812話 集まるエルフたち
「すげー! ソーヤ君強ぇぇ!」
「ふふふ、そうでしょう! 魔本、凄いでしょ!」
魔本じゃなくて、それを完璧に操るソーヤ君を褒めたつもりだったんだが……。まあ、ドヤ顔しとるし、言い直すのはやめておこう。
それに、魔本も本当に強かったからな。
魔本というのは、属性攻撃を詠唱なしで一瞬で放つことが可能な代わりに、威力が低いことや、使用する度に耐久値が減ることがネックだった。そのため、補助道具以上の評価は受けていなかったんだが……。
ソーヤ君の新職業である魔司書は、魔本のデメリットを克服できていた。
まず、魔司書には今まで以上に魔本を生産、強化する技術が充実しているらしく、一段上の魔本を作成可能だった。
結果、上級魔術並みの攻撃を放つ魔本を用意することができたのだ。
さらに、魔司書は本の耐久値を回復するスキルも持っており、本をいくつか用意して使い回し続ければ、長期の冒険でも耐久値を気にせず攻撃が可能なのである。
さらにさらに、魔司書には装備した本を浮遊させ、操る能力があるのだが……。これのお陰で、魔本を2つ装備可能だった。
浮かせた本と手に持っている本で、魔本二刀流ってわけだね。これにより、魔本の攻撃を通常の2倍放てるのである。浮いている本を相手の背後に回らせることで、二方向から一人挟み撃ちもできるし。
ともかく、魔司書の操る魔本はメッチャ強かった。炎海の町の周辺の敵相手でも、弱点を突けば大ダメージを与えられるほどだ。
この時点で十分強いんだが、さらに栞の効果もあった。魔本に栞を挟むと、アクセサリーのような効果を発揮する。魔本の性能強化や、装備者のステアップなど、色々な効果があるらしい。
ソーヤ君は魔本の耐久上昇効果を愛用しているのだが、栞を色々つけかえれば、戦術の幅が広がるだろう。
ああ、溶岩地帯でも魔本が燃えてしまうようなこともなく、問題なく使えていた。まあ、これで使用不可能だったら、魔本が不遇過ぎるしな。
これ、俺たちの護衛とかいらなかったよね? ただの見学になってしまったぜ。
「お付き合いいただきありがとうございました。モンスちゃんたちと一緒に探索できて楽しかったです」
「こっちこそ面白かったよ。ソーヤ君はこれからどうするんだ?」
「特に決めてませんけど、ユートさんはどうするんです?」
お? これはもしかしたら、誘えるんじゃないか? ジェミナに貰った通行証があれば、南のエルフの隠れ里に入れるはずだ。
当然、ソーヤ君なら絶対に興味を示すはずである。俺たちだけじゃ心細かったので、できれば付いてきてもらえないかなーって、密かに考えていたのだ。
「実は――」
俺が軽く説明すると、ソーヤ君がメチャクチャ乗り気になってくれた。やはりエルフの隠れ里は魅力的であるらしい。
「いきましょう! すぐいきましょう!」
「お、おう。そうだな」
むしろソーヤ君に引っ張られるようにして、俺たちは南へと向かった。ただ、まだ南では隠れ里は見つかっていない。そこで、まずは南の第11エリアにある隠れ里から探さねばならなかった。
南は大小の川が無数に流れる、熱帯雨林だ。エルフの都市エルファンで、雨避けの結界や川を渡るためのアイテムを購入する。小さな持ち運び用の橋が売っており、これを使うと小川を簡単に渡れるのだ。5回しか使えないので、複数購入しておく。
そうして準備をしていると、俺たちは意外な人物と遭遇していた。
「ユート君?」
「え? あ! アミミンさんじゃないですか! お久しぶりです」
トップテイマーのアミミンさんである。弓を背負った金髪エルフさんの周りには、たくさんのモンスターたちがワチャワチャしていた。
見たことがないモンスターばかりだが、うちの子たちと親し気だ。進化して姿が変わっているだけで、以前にも一緒に冒険したモンスターたちなんだろう。
鑑定すると、知った名前ばかりだ。
スピードコンドルの先生、カエルブシの武蔵、グラップラーコケッコーの小朝、ヴェノムヴァイパーの道三、ジャイアントトータスの小遊三である。
オレアの鎌の上に大きな鷲が止まり、サクラと二足歩行のカエルがペコリと頭を下げ合う。人のような体型の鶏とペルカが「コケッ!」「ペペン!」とハイタッチし、デッカイ紫色の蛇の頭をルフレがツンツンしていた。巨大な亀はマイペースに欠伸してる。
「2人も、隠れ里の探索?」
「2人もってことは、アミミンさんも?」
「うん」
ドワーフや獣人の隠れ里があるってことは、エルフの隠れ里もあるだろうと考え、マッツンさんとともに探索にやってきたらしい。
アミミンさんはエルフだし、マッツンさんはダークエルフ。ともに、エルフの隠れ里で転生できるはずなのだ。
でも、これは俺たちにとって非常にラッキーな出会いなんじゃないか? ソーヤ君を振り返ると、コクコクと頷いている。俺と同じ考えであるようだ。
「じゃあ、俺たちと一緒に探索しませんか? 実は、エルフの隠れ里の通行証持ってるんですよ」
いつもなら寄生を申し訳なく思うところだが、今回は通行証がある! 心置きなく、チームに誘えるのだ!
「ええ? す、すごいですねっ! でも、私たちでいいの?」
「そりゃぁ勿論です!」
むしろ、これ以上頼もしいパーティメンバー、他に居ませんから!
「じゃあ、マッツン呼んでくるね!」
ということで、トップテイマーのアミミンさんに、トップサモナーのマッツンさんと言う超頼もしい仲間を手に入れたのだった。




