819話 巨樹の中
先週、誤って2話更新してしまっております。
今知ったーという方は、ぜひそちらを確認してから最新話をお読みください。
樹海の町をブラブラと歩きまわって探索してみると、その構造はなかなか面白いことになっていた。
巨樹の周囲に造られた町を抜けると、根の隙間からその内部へと入り込むことができるのだ。根のトンネルを抜けると、その先は再び街になっている。
巨樹の内部は広大な空洞になっているらしく、天井が見えないほどの高く広い吹き抜けとなっていた。
その内部には所狭しと建物が並び、なんなら壁――というか幹の内壁にもたくさんの建物が張り付いている。
しかも、幹の内部なのに意外と明るかった。幹の所々に亀裂が走っているらしく、そこから日の光が差し込んでいるのだ。
内部空間にひしめき合う建造物からも灯りが漏れ出しており、内部は薄暗い程度の明るさに保たれていた。
「はぁー……すんごいなぁ」
「トリー」
「――」
「ペペー」
モンスたちと一緒に、吹き抜けを見上げる。これぞファンタジーって感じの光景だ。全てを見通すことができない光量も、神秘さの演出に一役買っているだろう。
巨樹の内部は、いつまででも見ていられるほどに幻想的であった。
ただ、ずっと突っ立っているわけにもいかない。NPCさんの通行の邪魔になってるし。
俺たちは内部の町を見学しつつ、さらに奥へと進んだ。
チラホラと店が目に入るが、エルフの町っぽいボタニカル全開な雰囲気だ。ハーブに精油に植木鉢など、植物に関係した商品が多いのである。
また、武器屋では杖や木製武器が、防具屋ではローブや木製の鎧などが売っている。
木製で使えるのかと思ったが、これがなかなか優秀なのだ。さすが、最前線の町で売られている武器なだけある。
木製武器は直接的な攻撃力で金属製品に劣るものの、魔法攻撃力が高い。杖としての効果も残っているのだろう。
プレイヤーの間には、ゴースト系の敵に遭遇した時のため、戦士であっても1つは魔術を覚えた方がいいという風潮がある。ただ、普通の武器を装備した状態では魔法の威力が低いため、いざという時の備えくらいにしかなっていないのが現状だった。
それで言うと、この木製武器は物理、魔術どちらも使えるため、汎用性は高いだろう。魔法戦士系の職業の人などからも好まれるはずだ。軽いのも、悪くないしね。
防具も同じだ。物理防御力は低いが、軽くて魔法防御も高い。斥候や軽戦士だけでなく、魔術師系の職業でも十分装備可能だった。
まあ、エルフがメインターゲットと考えると、それも当然なのかもしれんが。
「なあ、武具は後にしておこうぜ。あるって分かったんだから、ゆっくり選びたいだろ?」
「おっと、そうだったね。悪い悪い。つい」
「ごめんねー」
「すみませんユートさん」
エルフ組はガッツリ食いついていたけど、他にも店はあるんだし、見比べてから買った方がいいだろう。
それに、今は優先して向かいたい場所もあるし。
実は、ある物体が遠くからでも見えていたのだ。エルフ組を急かして、その場所へと急いで向かう。
近づいてみて、俺たちの想像が正しいと分かった。
「やっぱエレベーターか」
「おっきいね!」
「しかもすごい速いじゃないか。これなら上まであっというまだろうねぇ」
「木と蔦でできたエレベーターなんて、リアルだったら絶対に乗りたくないです」
縦に長く伸びるレールのような物と、そのレールを行き来する木の箱。それは内壁を上下する木製のエレベーターであった。
この木自体が超巨大な高層ビルみたいなものだし、上り下りするにはこういった装置が絶対必要だろう。階段や梯子しかなかったら、地獄だもんね。
「乗るのは無料か! ありがたいね」
「モンスたちがたくさんいても、内部が拡張されるみたい」
マッツンさんとアミミンさんが、エレベーターの仕様を確認している。どうやら、誰でも利用可能であるようだ。一応、25、50階で止まるらしい。というか、50階もあるんだな……。
「じゃあ、俺たちも――」
「――!」
「トリー!」
「え? ちょ、何で引っ張るんだ?」
「――!」
「トリリ!」
サクラとオレアが左右から俺を引っ張り、エレベーターから離れた場所へと連れていく。その先には、長い階段が設置されていた。
エレベーターしか見えていなかったけど、階段でも上っていけるらしい。
「え? これ使えってこと?」
「トリ!」
「――」
いやいや、事も無げに頷いてるけど、ムリムリ! 上までどれだけあると思ってんのさ! ここを階段使って登れって、拷問よ?
ゲームの中だからリアルよりはマシだけど、時間がかかり過ぎる。
東京タワーを階段で上りたがる子供みたいな感じなのかね? 俺だけだったらサクラたちのチャレンジスピリットに付き合ってもいいけど、他の3人を巻き込むわけにはいかないのだ。
どんだけ時間を無駄にさせると思ってるんだよ。
アミミンさんのモンスたちも同じような反応してるならともかく、あっちはちゃんとアミミンさんの近くで大人しく待機してるもんな。
それに対して、全くまとまりなくワチャワチャしてるうちの子たちのフリーダムさよ。メルムとアイネとペルカなんて、さっきから鬼ごっこ始めてるし。
「2人とも、階段使いたいのは分かったけど、みんなに迷惑掛かるから。あとでな?」
「トリ……」
「――……」
そんな残念そうにされると罪悪感! でもダメ!
だが、2人をさらに促そうとしたその時だった。
「その子らが行きたいって言ってるんだったら、階段でいいんじゃないか?」
「そうだよ! ユート君!」
「僕もそう思いますよ!」
「え?」




