810話 マグマにドボン
「デビ!」
「フマ!」
「どうした――ペ、ペルカァァ!」
「ペ、ペペー……」
ペルカの竿が今まで以上にしなり、その体がズリズリと引っ張られ始めていた。何か大きい獲物がかかったらしい。
竿と糸がメッチャ暴れている。俺がもっと大きい魚が欲しいとか、考えてしまったせいか? つい直前まで、俺の差し出した刺し身を食べて喜んでいたのに!
「ペペーン!」
「頑張れペルカ! みんなも助けてあげてくれ!」
「デビー!」
「フマー!」
「ヒムー!」
ペルカ、アイネ、リリス、ヒムカの順に並び、ペルカを引っ張り始めた。俺もヒムカの後ろについて、パワー全開である。
「頑張れ! オーエス! オーエス!」
「デービーデービー!」
「フママーフママー!」
「ヒムー!」
さすがにこの人数はいらないか?
「フムー」
俺の隣にいるルフレがちょっと呆れた目で見てる気がする。でも、みんなで一緒に何かやるのが楽しいんだから、これでいいのだ!
「ペペペーン!」
「やったぁぁぁぁ!」
針先の魚と格闘すること2分。
短いようで長い2分だった。川に引きずり込まれたら即死亡だからね。結構緊張感があったのだ。
「でっか! ていうかエイじゃん!」
「ペーン!」
ペルカが釣り上げたのは、巨大な赤いエイだった。朱色の体に、橙色の縞模様が入っている。アカエイってことなの?
しかも、ペルカよりもデカいんじゃないか? そりゃあ、引きずられるわ。
名前はラヴァスティングレイ。名前カッコいいな! 食用になっているから、普通に食べられるようだ。エイヒレ的なことか?
「「「おおお~」」」
橋の上でこちらを見ていた大勢のプレイヤーたちが感嘆の声を上げ、パチパチと拍手をしてくれた。見学者、増えてないか?
あれだ、リアルでも橋の下ででっかい鯉を釣ってる人見たら、足を止めてみちゃうやつ。あれと同じなのだろう。
「ペペーン!」
ペルカが釣り上げた大きなエイを持ち上げて、野次馬たちに見せてあげている。溶岩の中から釣り上げた魚ということで、プレイヤーたちも興味津々なんだろう。
鈴なり状態でこっちを見下ろしている。欄干ないんだから、気を付けてよ?
「ペギャー!」
「ど、どうしたペルカ!」
「ペペーン!」
ペルカが急に叫んで、掲げていたエイを地面に落としてしまった。当のペルカは蹲って唸っている。頭をヒレで押さえているな。
「頭がどうしたのか?」
「ペン……」
「うん? 毒?」
ペルカからは毒状態を示す紫色のエフェクトが立ち上っていた。すぐに消えたので、微毒だったんだろう。
「毒なんてどこで……」
「ペペン」
「ああ、エイも拾わないと」
「ペン!」
「ちょ、何すんだよ」
「ペン!」
俺がエイを拾い上げようとしたら、ペルカに手をペシンと叩かれた。そして、ペルカは何やらエイを指し示して訴えかけている。
「えーっと……? あ! もしかして、この針か!」
「ペン!」
ペルカが毒を食らったのは、エイの尾にある針に刺されたからであるらしい。よく見なくちゃ分からないけど、結構大きい針が尾の中ほどに付いていた。
やっぱりアカエイなんじゃん。
「教えてくれてありがとな。気を付けて扱うよ」
「ペペン」
「フムー!」
「うん? 今度はルフレか!」
「フムー!」
ルフレの竿にもヒットがあったらしい。皆で見守っていると、マグマカトラスフィッシュという魚だった。赤いタチウオだね。
「フムー!」
「「「おおー」」」
ルフレが橋の上の野次馬たちに魚を見せてやると、またしても歓声が上がる。
「フムムー!」
「「「おおー」」」
「ペペン!」
「「「おおー」」」
なんか、コール&レスポンスみたいになってきたぞ。というか、エイは仕舞ったのでペルカはもう何も持ってないんだが――。
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!」」」
「ちょ、なに?」
一際大きい歓声が! というか悲鳴みたいにも聞こえたが……。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「え?」
「ペン?」
「フム?」
お、落ちたぁぁぁ! 橋の上から人が落ちたんだけどぉぉぉ! 本当に悲鳴だった!
戦士風のプレイヤーが悲鳴を上げながら溶岩の川へとダイブしていた。ドボンという音とともに、ダメージエフェクトが立ち上る。
そして、男性はいつまでたっても浮かんでこなかった。
「……」
「「「……」」」
「ペン?」
「フムー?」
プレイヤー全員が黙りこくる静寂の中、うちの子たちの可愛い声だけが響く。お、俺のせいじゃないよね?
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いいたします
次回更新は1/8予定です




