809話 溶岩釣り
船から降りた俺たちは、改めて川の畔で釣竿を構えた。
竿は普通の竿でもいいらしい。ラヴァメタルの糸を装着して、ラヴァメタルのルアーを付ければ準備完了だ。
ただ、川に近づいたら、溶岩が急に飛び散った。イメージ画像でよくある、溶岩がボコッとなるあれだ。
「うぉっ!」
溶岩が数滴掛かっただけだが、装備品の耐久値が1減ったのだ。ダメージも1点くらってるし。冷え冷え君でも直接掛かったら防げないか。
まあ、溶岩がちょっとでも触れたのに、ダメージ受けるだけで済んでるのはゲーム的だよね。リアルだったらヤバかった。
「ヒム?」
「さすがヒムカ、今の大丈夫だったのか?」
「ヒム」
ヒムカは少しの溶岩くらいじゃノーダメージらしい。やはりこのフィールドでは頼りになりそうだった。
「じゃ、釣りをしてみるか」
「フム!」
「ペペン!」
とりあえず俺たち3人で釣り糸を垂らす。糸の消える先が溶岩の中じゃなければ、いつもの釣り風景だろう。
「なるほど。釣り糸の耐久値がちょっとずつ減るのか……」
何も釣れなくても1時間くらいで耐久値が全損するだろう。そう考えると、釣れる魚次第では損をするかもしれない。
「お? きたきた!」
「ヤヤー!」
「フマー!」
「デビ!」
結構強い引きだな! 大物か?
そのままリールを巻き続けること数秒。意外とあっさりと、溶岩の川の中からピョイーンと魚が上がってくる。
「マグマサーディン? イワシってことか」
釣り上げたのは、赤地に橙色の縞の入ったイワシだった。色味以外は普通のイワシにしか見えない。
まあ、白い煙を噴き上げて、メッチャ熱々な感じだけどね! ただ、マグマサーディンを触ってみてもダメージなどはなかった。
釣った時点で素材扱いになるのか? インベントリに収納してみる。すると、やはりレア度6の食材扱いであった。
「よし! もっと釣るぞ!」
「ペペン!」
「フム!」
俺に先を越されて、ペルカとルフレの負けず嫌い心に火が付いたらしい。気合を入れて釣りを再開した。
爆釣って程じゃないが、そこそこ釣れる感じ? ただ、マグマサーディンばかりなんだよね。
レア度6だからそこそこ価値はあるだろうが、小さいせいで量はあまりない。もうちょっと大きな魚も釣れないかな?
「お?」
これは、今までよりもグイっと来てないか? 引く力が強い気がする。
「やっぱ、強いぞ!」
「ヤヤー!」
強くリールを巻く俺を、肩に乗ったファウが応援してくれる。俺結構激しく動いてるけど、そこで大丈夫なの?
「ヤー!」
まあ、落ちても飛べるから大丈夫か。
「ぬおおおおぉぉ!」
「ヤヤー!」
「どりゃぁぁ!」
釣れたぞぉぉ! マグマサーディンよりもちょっと大きい魚だ!
「なんか、細長い……? あ、これマグマニードルフィッシュじゃんか!」
針の先でビチビチと跳ねている赤く細長い魚は、溶岩から飛び出して攻撃してくる謎魚ことマグマニードルフィッシュだった。
「ヤー?」
「ファウ! つついたら危ないぞ!」
「ヤ?」
「あれ? 平気なの?」
アコラの二の舞になる前に止めようと思ったら、ファウがつついても針先の魚はそのままだ。溶けてしまうことはない。
「えーっと?」
鑑定してみると、今回溶岩にならない理由が分かった。マグマニードルフィッシュは、川から飛び出す際に力を全部使い切ってしまうらしい。すると、形を保てず溶岩と化してしまうそうだ。
え? つまりこの魚って体が溶岩でできてるの? 魚型ゴーレムみたいな?
そう思ったが、普通に食用可能となっている。パワーを使い果たすと何故か溶岩になってしまう不思議フィッシュということか。
そして、釣った場合はパワーが残っているから、普通に残ると。
「釣ればよかったんだなー」
糸の耐久値も残り2割くらいだし、そろそろ釣りも終わりかな? ホームに戻って、釣った溶岩魚たちを料理したいね。
「戻る前に、ちょっと味をみておくか。それで作る料理も変わるもんな」
マグマサーディンは10匹近くあるし、1匹くらい捌いてみてもいいだろう。
俺はその場で簡易調理キットを取り出して、マグマサーディンを刺身にしてみた。普通に赤身だ。
「特別な効果はなしね」
捌いただけだと、特殊効果は付かないらしい。味を見てみる。
「ほれ、ペルカとルフレも」
「ペン!」
「フムー!」
味は、脂がのった美味しいイワシだった。それ以上でもそれ以下でもない。溶岩の中にいたせいであまり冷えてはいないけど、温い感じが逆にねっとり感を感じさせるっていうの?
悪くないのだ。
「デビ!」
「フマ!」
「どうした――ペ、ペルカァァ!」
「ペ、ペペー……」
リリスたちの歓声が聞こえたので振り返ってみると、ペルカの竿が一際しなり、ズリズリと溶岩の川に引きずられていくペルカの姿が見えた。
え? やばくない?




