域にいる従魔やプレイヤーは、姿が消える形になるようだ。
まず、チームを組んで乗り込もうとしてみたが、無理だった。1パーティしか乗れないらしい。
次に、俺以外のプレイヤーに貸し出せないか試したが、これも無理だ。貸与不可って書いてあったしね。
次の実験は、パーティを組んでいれば他のプレイヤーも乗れるのかってことだ。ここは、じゃんけんで負けたファウとペルカ、リックを送還し、他の3人とパーティを組む。
ああ、サクラとオレアは不参加だ。自分たちは絶対に残るぞという不屈の意志の下、他の子たちを説き伏せたのだ。というか、サクラが睨むと、誰も逆らえませんでした。さすがみんなのお姉さん。
「パーティを組んでれば問題ないか」
「ですね! いやー、これ凄いですよ! もうこんな高い!」
「はっはっは! 最高だな!」
「いいなぁ。私も買う! うちの子たちと乗るんだ!」
アミミンさんお買い上げ決定か? だったら、ぜひ巨大亀の小遊三が乗り込めるのか確かめてほしい。いや、巨大すぎると町に入った時点でホームや牧場に送られてしまうから、そもそも連れてこられないか?
そのまま種子に乗って上昇し続けること十数秒。眼下の光景は遥か彼方だ。それでも種子は上り続けている。
「到着! 楽しかったぁ!」
「下手な絶叫マシンよりも面白かったね」
「僕は最後の方ちょっと怖かったですよ」
ソーヤ君の言葉に、俺も同意だ。なんせ、俺たちは頂上である50階まで上がってきていた。リアルよりはマシとは言え、さすがにこの高さは怖ろしい。
「50階は、ちょっと違うな」
「広いですね」
50階は他の階よりもフロアが広かった。天望樹の広大な樹冠にも、まだまだ町が広がっているのだ。50階に存在する樹冠の町だけで、下手な町よりも広いんじゃなかろうか?
枝があまりにも大きく広いせいで、土が堆積して植物が生えたりしている。見る場所によっては、地上の普通の町と勘違いしてしまいそうだ。
「あ! 転移陣あるよ!」
「なるほど、さすがに毎回上れとは言わんか」
種子やエレベーターがあるとはいえ、毎回50階までくるのは大変だしね。俺たちはここで解散することにした。
エルフ組は雑貨屋に戻ったり、進化するために村に戻ったりしたいし、俺はここを探索したいのだ。
「まずはホームに戻って、パーティを入れ替えよう」
「――!」
「トリ!」
「わ、分かってるって。お前らは外さないから」
「ヒムー!」
「ヒムカもな! 大丈夫だから!」
「ヒム!」
もう! 自己主張激しいんだから! せめて髪の毛と腕を引っ張るのはやめてほしいぜ。




