814話 不渇の大河
常に雨が降り続き、視界も足元も悪い南の熱帯雨林地帯。ただ、俺たちは運よく晴れ時々小雨の時間帯に当たったため、非常にスムーズに進むことができていた。
敵もかなり強いんだが、そこはアミミンさんとマッツンさん、ソーヤ君が蹴散らしてくれる。特にマッツンさんの召喚モンスターが攻撃特化でメチャクチャ強いのだ。そこに、アミミンさんのモンスやソーヤ君の魔本が追撃し、高速で敵を殲滅していく。
いや、うちのモンスたちは補助系の面子ばかりだからさ? 全く活躍してないわけじゃないよ?
タンク役や回復、バフ、デバフでちゃんと戦いに参加している。マジで何もしてないのは、俺だけかな?
だって、テイマー本人がやられちゃったらマズいから、積極的に前に出る訳にもいかんし。アミミンさんはちゃんと戦いに参加してるだろうって?
弓の射程が凄いんだよなー。アミミンさんの弓の運用は射程距離に特化しているらしく、俺と同じ場所から普通に敵に届いていた。
しかも、特殊な矢を使っているようで、威力も結構高いのだ。敵がもう少し近づいてきたら、俺の水魔術が火を――水を吹くか? まあ、バッチリ活躍してやるんだけどなー。
因みに、アミミンさんの連れているモンスターたちは、ビッグコンドルの先生、カエルブシの武蔵、ストライカーコケッコーの小朝、デスヴァイパーの道三である。それに、マッツンさんが常時召喚しているファイアバードのライターが加わる形だ。
プレイヤーを入れて七人構成になってしまうが、アミミンさんがパーティ枠+1のスキルを持っているらしい。
ファイアバードはその名前の通り、マッツンさんの煙草に火をつけるのが主な任務であるという。
にしてもライターって……と最初に思ったが、愛煙家にとってライターは煙草の次に大事なものなので、むしろ大事にされているのかもしれない。
俺は大雨林を進みやすい面子に変えてある。ルフレ、ペルカ、サクラ、オレア、メルム、アイネだね。
特にメルム! 俺の頭の上で傘のように広がってくれるおかげで、濡れずに済んでいる。こういうことまでできるんだな。
そんなこんなで、道中の小川などを越えてドンドンと進んでいく。
晴れていて本当に良かった。雨が降っていると川も増えるし足下がぬかるむし、本当に大変なんだよね。
それにしても、エルフ組は妙に足取りがしっかりしているというか、ズンズン進んでいくね? 迷う素振りが一切ない。
「なあ、隠れ里がある方とは少しずれてるみたいだけど、このまま進んでいいのか?」
「え? あ! そうか! 白銀さんに説明してなかった!」
「そういえば! てっきりユートさんも知ってるものとばかり……」
「私たちが目指してるのは、大河を渡るための船着き場だよ!」
どうやらエルフプレイヤーには何かヒントが与えられているっぽい? 俺の言葉に、先を進んでいたみんなが振り返って説明してくれた。
エルフがというよりは、このフィールドを探索した者なら知っている情報だったね。真っ直ぐ進んでも、隠れ里のある場所へはたどり着けないんだとか。
マップの中央に不渇の大河という流れの急な川があり、これを越えるためには渡し舟を使う必要があるらしい。
「不渇の大河は強い魔獣が出るので、泳いで渡るのはかなり無謀ですね。僕も、フィルマさんが成功した以外じゃ、泳いで渡れた人を知りません」
「おー、さすがフィルマ」
「川の中で凶暴な魚と戦う動画、凄く迫力ありましたよ」
「後で絶対に見よう」
そんな風に会話しながら森林を抜けると、確かに大きな川があった。
「これが不渇の大河です!」
このフィールドでは、雨の降り方によって川が増えたり減ったりすることがある。ただ、水量の変化はあっても、絶対に干上がらない川がいくつかあった。ここはそんな川の中でも、特に大きい場所であるらしい。
「渡し舟はランダムで出現するので、まずは下流側へと移動しながら探しましょう」
天気や時間帯で、渡し船の船着き場のある場所が変化するという。川沿いにあるとはいえ、マップを横断する長い川だ。探すのは結構骨が折れるかもしれない。
他のプレイヤーも同じように考えたんだろうね。しかし、渡し船に乗ることを面倒くさがって泳いで渡ろうとすると、大河の餌食になるってわけだ。
不渇の大河は確かに川幅が広いうえ、台風直後の川みたいな濁流である。しかも魔獣が出るというんじゃ、普通のプレイヤーが泳いで渡るのは無謀を通り越して自殺行為だろう。
「あれ? でも……」
そこで、思い出す。今日買ったばかりの船のことを。ラヴァメタルの船なら頑丈だろうし、モンスターがいる急流でも渡れるんじゃなかろうか?
「なあ、俺の船を使えば、簡単に渡れるかもしれないぞ?」
「あ! もしかして、溶岩の川で使っていたやつですか?」
「そうそう」
ソーヤ君、俺が溶岩に船を浮かべてあたふたしてたところから見ていたらしい。まあ、話が早くていいか。
アミミンさんたちも賛成してくれたので、俺は溶岩船を取り出して川に浮かべた。
「これはいいねぇ。色々な場面で役立ちそうだ」
「もっと大きいのはあるのかな? あったら欲しいな」
「やっぱりこの機能は凄いですね!」
この船に驚くってことは、アミミンさんたちは炎海の町をあまり探索してないっぽいな。まあ、鍛冶とドワーフの町なんて、エルフ的にはあまり魅力的じゃないだろう。
そう思っていたら、ソーヤ君も驚いてる? 聞いてみると、確かに鍛冶屋へと行けば特殊な船は購入できる。だが、一番小さいサイズの船しか購入できず、2パーティが乗り込めるものはシルバーサラマンダー号しか見たことがないらしい。
あと、俺が使っていたラヴァメタル製の釣具も他では売っていないようだった。さすが路地裏の隠れ家的お店。品揃えが一味違っていたか。
「フムムー!」
「ペペーン!」
楽しげなペルカたちに続いて、俺も船に乗り込む。
「よいしょ。なんか、溶岩の上よりも船が揺れるか? うん? ブクブクっていう音がするけど……」
「ペ、ペペーン!」
「フムー!」
「2人ともそんな慌てて――え? ちょ、沈んでるんだけどっ!」
ふ、船がすんごい勢いで沈んでるぅぅぅ!




