807話 植物園
植物園の入り口はすぐに見つかった。壁沿いに進んでいると、大きな門があったのだ。
まあ、閉じてたけどね。ただ、その前に受付のようなものがあり、そこで入場料を支払えば中に入れるようだ。俺の場合はジェミナから話が通っていたらしく、無料で入れてしまった。ラッキーだね。
「うわー、スゲーな」
「トリー!」
「キキュ!」
門を一歩潜れば、そこはもう別世界である。石と溶岩の町とは思えない、小さな森が広がっていた。
そのまま細い通路を進んでいくと、鳥や虫の姿も見える。植物園の外にはいない様々な生物も、ここでなら存在しているらしい。
「キキュ!」
「あの果物か? ダメダメ! 勝手にもいだら怒られるから!」
「キュー」
「可愛くおねだりしてもダメ! あとでジェミナに聞いてみるからさ」
「キュ!」
あれはマンゴーかね? 遠目だと鑑定できないからな。
「ラー!」
「トリ?」
「ララ!」
「トリー」
こっちでは何をやっているんだ? アコラが何やら木にしがみ付いているな。それをオレアが頷きながら見ている。
どうやら、アコラ的抱き着き心地がいい木を見つけたらしい。それをオレアに教えているようだ。
教えて、何か意味あるのか? もしかして、木のお世話をしながら、形を整えたり? それとも、ただの情報交換?
生まれたばかりのアコラにも色々こだわりがあるんだな。
「フムー」
「ヒム」
「フマ!」
精霊三人組は、単純に植物園を楽しんでいるようだ。道中の池に咲いている蓮っぽい花を愛で、蝶や鳥を見て笑っている。これが植物園の正しい楽しみ方だよな?
そんなことを考えていたら、道の先に建物が見えてきた。
なんと、炎海の町では考えられない、ログハウス調の家である。ただ、北の島の別荘のような田舎っぽさはなく、お金持ちの別荘風のお洒落さがあった。
その入り口の前には、一人の男性が立っていた。この植物園の主、ジェミナである。
「やあ、いらっしゃい」
「どうも」
「きてくれて嬉しいよ。さあ、中へどうぞ」
出迎えたジェミナに連れられて、ログハウスの中へと入る。そこは売店のようだった。色々な草木の種や苗木が売っている。
「凄いな!」
「ぜひ買い物をしていってください。君の役に立つものもあるでしょう」
「はい!」
胡椒や甜菜、唐辛子の種もあった。砂糖などは今はもう店で買えるけど、自作したらより美味しいとかあるのか? まあ、手に入れてない種や苗は全部ゲットしておこう。
いくつかのハーブや、雑木扱いの桃、柿を購入できた。ただ、さすがに神聖樹とかはないね。
「トリ!」
「お? そっちはなんだ?」
「トリリ!」
「へぇ。ここで属性肥料と属性栄養剤が買えるのか!」
他には普通の肥料や薬草などの種もある。
鉢やプランターもあるし、ずっと眺めていられるな。まあ、肥料や栄養剤は、俺の場合は自分で作れちゃうけど。
「いや、聖属性の肥料は貴重だし、闇属性はもっと貴重か……?」
素材が結構貴重なんだよね。だったら、ここで大人買いしてしまうのもいいだろう。ということで、肥料類も色々買っておいた。作業量が減れば、他の生産も捗るしな。
それ以外にも、スプリンクラーや肥料を自動で撒いてくれる装置など、畑用の便利オブジェクトも多数売っていた。
うちにある道具よりも少しだけいいやつで、思わず買い込んじゃったよ。本当にちょっとしか性能は変わらないんだけど、オレアがおねだりするからさー。
俺のローブの裾を握って、ジッと見上げるのはズルいと思う。そんなの、買わないわけにはいかないでしょう!
「あっと言う間に1000万溶けたんだけど。やばくない?」
「トリ!」
「キキュ!」
ま、オレアたちが喜んでいるからいいか……。モンスたちの笑顔、プライスレス!
「楽しんでくれているようで何よりです」
「いやー、欲しい物があり過ぎて困っちゃいますよ」
「ふふふ。そんなあなたに、是非紹介したい人物がおります。会ってみませんか? とは言え、この場所にいる訳ではありませんから、紹介状を書くという形にはなってしまいますが」
おお? これは、このお店でのお買い物がフラグかね? ここで紹介してくれるってことは、植物栽培関係のNPCか?
ともかく、普通じゃ会えない人物なのは確かだろう。
「ぜひお願いします!」
「それでは、こちらをどうぞ」
ジェミナが提示してきたのは、封筒に入った手紙と、見覚えのある通行証だった。
「これは?」
「そちら、南にあるエルフの隠れ里への通行許可証になりますね。その先にある樹海の町。そこに、私の父と母が住んでいるのですよ」
「へー、ジェミナさんのご両親ですか!」
「父は農園を経営しておりましてね。農具の販売なども行っております。きっと気に入るものがあるでしょう」
「おー! それは楽しみです!」
ジェミナの一族は全員が植物に関係した職業に就いているし、期待ができそうだ! なんか、面白い農具とか、苗があるに違いない!
「よし! 南にいくぞ!」
「トリ!」
あ、でも、溶岩で釣りをしてからね?




