808話 シルバーサラマンダー号
炎海の町を出た俺たちは、そのまま一番近くの溶岩川へと向かった。
門を出るとすぐに溶岩を渡るための石橋になっているんだが、袂の脇に川へと下りるための階段が付いているのだ。
メンバーは釣りということでルフレ、ペルカ、火に強いヒムカ、万が一の時に飛べるファウ、アイネ、リリスに変更している。
サクラやオレアは、溶岩の川に近づくだけでもちょっと怖いしね。
「さて、川べりまで来たけど、メッチャ怖いな」
「ヤー」
「ペーン」
マジで数メートル先を、グツグツと煮えたぎった溶岩がゆっくりと流れていくのだ。ゲームだから俺は熱く感じないけど、モンスたちは結構熱いらしい。
「みんな、これ使っておけよー」
「フム!」
「デビ!」
俺たちが使用したのは、町で売っている冷え冷え君という何とも言えないネーミングのアイテムだ。体にペタッと貼り付けると、30分間熱さへの耐性が付与されるという。
さすがに溶岩に触れればダメージを食らうが、近づく程度なら問題なくなるらしい。
「フマ!」
「アイネ、そこでいいのか?」
「フマー?」
「いや、自分の好きなところでいいけどさ」
ルフレやヒムカが腕に貼っている中、アイネは額に貼っていた。本当に熱が出た時に貼るアレみたいに見えるのだ。
邪魔じゃないのか?
「ヤー!」
「まあ、こっちよりはましか」
ファウは腹にベルトのように巻いている。小さいファウじゃ他に貼れないのは分かるけど、ちょっと腹巻っぽくてユーモラスだ。
「ヤ?」
「なんでもないよ。それよりも、熱くないか?」
「ヤ!」
「デビ!」
アイテムの効果はバッチリらしく、モンスたちは快適そうな表情だった。これなら溶岩の川に近づけるだろう。
「まずは船を試そうか」
「ヒム!」
「はいはい、浮かべる役は任せるから」
「ヒームー!」
俺が小型化した船を取り出すと、ヒムカがビシッと手を上げた。あれだけ欲しがっていたわけだし、自分で色々やりたいのだろう。
「では、シルバーサラマンダー号、進水式を行います!」
「ヒム!」
うん? 溶岩だから。進水じゃない? 進溶岩? 進炎? まあ、船だから進水式でいいか。
「ヒムー!」
「ララー♪」
なんか式典始まったな。
ヒムカが小型の船を高々と持ち上げると、ゆっくり川へと近づいていく。そりゃあ、俺もノリで進水式とか言っちゃったけど、ここまで厳粛にせんでも!
その背後では、ファウが表彰式の時とかに流れるアレに似た曲を演奏している。
さては、水臨樹の完熟果実を収穫する時の式典ごっこが楽しかったな?
「ペペー」
「デビー」
モンスたちも整列して、ヒムカを見送る。これ、俺も付き合わなきゃダメ? ダメですか。分かったから、引っ張るなってアイネ!
仕方なくモンスたちの列に一緒に並び、ヒムカが溶岩の川に船を浮かべ、小型化を解除するまでを見守った。
橋の上からめっちゃ見られてない? いや、気持ちは分かりますけどね?
橋の上を歩いていたら、なんか音楽が聞こえて、覗き込んだら妙な式典の最中だ。そりゃあ、見ちゃうよ。
「ヒムムー!」
「おおー!」
「「「おおー!」」」
ヒムカが船を大きくした瞬間、俺と橋の上の人たちの気持ちがシンクロした。思ったよりもでっかいんだもん。
「2パーティ用って話だったけど、かなり広いな」
ギュウギュウ詰めじゃなくて、余裕を持って乗る前提であるらしい。形状は流線型で、結構スピードが出そうだ。
タラップのようなものもしっかりついているので、そこから乗り込む。椅子はないけど、腰を下ろすことが可能なステップが4つ取り付けられていた。
船首に取り付けられた舵輪で動かすらしい。バックはできないっぽいね。
さて、いよいよ出航だ! さすがに運転は俺がしなくちゃいけないらしい。足元にはパッドがあり、これを踏むことで加速するようだ。
だが、俺が何かする前に船が大きく揺れ、そのまま動き出したではないか。
「え? まだアクセル踏んでないぞ?」
「ヒム!」
「ああ、溶岩の流れに乗ったってことか」
勝手に川下へと向かって流され始める船。しかも、結構速い。これ、ヤバくないか? 岩とか滝とかにぶつかりでもして転覆したら、一瞬で全滅だぞ?
船首を川上へと向けて、アクセルを踏み込んでみる。
「お、流されなくなったな」
むしろ、少しずつ川上へと昇り始めた。まだベタ踏みじゃないし、やろうと思えば上流へと移動できるかもしれない。
「これ、ヒムカは運転できるか?」
「ヒム?」
うむ、無理っぽい。だとすると、俺が釣りできないんだけど。
「とりあえず岸に戻ろう」
「ヒム?」
「溶岩クルーズも楽しいけど、これはまた今度な」
「ヒムー……」
遅れて申し訳ありません。
予約を失敗して、本来は18日に投稿するところをできておりませんでした。
次回以降は、12/25、1/1の更新予定です。




